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ガノルドJr.の安否と犯人の行く末(2)

 小鬼には何も言わず、ただうつ向いて握り拳を震わせている。言いたいことをうっと堪えて我慢してるような、そんな感じにも見える。


「何か言い残すことは?」

「弁解の余地もありません。ですが、弟だけは……どうかご慈悲を」

「なぁにが『弟だけは~』よ。小鬼の分際でふざけんな! アンタのせいでっ!?」


 バチンッ!! 気づいた時にはもう手のひらがジンジンと痛んで、でもそれ以上に胸が痛くて、どうしても我慢ならなかった。


「謝んなさいよ」

「痛いわね! 何すんのよ! 人族の分際でわたくしに平手打ちをするなんて! なんでアンタなんかに謝らないとっ」

「私じゃない、この子に謝れっつってんのよ! あんたみたいな奴見てると本っ当にヘドが出そうになるわ。自分の手は汚さずお金で何でも解決しようとして……挙げ句、この子のせいにして自分は関係ないって? 笑わせんなよクズ。どうせあんたが脅したんでしょ? この子の“弟”をダシにして。正室だの側室だの、あんたには到底無理よ。自分の(ツラ)、鏡でちゃんと見たことある? 性格の悪さが滲み出てんのよ、歪みきったその性格がね。正室だの側室だのになりたいってほざく前にその腐った根性叩き直してこいよ、卑怯な真似すんな」

「……っ!! こんのクソアマがぁぁ!!」


 私を殺そうと暴れ始めた女を衛兵達が押さえ付けて、身動きが取れない状態になっている。それを見ても何とも思わないっていうか、女が騒ごうが苦しもうが正直どうでもいい、自業自得でしょそんなもん。でもまぁ、私がこの世界に来たせいでこうなってるのもまた事実なわけで、ちょっと罪悪感はある。


「……なんで人族が小鬼の俺を庇う」

「え、別に? 庇うも何もほっとけないからよ。理由なんて特にない。本当はこんなことしたくなかったんでしょ?」


 私はたくさん見てきた、権力に逆らえず権力者の駒になる子達を。そして、私もその一部だった。私は上手いことやれるタイプだったから、逃げたいと望んだ子は逃がしてやってた。それでも次々と被害者は量産される。なんかもう全てがダルくてめんどくて、なにやってんだろうって馬鹿馬鹿しくて。


 結局、どの世界もどの時代も“力”が“正義”。弱い者は強い者に巻かれて生きていくしかない──。でも、私はそんなの性に合わない。相手が誰だろうがなんだろうが私は私らしく生きる、もう何もできない子供じゃないんだから。


「俺はオマエを殺そうとしたんだぞ」

「ま、生きてるしギリセーフじゃん? で、理由は? 理由もなく殺しなんてしないでしょ、君。何となくそんな気がする」


 ── この後、小鬼は涙ながらに語った。お金を積まれて私の暗殺を依頼されたが断った。更にお金を積まれて断ったものの弟を拉致られて『病弱な弟がどうなってもいいのか』と脅され、犯行に至ったと。


「この者達は斬首の刑に処す」


 はい? はあ!? いやいや、ユノもこの子の話聞いてたよね!? この子は脅されてたんだよ? “仕方ない”の一言で片付けるのは無理だってことは百も承知だし、そんな甘っちょろい世界でないことも承知の上だけど、今回は……せめて今回だけは結果論で何とかなんない?


「あの、ユノさん! そこまでしなくても……この子は逆らえる状況ではなかったはずです!」

「貴女を殺そうとしたんですよ?」

「分かってます。でも実際、私は何ともなかったわけですし……逆の立場だったら私だってきっとそうした、この子はただ自分の大切なものを守っただけよ! 誰だってそうするでしょ?」

「命は平等ではありません」

「……は?」

「貴女の命には陛下が自ら選んだ(・・・・・・・・)、という価値(・・)があるのです」


 “命は平等”、これはよく言われてるよね。まぁたしかに平等よ、善人悪人問わず唯一平等に与えられてるものが“命”なんだから。だけど、私だって“命は等しく平等”だなんて、そんな綺麗事を言うつもりは一切ないし、悪いけどそんなふうに思ってもない。悪人と善人の命を平等に扱う必要はないと私は思う。じゃないと、あまりにも報われない者達が多すぎるから。


 命は平等じゃないって、ユノが言ってることを真っ向から否定はできない。でも、この子の命が奪われるのはどうしても解せない。元はと言えば私のせい、私が異世界(ここ)へ来なければこんなことにはならなかったはず。全ては私のせい、そうでしょ? 


 この子が死ななきゃいけない、殺されなきゃならない理由なんて、本来何一つない。この子を守れるのはきっと、私だけだ。


「レディア」


 そう呼ばれて振り向くと、いつの間にかガノルドが私の後ろに立っていた。


「お前はどうしたい」 


 どうしたい……か。私の生き様なんて決して褒められたものじゃない。悪いこともした、後悔だってたくさんしてきた。過ちだらけ。


 未だに消えない後悔を時々思い出しては、罪悪感みたいな感情に押し潰されそうになる。児童養護施設を飛び出したあの日、私はクソジジイから逃げた。それが何を意味するか……“新たな犠牲者が生まれる”。考えるだけで吐き気が止まらない。


 私はあの日、施設の子達を見捨てたも同然。


「レディア、大丈夫か? 顔色が優れないようだが」

「……大丈夫です」


 もうあの世界じゃない、あの世界とは違う。この世界で私を理由に犠牲者なんて誰一人として出したくない。見捨てたくない、後悔なんてしたくない。


「私のせいでガノルド様に怪我を負わせてしまった。それは申し訳ないって本気で思ってる、すみません。でも、この子は死なせたくはない。そこの女だって私がいなければこんなことはしなかったと思う。だからっ」

「もういい、言いたいことは分かった。レディア、お前に選ばせてやろう。俺の正妃になればこの者達の処分はお前に任せてもいい」


 ・・・なるほどね、そうきたか。犯人の行く末は、私の判断に懸かってるってわけね? なんで私なんかに執着してるのかは分かんないけど、この男はどうしても私を正妃にしたいらしい。変わり者すぎるでしょ、やっぱ変態だわ。


 でも、それで丸く収まるのなら、この子を救えるのなら何にだってなってやるわ。


「……分かった、正妃だろうが何だろうがなってやるわよ」


 そう言うと一瞬目を見開いたガノルドは、『こいつマジか』みたいな顔をして私を見下ろしてる。予想外だった? いや、この選択肢を与えてきた時点でこの答えは想定の範疇だったでしょ。


「甘いな、お前は。あれだけ嫌がっていた縁談をこのような奴らの為に受けるとはな。自身の人生まで捧げて後悔はしないのか?」

「私のせいで死なれたら夢見が悪いの、そっちのほうがダルいわ。ただそれだけよ」


 ── それからガノルドやユノを交えて話し合った結果、首謀者の女は様々な罪が重なり終身刑、小鬼の子は私の護衛としてしばらく働くことになった。


 人族である私の護衛を快くしたがる狼人族がまずいないのと、狼人族に私の護衛を任せるのはリスキーじゃないか? とか、身の安全が確実に保証されないから危険では? ってなって、じゃあこの際小鬼でいいのでは? みたいな感じでわりとあっさりと決まった。あと、子供ながら狙撃手としての腕はなかなかで、どうやら身体能力諸々が高いみたいだから護衛に向いてるだろうって、そういう流れになって事なきを得た。


 これで一件落着、なわけにはいかない……かなぁ。

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