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一夫多妻から一夫一妻制へ



 ──『側妃はもういない』


 ははっ、えっと……きっと、きっと聞き間違いだよね……? そうに決まってる、だって一夫多妻の国だよ? そんなのね、ありえないよね。そもそも私が外出してた約2時間で、そんなことが起こるはずない……よね?


「……えっと、はい? 今なんと?」

「側妃はもういない」

「いや……いやいやいや、はあ!? なんで!?」

「勃ちが悪い」

「は? なんの?」

「ペニッ」

「だぁぁーー! それを言うな!」

「聞いてきたのはレディアだろ」


 いやいや、やばくない? 絶対に私のせいだよね。ガノルドJr.ご健在かと思って一安心してたのに、全っ然ご健在じゃなかったんですけど!? これ、私が死んで許される問題でもないような……うん、私の命じゃ足りませんわ! 自分でこんなこと言わなきゃなんないのは虚しいけど、私の命じゃ全然足りるわけがないわ!


 ど、どうしよう。とりあえずAVとかないわけ? ドえろいAVとかないの!? もしかしたらAVでガノルドJr.完全復活! なんてこともあるかもしれないじゃん? ね?


 ・・・ダメだ、全く現実的じゃない。


「あ、あのぉ、具体的にぃ、そのぉ、勃ちが悪いぃ……とは?」

「他の女では勃ちが悪い、気も進まない。もとい気が乗ったことなど一度も無いが」


 へ、へえ。あらそう。んーっとそれはつまり精神的な問題ってこと? 私の蹴りは無関係ってことでよろしい? よろしいよね、うん。


「っていやいや、そんなの一時的な問題かもしれないですし、今すぐ側妃さん達を呼び戻したほうがよろしいかと。だいたい側妃さん達がいなきゃ誰があなたの面倒を見るんですか」

「お前がいるだろ」

「へ?」

「レディアがいれば問題はないだろ」


 いや。問題しかねぇよ。これは何としてでも側妃達を呼び戻さねば!


「側妃をいきなり辞めさせるのは如何なものかと。なんて言うか……ほら、政略結婚的なやつとか訳ありで~とか、相手側にはそういう諸事情みたいなものがあるんじゃないの? あなたはよくても相手側は困るでしょ。不当すぎない? だからっ」

「問題ない」

「問題""しか""ない」

「普通に過ごせば不自由ない程度の金は十分に渡した」


 ははぁん、なるほど? お金で解決させたパターンのやつね。でも、こういうので引き下がらない女が陰でコソコソと悪巧みして……みたいなパターンはあるあるでしょ。そんなの勘弁してほしい、巻き込まれたくないし。ていうか、絶対また狙われるじゃん、私!


「ガノルド様のことを本気で愛していた側妃があまりにも不憫でなりませんわ」

「俺は愛してなどいない」


 おい、頼む。そんな曇りなき眼で私を見るな。やめて、まじで。即答すな。


「……ま、まぁ私も人のこと言えた立場じゃないですけど、よくもまあ何とも思ってない女をあっちもこっちも抱けますね」

「行為に気持ちなど必要ないだろ、欲さえ吐き出せれば。俺に抱かれたい女も気持ちなどない。俺の正妃になって全てを手に入れたいという欲の為だ」


 スーパードライだな、この種族は。恋愛(・・)っていう単語存在してます? 結婚は基本、愛し合ってするものだっていう概念あります? ま、あるわけがないか。だってガノルドは私を正妃にするんだし、それが答えでしょ。


「いや、まあ、そんなのはいいとして。わざわざ辞めさせなくてもよくない?」

「人族では一夫一妻制が支流なはずだが」

「え、ああ、まぁ多分……?」

「『私だけを愛してくれない男なんて要らないの』と言ったのはレディアだろ」


 ・・・あー、そんなことも言ったような言ってないような。ていうか、一夫多妻制から一夫一妻制って、そんなしれっと変えても大丈夫な制度なの?


 私の一言で一夫多妻制から一夫一妻制へ! なんて荷が重すぎるわ!


「あの、大丈夫ですよ? 私のことは愛してくれなくても。なのでお互い自由にやりましょうよ。ね?」


 と言ったことを秒で後悔した。皇帝様、ご乱心の巻! が再び訪れそうな予感しかない。眉間にシワを寄せて物凄い不機嫌オーラを放っているガノルド。どの言葉がどう気に障ったのか、分からぬ。


「やはり他に男がいるのか?」

「え?」

「他に男がいるのか、と聞いている」

「は? い、いえ、いませんけど……?」


 ズーンッと重苦しい空気と疑いの目を向けてくるガノルドに挙動不審感が否めない私。別に悪いことなんてしてないし、好きな人がいたらガノルドの正妃になるなんてことは絶対しない。だから、私がオドオドする必要もないんだけど、圧がすごいのよ圧が!


「俺はお前が傍にいればそれでいい」

「は、はあ……なんで私にこだわるのか理解不能ですけど」

「さぁな、俺にも分からん。だが、本能がレディアを求めている。ただそれだけのことだ」


 冗談でも嘘でもないって瞳が私の瞳の奥底を捉えて離さない。


「はぁもう、どうなっても知りませんよ? (人族)を正妃に選んだこと後悔しても」

「後悔などしない。後悔しているのはレディアのほうだろ?」

「なによそれ。ケヤンを助けたこと、後悔なんて微塵もしてないわ」

「……そうか、戻るぞ」


 ── ・・・いや、えっと、なんでぇ……?


