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私のフルネームなんでしたっけ?



 ── ガノルドの大きなベッドの上で向かい合って座っている私達。


「……レディア。何回目だ、このくだり」


 何回も同じことを繰り返して言う私に呆れ顔をしながらあぐらを組んで頬枝をついてるガノルド。


「薄々思ってはいたが、処女(バージン)なのか?」

「はあ!? いやっ、べっ、別に処女(しょじょ)じゃないし」

「そうか」


 あぁもう、なんっでこんなくだらない見栄張っちゃったかなぁ。素直に『処女です』って言えばよかったのに。かといって今更『うっそ~! 実は処女なんですぅ♡』なんて言えない。見栄張ったことがバレるのも嫌だし、なにより『ククッ、処女なのか?』みたいな感じで小馬鹿にされるのも癪に障る。


 そもそも処女の基準ってなんなの? って話だし。最後までシた経験がないってだけで、それなりの行為はしてきたわけだし……? だから処女じゃない(・・・・・・)っていうのは、あながち間違ってはいない……はず?


「ガノルド様がどうしてもって言うなら私はそれに従うしかないけど、いきなり今日っていうのはっ」

「それも何度も聞いた」

「ちゃんと分かってます!?」

「分かっている。要するに今日はヤらないと言いたいんだろ? 何遍も同じことを言うな。さすがに飽きる」


 呆れ返って真顔で私を見つめてくるガノルドにジト目で対抗する私。このにらめっこを制したのは、ガノルドだった。


「……自分で決めたことなのにあれこれ言いすぎてるし、我儘なのも分かってます。ごめんなさい」

「珍しく素直だな」

「私はいつだって素直な子なの!」

「そうか」


 ケヤンを助けるために自らこの道を選んだ。契約書をしっかり読まなかったのも私の落ち度でしかない。なのに、あれもダメこれもダメなんて本来まかり通るはずがない。それを許してくれてるのは、ガノルドの優しさなんだと思う。


「──がないの」

「ん?」

「そういうこと、最後までシたことがないの」

「……そうか」


 微動だにしていなかった大きな尻尾が上下に揺れて、マットレスをペチペチ叩いている。心なしか機嫌の良さそうなガノルドに疑問符が浮かぶ私。まあ、機嫌が悪いよりご機嫌麗しくいてくれたほうがいいし、『そうか』の一言で済んだのは非常にありがたい。


「だからなんて言うか、上手にできないかもっていうか……そもそもガノルド様のガノルドJr.(モノ)のが入らなっ」

「レディア、皆まで言うな」

「え、ちょっ!?」


 ガノルドの大きな体と尻尾に包み込まれて、ふかふかのマットレスがギシッと軋みながら倒れた私達を優しく受け止める。


「寝るぞ」

「へ? なにもシないんですか?」

「お前が来てから寝不足でそれどころじゃない。寝る」

「あ、ああ、そうですか……では、おやすみなさい」

「ん、おやすみ」


 ガノルドに包み込まれてるのが妙に心地よくて、秒で夢の中へレッツらゴーした私であった。


 ── 翌朝、目が覚めると変わらずガノルドの腕の中にいた私。ゆっくり顔を上げると私を見ていたガノルドと目が合って、なぜか額にキスを落とされ『うん、なんで?』と思考停止状態。


「おはよう、レディア」


 なに、この少女漫画的な甘い展開は。


「お、おはよう……ございます」

「よく眠れたみたいだな」

「ええ、まあ、とても」 

「寝相は悪くないし、静かな寝息を立てて大人しく眠っていたぞ。やはりあれは嘘だったのか?」


 え? なんのこと……? ってああ、一緒に寝るのが嫌すぎて適当なこと言ったな、たしか。


「あはは……。そんなことよりガノルド様はよく眠れたの?」

「ああ、こんなにも目覚めが良い朝を迎えたのは初めてだ」

「はあ、そうですか。それならよかったです」

「お前の匂いは特別だな。興奮もするしリラックスもできる」


 あの、そんな涼しい顔で言うセリフでもないような気がしますけど? ていうか、私の下半身辺りで主張してる熱を帯びて硬くなってるモノって……なぁになぁに?


 まあ、言わずもがな。


「あ、あの、当たってるんですけど……」

「生理現象だ、気にするな」


 いや、気になるでしょ! こんな大層ご立派に逞しく主張しすぎてるガノルドJr.をスルーしろってほうが無理でしょ! とにかく離れ……たいのに私を離すまいと尻尾でがっちり拘束してくるガノルド。


「ちょっ、離して! あんたの尻尾どうなってんのよ、蛇か! てか、めっちゃ当たってるんですけど!」

「そう興奮するな、匂う」

「“臭い”みたいな言い方するのやめてくれません!?」

「そうじゃない。香りが増す、性的興奮はするな」

「してねぇよ! もうっ、離して! この変態!」

「変態ではない」


 無駄な抵抗を必死に続けて屍寸前の私、それを見て満足げなガノルド。そして、いつの間にやら私達を傍観していたユノが大きなため息を吐きながら近寄ってきた。


「朝からイチャイチャを見せられる私の身にもなってください」

「イチャイチャしてるように見えたなら眼科もしくは精神科へ行ってください、今すぐに」


 ようやくガノルドから解放されてベッドの縁に腰かけると、しれっと隣に座って、尻尾をクルンッと私の腰に巻き付けてきたガノルド。“手に入れた獲物は逃がさない”みたいな? 本能的なやつなのかな、これ。


