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ところでガノルドJr.はご健在でしょうか?



「こちらがレディア様のお部屋です」


 私のことを『レディア様』と呼ぶようになったユノ。まぁ陛下とやらの正妃になる女を呼び捨てにするわけにもいかないのか。


「えぇ……いやぁ、こんな大層な部屋いらないんですけど」

「他種族なんて放っておけばいいものを、助ける義理も必要もないというのに」

「はあ? なにそれ。助けるのに同種族だの他種族だの関係あります? なくないですか。種族とかいちいち気にしてんの、あなた達だけなのでは?」

「では、私はこれで」

「え? ちょっ!?」


 いや、自分で話を振っておいてスルーですか? ていうか、この部屋の説明もないんかい! と心の中でツッコミつつ、大きなベッドにボフッと倒れ込んだ私は、かなり図太い神経の持ち主だったらしい。あっという間に夢の中へ(いざな)われたのであった──。


「── い。おーい、死んでんのか?」


 パチッと目を開けると私を覗き込んでる小鬼と目が合う。ほんの数秒だけ視線が絡み合い、覗き込んでた顔を上げながら私と少し距離を取る小鬼。


「私、どんだけ寝てた?」

「もう朝だぞ」

「わお、まじか。えっと、君いくつ? 名前は?」


 起き上がって眠い目を擦りながら小鬼を見ると、プイッと顔を逸らされてしまった。いや、私なにかした? 恩着せがましい言い方すると、私は一応君を助けたつもりだったんだけど。


「歳は13、名前はケヤン・フィゾー。つかオマエ、はだけすぎ」

「……あ、ごめん」


 はだけすぎた服を整えるとチラリとこっちを見たケヤン。大きなため息を吐いて後頭部をガシガシ掻いている。ていうか、この世界の小鬼って結構イケメンなんだなぁ。かっこ可愛いみたいな? 小鬼ってもっとこう人離れしすぎた外見してるってイメージだったけど、そうでもない。まぁ小鬼だなって感じは否めないけど。


「なんでオマエみたいな貧相でガサツそうな女を正室に選んだんだろうな、理解に苦しむ。物好きなのか? 陛下は」

「おいガキ、言葉遣いがなってないわね。年上とはなんたるかを教えてやろうか」

「いや、オマエに言葉遣いが云々なんて言われたかねぇし。つーか俺、許可なくここ入んなって言われてるからこれ秘密で」

「うわぁ、ユノさんに言いつけてやろうかなぁ~」

「ノックしても声かけても返事しなかったオマエが悪いんだろうが。何かあってからじゃ遅ぇだろ」


 ・・・生意気だけど根はいい子なのが丸出しね。こういう子は嫌いじゃない。


「ごめんごめん、ありがとう。私はレディア・ウィンテルシア、18歳。これからよろしくね」


 そう言って微笑みかけると、露骨に呆れた顔をするケヤンに笑みが徐々に引いていく私は、結局スンとした顔になった。


「……はぁ。オマエお人好しでお節介女そうだから忠告しといてやるよ。そんなんじゃいつか足元掬われんぞ、その甘さが命取りになるってこと忘れんな。じゃ、俺その辺にいるから」

「は? ちょっ」


 ケヤンが出ていった扉に枕を投げつけてやろうとしたけど、うっと堪えて窓際に移動すると、綺麗な街が一望できて純粋に素敵な場所だなって、そう思える。今日からここが私の居場所になるんだとか色々考えると、ワクワクもするしちょっと不安……って、おい私。何か大切なことを忘れていないか? なにか、大切な、何かを……あ、やば。


「やばい。これは、やばい」


 あの、えっとぉ、ところでガノルドJr.はご健在でしょうか? サァーッと青ざめていく顔、ガクガクと震えだす体。


「ま、まぁ相手は強靭な肉体の持ち主だしね? きっとガノルドJr.も強靭なはずだから、私の蹴りなんて痛くも痒くもなかった……よね?」


 うん、大丈夫大丈夫、大丈夫よ。なんて言い聞かせてる私の顔面は全くもって大丈夫そうではない。作画崩壊もほどほどに。


 何もしないでただぼんやりしてる……というか、魂が抜けかけてると言いますか、そんな状態の私はコンコンッと扉を叩かれる音で我に返り、気が乗らない声で返事をしながら目を向けると、扉の向こうにいたのはメイド服を着たジェシーだった。