「あの、皇帝だかなんだか知りませんけど、はっ倒しますよ。まじで」


 側妃を抱いていた部屋とは別の部屋、多分ガノルドの主寝室的な部屋に連れ込まれてベッドの上に押し倒されています。


「相性は大切だろ」

「は? いや、知らんがな。だいたい私達の相性がいいわけないでしょうが! 体格差を考えてくださる!? それにこういうのは愛し合ってる者同士がすることなの!」


 ゆらりゆらりと揺れていたガノルドの大きな尻尾がピタリと止まって、心なしかシュンと落ち込んでるようにも見える。私の上から退くと窓際に移動して外を眺め始めたガノルド。私はその隙にこそっと逃げようと試みたけど、やっぱ後ろに目が付いているのか呼び止められた。


「レディア、今日からここで寝起きしろ」

「へ?」

「発情期のことはユノから聞いただろ? お前を傷つけるわけにはいかない。その時期以外は俺の傍にいろ」


 私もそうだけど、ガノルドも言い始めたら聞かない質だよね。まぁ別に一緒寝るくらいならいいかな、減るものでもないし一応夫婦になるわけだし。あまり避けるのもおかしな話だしね。


「……えっちなことしないなら、まぁいいですけど」

「“えっち”とはなんだ」

「性的行為のことですね、はい」

「そうか。嫌なことは嫌と言え、無理強いはしない」


 どの口が言うてんねん! あんたに2回も押し倒されてるんですけど!? まぁ未遂で終わってるけどさ、牢屋でのあれはギリアウトっちゃアウトでしょ。やっぱ無理、一緒に寝るなんて身が持たない気がしてならない!


「あのぉ、私めちゃくちゃ寝相が悪くてぇ」

「かまわん」

「イビキとかやばいですぅ」

「かまわん」

「寝遊病だから殴る蹴るの暴行も当たり前でぇ」

「かまわん」

「いやぁ、ガノルド様の睡眠を妨げるわけにはっ」

「何を言おうが結果は変わらないぞ、レディア」


 ・・・ああ、そうですか、分かったよ、わかりましたよ! 一緒寝りゃいいんでしょ!? 寝てやりますとも!


「私の許可なく触れてきたら、その無駄に長くて大きくてゴツいわりに綺麗な指を1本ずつへし折っ……て……」


 ガノルドの手に視線をやると、何か違和感を感じる。なにか、何かが違うような……? え、あ、爪、爪だ! 鋭くて長かった爪が短くなってる!?


「ちょ、あんたその爪」

「? ああ。レディアに触れた時、皮膚が薄いと思ってな。俺の爪ではその薄くて綺麗な肌を傷つけてしまうかもしれない。傷つけるわけにはいかないから切った」


 なによそれ……。不覚にも胸を弾ませてしまった、柄にもなくときめいちゃったりして恥ずかしい。このひとの言葉は良くも悪くもドストレートだからイライラもするしドキドキもする。結構厄介なのかもしれない。


「狼人族って爪、大切なんじゃないの?」

「いや、この姿では必要ない。気にするな」


『この姿では』という言葉に疑問符が飛び交って、その意味が気にはなったけど、そんなことより『お前の為に大切なものを捨てた』みたいなロマンチックな展開を何気に期待してた私の少し高ぶっていた気持ちが、スゥーッと消え失せて無の境地。


「へえ、そうですか」

「ん? どうした」

「いえ、別に。あの、もういいですか? ジェシーのところへ行きたいんで」

「ジェシーとはあの世話役の女か」

「はい」

「そうか、じゃあまた後でな」

「失礼します」


 軽く頭を下げて部屋から出ようと扉の取っ手に触れた瞬間、後ろからふわりと控えめに包み込まれた。『私の許可なく触れてきたら~』を少し配慮してくれてるっぽい。ガノルドは私の嫌がることは無理にしてこないって、謎な信用みたいなものがあって、あまり怖いって思わないっていうか思えない。押し倒されても平気っていうか、『怖い、気持ち悪い』ってならないんだよね。だから私も強気でいれるっていうか、私らしくいられる。


「これはえっち(・・・)なことではないだろ?」

「いちいち聞かないでくださいよ、そんなこと」

「レディアが嫌がることはしたくない」

「……ま、このくらいなら別にいいですけど」


 愛し合ってないとはいえ、夫婦になるって決めたんだから多少のスキンシップくらい必要だろうし、海外ではハグなんて挨拶みたいなものだしね、うん。この世界線でもハグはそういうものでしょ、深い意味はないよね。それに不仲より仲が良いほうが何かと都合よくない? そうそう、このくらいどうってことって……何を必死にこの状況に対する釈明をしてるんだろう、私は。


 ええ、認めますよ、ドキドキするの! 慣れてないの、こういうの! 妙に特別扱いされてる気がするし、大切にしようとしてくれてる感っていうのかな……? なんかもう、とにかくむず痒いのよ!


「他の男にうつつを抜かすなよ」


 耳元で甘い低音ボイスでそのセリフは完全にアウトぉぉ!


「……っ! 分かってますよ、そんなことは! 自分でガノルド様の妻になるって決めたんだから、浮気なんてするわけないでしょ。ていうか、浮気なんてしたら殺されるでしょ、私が」

「お前を殺しはしない。男は殺すが」


 ・・・うん、そんな気がしてたよ。期待を裏切らないね、あなたは。


 この男は躊躇なく殺しができる。私のせいで死者が出かねないっていうことだよね……? 笑えなーい。まじでシャレになんないから色々と気をつけないとな──。



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