「はて、がんか? せいしんか? なんのことやら。まあ、その調子なら初夜のほうはっ」

「だぁぁーー! 言うな! なんっもシてないし! ていうか、ユノさんがあんなものケヤンに渡すから喧嘩になったんですけど? どうしてくれるんですか、サイテー」

「はあ、それは私のせいでしょうか?」

「……3割、いや、4割くらいはユノさんのせい!」

「知りません。そんなことより1週間後、レディア様の披露パーティーを開催することに決定いたしました」


 へ? 私の披露パーティー? いやいや、わざわざそんなのしてくれなくても。する必要なくない? 面倒だし、難癖つけられそうだし。むりむり、ダルすぎ。


「貴女でも分かるように説明いたしますと、シンベルデノ帝国 皇帝 ガノルド・ラフマトスホユールの正妃になるレディア様を同盟国の王や各(おさ)達に披露する大切な場、と思っていただければ結構です」


 なにそれ、めんど。同盟国だの何だの分かんないし。たしかケヤンがあれこれ言ってたな。元々一つ一つの小さな国だったのが吸収? されて今のシンベルデノ帝国になったとかなんとか……? 私そういう歴史的なこととか苦手だし、知識不足が否めない。仕組みとかちんぷんかんぷん。


「この1週間で必要最低限の知識と常識を叩き込みます」

「……今なんと?」

「覚悟をしっかりお持ちください」

「辞退します」

「馬鹿ですか?」

「馬鹿って言うほうがっ」

「ユノ、レディアはレディアのままでいい」


 ・・・これは胸キュンポイント高くない? ありのままでいろってことでしょ? いいこと言うじゃん、ガノルド。


「ガノルド様……」


 名前を呼びながら見上げると、少し口角を上げて微笑んでるガノルドと目が合った。


「レディアに教養など最初から期待していない」

「おい、胸キュン返せ。尻尾の毛、全っ部むしり取るぞこらって、ぶはぁっ!」


 腰に巻き付いてるガノルドの尻尾が私の顔を容赦なくワシャワシャと撫でてきた。それをベシッ! と振り払って睨み付けると、大変ご満悦そうな様子のガノルドに死んだ魚の目をする私。


「レディアは着飾る必要などない」

「はぁ。ガノルド様、恥をかくのはレディア様ですよ? よいのですか、それでも」

「……そうか。なら仕方ない、ユノに任せよう」

「裏切り者」

「そう言うな、仕方ないだろ」


 私に恥をかかせるわけにはいかない……とか本気で思ってる? 恥をかきたくないのはガノルドとユノでしょ。こんなガサツな女を妻に迎え入れたって思われたくないだけじゃない? まぁ別になんでもいいんだけど。


「はいはい、やりゃあいいんでしょー?」

「貴女には不貞腐れる権利すらありませんけどね」

「は?」


 ・・・わかってる、分かってるけどさ。何回も言うけど、たしかにこの道を選んだのは私だよ? 自分で決めたことだから、つべこべ言ってないで指示に従っとけよって話かもしれないけど、冷静に考えたら卑怯じゃない? 私はガノルドの正妃になるのも側妃になるのも断ってて、あの状況で『俺の正妃になるなら処分は決めていい』なんて言われたら、そりゃ正妃になることを選ぶしかないじゃん。人の良心的な部分につけ込んできて、挙げ句“何もできないしょうもない女”扱いとか、そりゃ不貞腐れるでしょ。だいたい異世界人ですけど? 私。この世界の常識だの知識だの知るかっつーの、めんどくさ。


「ユノ、その辺にしておけ。レディア、朝食をっ」

「お腹空いてないんで要りません。もう戻っていいですか、じゃ」


 私が不機嫌だっていうのを察してくれたのか、ガノルドは私を引き止めなかった。ガノルドが引き止めない以上、ユノが引き止めるわけにもいかないのか、私はすんなり自室へ戻ってこれた。


 すれ違ったメイドや衛兵達は、一応ガノルドの正妃になる私に軽く会釈はしてきたけど、『おはよう』って挨拶しようとしたらそそくさ退散された。なんかまぁ会釈すら嫌々っていうか、かなーり不服な感じが露骨だったわ。ま、それもそうか。敵対国の女が正妃になるなんて本来ありえないよね、そんなの嫌に決まってる。いや、そもそも敵対国の者でもないんだけどね、私は。


「はぁーあ。ケヤンと喧嘩するわ、ガノルド達とギクシャクするわ。なんでこうなったかなー。まぁ大半は私に非があるんだけど」


 だいたい厚待遇なわけだし、めちゃくちゃ不満ってわけでもない。ガノルドは妙に優しいし、多分だけど悪い奴ではない。私のことを好きだの愛してるだのってわけじゃ決してないけど、程々に大切にしてやるか……みたいな雰囲気は伝わってくるっていうか。まあ、一応自らが決めた正妃なわけだしね。そりゃ多少なり大切にはしてくれるでしょ、きっと。


「……よし、女に二言はない。うだうだ言ってないでまずはケヤンと仲直りしなくちゃ。ガノルドとのことはその後でいい。やればできる子なのよ、レディア、レディア……てるてる、いや、うぃんしあ」


 ・・・あの、ところで私のフルネームってなんでしたっけ? いやぁ、英語とかそういうの苦手でさぁ、ははは! えーっと、レディア……うぃず、しあ、うぃん。


「レディア・ウィズシアウィン……いや、絶対違うだろこれ」

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