「おはようございます、レディア様。本日からレディア様の身の回りの世話をするよう仰せつかりました、ジェシー・マニャーニと申します。よろしくお願いいたします」

「……え、あ、おはようジェシー。ていうか、そういうのはよしてよ。お互い柄じゃないでしょ? そんなの」

「ははっ、だよね~! じゃ、ふたりの時は今まで通りで!」


 それから湯浴みをして、着替えや化粧から何から何までジェシーが全てやってくれる。自分でできるんだけどなぁと思いつつ、これがジェシーの仕事だから奪うわけにもいかないよねって自分の中で折り合いをつけた。


「にしても、レディアがあのガノルド様の正妃になるとは驚いたよ~。まぁでも、子作りは側妃メインになるよね~。だって狼人族と人族の子とか前代未聞だし、レディアも嫌でしょ?」


 世継ぎ……か。そもそも私なんかがちゃんとした母親になれるとは到底思えない。親に捨てられて、親の愛情なんて知らずに育ったし、育ての親には性的な目でずっと見られてわけだし、歪んだ愛しか知らない。愛し方も愛され方も分からない。


 誰からも愛されたことのない私が、愛したこともない私が、ちゃんと子供を愛せるわけがない。そんな女が子供なんて産むべきではないでしょ。そもそも私には、幼い我が子を捨てた奴と同じ血が流れてる。だからきっと不幸にしてしまう、不幸にするに決まってる。


 自分の子すら育てる自信も愛せる自信もない女なんて、ガノルド(あのひと)はいらないでしょ。


「ごめん、レディア。わたし無神経なこと言っちゃったかな……」

「ううん、気にしないで。まぁ私がガノルド様の子を身籠る、なんてことはないんじゃないかな」


 愛し合って結婚するわけでもないし、人族(わたし)狼人族(ガノルド)じゃあ、その行為自体上手くできない可能性があるんでしょ? 側妃がいるわけだし、そっちで済ますんじゃない? そういうのは。別にそれでいいし、むしろそうしてって感じ。私はもう好きなひととしか、そういうことはしたくない。


「ていうかこのドレス、激しく似合ってない気がするのは私だけ?」


 可愛らしい女の子が着るようなフリフリふわふわしたドレス。私には死ぬほど似合ってないよ、これ。もっとこう、シンプルでシックなやつがいいんだけど。


「ガノルド様が自ら選んだって聞いたよ~?」

「へえ、そう……」


 激しくズレてない? あのひと。もしかして、嫌がらせだったり? うん、その可能性大。ほくそ笑むガノルドの姿が目に浮かぶわ。


「ガノルド様からしたら、レディアがこのドレスに似合う女に見えてるのよ~」

「だとしたら今すぐ眼科に行け」

「? でも実際とっても似合ってるよ? レディア可愛い~し」

「はは……そりゃどうも……」


 そして、ジェシーに連れて来られたのはダイニングルームだった。


「じゃ、私はここまでだから」

「そっか。ありがとう」


 ジェシーと別れて扉を開けると、華麗で豪勢な食卓が視界に入って、その先にいたのは大きな椅子に座ってるガノルドだった。


「お、おはようございます」

「よく眠れたか?」

「ええ、はい。それはそれはもう死んだようにぐっすりと」

「そうか。そのドレス、似合ってるな」

「あっ……ああ、どうも」


『あんたの目は節穴か!』ってツッコミそうになったのをゴクリと呑み込んで、苦笑いするしかない私。


 それからテーブルマナーとか全く分からないまま、とにかく無駄に音を立てないようにそれっぽく済ませて、食べた気もしないし味もよく分からなかった。贅沢な料理だったはずなのに、まだ牢屋で食べてた料理のほうが美味しかった……なんて口が裂けても言えまい。


「レディア」

「はい」

「後で俺の部屋へ来い。呼びに行く」

「あ、はい」


 ・・・まさか、昼間っからおっ始める気!? あ、でもガノルドJr.がご健在かどうかの確認はしておきたい。逞しく勃ってくれさえすれば私も安心だし、とりあえずそれを確認でき次第、何かと理由をつけて断ればいいしね。さすがに無理やりはしてこないでしょ、多分。


 それからとにかく暇で、こそこそじろじろと見られながらも帝城内を探索していた。無駄に広すぎる、迷子になりそう。


「レディア様。これを陛下へ届けていただけますでしょうか」

「え?」

「陛下が今すぐレディア様に持ってこさせるように……と」

「あ、はあ、そうですか」

「では、失礼いたします」


 お盆の上にはティーポットとティーカップが2つ。部屋で私とお茶でもするつもりなのかな? なんて思いながらもさっきとはまた別のひとが現れて、途中まで案内されるがままついて来たのはいいけど、『あの角を曲がった先にある部屋です』とだけ言われて放置された。最後まで案内してくれてもよくない? とか心の中でぶつくさ言いながら、ガノルドがいるであろう部屋の前まで来た。


 コンコンッと扉を鳴らして、何の気なしに大きな扉を開ける。


「あのー、失礼しま……す……」


 私も悪い、返事を待たずに扉を開けてしまった。たしかに私も悪いけど、なんなのこれ。


「あんっ♡気持ちいいっ、ガノルド様ぁ♡もっと奥にっ……きゃあっ!?」

「!? レディア、なぜお前がここに」


 いや、何を見せられてんの? 私。わざわざこれを見せつけるために私を呼んだわけ? 見られて興奮する的な? そんな男だったの? 悪趣味すぎて引くわ、まじでドン引き。


「失礼しましたー」

「おい、レディっ」

「ガノルドJr.がご健在なようで何よりですわ。では」


 渡されたティーセットを床に置いて扉を閉めた。スタスタ歩きながら無の境地になっていると後ろから腕を掴まれた。大きくてゴツゴツした手、振り向いて確認する必要もない。これが誰の手かなんて、分かるでしょ。


「なんですか」


 その手を振りほどいて振り向き様に睨みつけると、ただ真顔で突っ立ってるガノルドと目が合った。


「なぜあの部屋に来た」

「は? 呼んだのはそっちでしょ。なに、嫌がらせ? 悪趣味にもほどがあんでしょ」

「何を言っている」

「別にあんたが他の女を抱こうが何だろうがどうでもいいけど、わざわざ見せる必要あった? 信じらんない、引くわ」


 先へ進もうとすると、ガノルドがまた私の腕を掴んだ。別にどうだっていいけど、今さっきまでこの手で他の女を愛撫してたと思うと、色んなことがフラッシュバックして気持ち悪くなる。


「俺はっ」

「触んないで」


 自分でも驚くほど、酷く冷めた感情のない声だった。


 ガノルドは私の腕から手を離して、去っていく私を追いかけて来ることもなかった。こんなんで夫婦生活なんて上手くいくの? そもそもお飾り妻? いや、お飾りにすらならないじゃん。なんでお飾りにもならない私を正妃に選んだの? 意味分かんない。なんっのメリットもなければ、むしろデメリットしかないでしょ。


「君主の考えは死んでも理解できないだろうな」


 ま、セックスしてたってことはガノルドJr.はご健在だし、これで私の不安要素は無くなった。わざわざ私が確認することなく済んでよかった、助かったわ。ある意味あの状況を目撃できたことに感謝かな。


「はぁーあ、やめやめ。深く考えるだけ無駄でしょ」


 ガノルドが私を選んだ理由なんて、きっと私が何となく物珍しいタイプだったからってだけだろうし、飽きて捨てられるのも時間の問題。それまでのんびり適当に過ごして、この世界でどう生きていくか考えるか。


 ま、あのクソ妖精の治癒魔法(ちから)を不本意ながらも継承しちゃったわけだし、こうなっちゃったもんはもう仕方ないから、受け入れて生きていこう。この世界で──。 



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