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いや、そんな壮絶な行為でしたっけ?



 そんなこんなで生きるために必要な要素、栄養を摂取すべく異世界料理を口にする決意をした。


「いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」


 異世界の料理ってもっとこう、とんでもないゲテモノなイメージがあったけど、めちゃくちゃ普通っていうかむしろ美味しそう。シチューにロールパンにサラダにフルーツまで、牢屋に閉じ込められてる囚人が食べさせてもらえるような食事では到底ない。ガノルドが気を利かせてくれてるんだろうな。


「あの、そんなに見られてたら食べづらいんですけど」

「いえ、私のことはお気になさらず」

「は、はあ……」


 ユノは私をジッと眺めて、とくに会話をすることもなく……って、喋らないならここに居座る必要なくない? なんか聞きたいこととか、話したいことがあっているんじゃないの? 勿体ぶってないでさっさと言ってほしいんだけど、めんどくさい。


「ユノ、私に聞きたいっ」

「私のことは最低でもさん(・・)付けするように。それと、ガノルド様を呼び捨てするなど言語道断。『陛下』もしくは『ガノルド""様""』とお呼びなさい」

「は、はあ。それは失礼こっ……」


『それは失礼こきまろ~』とかめちゃくちゃふざけたことを口走りそうになって、慌てて口の中へパンをぶっ込んだ。


「なんです? 行儀が悪い」

「ふいまふぇん(スミマセン)」

「はぁ。食事を終えた後、少しお話があります」


 話云々より私はお腹を満たしてお風呂に入りたい、切実に。


「あ、あの」

「なんでしょう」

「湯浴み……でしたっけ。体が気持ち悪くて洗い流したいんですけどぉ、ダメですかね?」

「はあ、そうですか。仕方ありませんね、準備させましょう」


 やっぱ何だかんだ言ってユノも非道ではなさそうな?


「ありがっ」

「誤解なさらないでください。私はあくまでガノルド様の指示に従っているまでなので」


 ガノルドに『好きなようにさせてやれ』とでも言われてるのかな。ま、ありがたいけど──。


 って、めちゃくちゃ入りづらぁ。監視役の女衛兵にジロジロ見られながら体を洗ってるとクスクス笑われるし、それはそれは散々だった。どうせ『なに、あの貧相な体~』とか言いたいんでしょ? 悪かったわね、あんた達みたいな爆乳じゃなくて! ていうか、あんた達みたいな体型、日本(あっちの世界)じゃ漫画かアニメでしか存在しないから!


 ・・・で、再び牢屋へ戻されて少しするとユノが戻ってきた。


「子供用のドレスが随分とお似合いのようで」

「はっ倒しますよ。だいたい私のこと何歳だと思ってるんですか、18ですよ? もう大人ですけど」

「ハッハッハッ。狼人族の女は10~13歳程度で今の貴女同等……いや、もっと発育がいいですが?」


 ニコォッと嫌みったらしい笑みを浮かべてくるユノにイラッとしながらも、ひきつった笑みをお返しした途端、スンッと真顔になったユノに殺意が芽生える。やっぱはっ倒したいわ、こいつ。いいかな? 私の拳が疼いちゃってるわ。


「はぁー。で、なんなんです? 話って」

「……単刀直入にお聞きます。貴女は一体何者ですか?」

「はあ? なんですか、いきなり」

「おかしいんですよ。行動も言動も容姿も含め、何もかもが」


 おい、そんな真剣な顔してしれっとディスんな。私のガラスのハートが傷つくわ、砕け散る前にやめてくれ。


「それにあのガノルド様が“女”に興味を示すなど、未だかつて一度もありません。よりによって貴女のような野蛮女にっ」

「ああもう! なんなんですか? ここの連中は! “人族を貶しまくろう大会~!”みたいなの今開催中です?!」

「いいえ、まったく。何を仰っているのやら」


 そんなジト目で見下ろしてくんのやめてくださる?


「……ああ、そうですか。じゃあなんですか、人を見下すのが随分とお好きな連中の集まりなんですか? 狼人族って。性格悪くない?」

「貴女がそのようなことを言える立場にありますか?」


 あんたらほど性格腐ってないっつーの! 口調が荒っぽいのは認めるし、まぁ教養だのなんだの無いのも認めるわ。でも、あんたらみたいに露骨に弱いものを馬鹿にするみたいの大っ嫌いだし、そんなしょーもないことしたこともないっつーの! 一緒にすんな、ナメんじゃねーよ馬ぁぁ鹿っ! アーホ! くそったれ! などなど、心の中で吠えまくった。


「……はぁー。まぁもう何でもいいですわ、この際」

「で、貴女の目的は?」

「は? いや別に、何もないですけど?」

「あの時なぜガノルド様の傍で眠りこけていたのか。それと不思議なことにガノルド様の怪我がほぼ完治していたようで。ガノルド様は多くの民衆を助け、大怪我を負っていたはずです」

「は、はあ……? あの、話がちんぷんかんぷんなんですけど。多分それ、私には全く関係のない話かと」


 ジッと睨み合いが続いて、嘘をついてるわけでもないから堂々とガンを飛ばす私に痺れを切らして最初に目を逸らしたのはユノだった……というより、時間の無駄だって諦めた感じに近い。


「では、貴女がガノルド様と共に倒れていたのは偶然(・・)ということでしょうか?」

「? はあ、まあ、多分そういうことなのでは?」


 知らんけど。


「貴女はなぜ、あの襲撃の最中あんな場所にいたのか」

「逃げようとして迷子になった、みたいな感じですねシンプルに」


 私はあの時、大きな狼を助けようと治癒魔法を最大限解放して、その後は気絶しちゃったから何がどうなったとか知らないし、意識が戻ったら帝城(ここ)の地下牢だったわけで、私にあれこれ聞かれてもって感じなんですけども。


「まぁそうですよね、貴女のような人が……私が深く考えすぎていただけかもしれませんね」

「ええ、そうですねー。ハゲますよー? そんなんじゃ」


 ニコォッと嫌みったらしく笑みを浮かべて見ると『で、なんでしょう?』みたいな、すました顔をして私を見てるユノに無駄な敗北感を味わうはめになった私であった──。


「貴女のような人に秀でた何かがあるとは到底思えませんし、大変失礼いたしました」

「ええ、""大変失礼""で」

「それはお互い様でしょう」


 ナグッテモイイカナ?


「……すぅーふぅー。で、話はそれだけですか?」

「いいえ。これは忠告です」

「はい? 忠告?」

「ええ、悪いことは言いません。国へお帰りください」

「はあ、国とは?」

「馬鹿ですか? 人族の国(・・・・)に決まっているでしょう」


 いや、残念ながら母国じゃないんですわ、そこ。帰れと言われましても帰れないんですわ、これ。


人族の国(そこ)に帰る場所も居場所も私には無いんです」

「はあ。私には関係ありませんし、そんな事情どうだっていいんですよ。知りません」

「悪魔に魂でも売ったんか、薄情すぎるでしょ。びっくりだわ」

「はぁ。これは“貴女のため”でもあります」

「私のため……?」

「ええ、貴女のためです」

「なにそれ嘘っぽ」

「いい加減にしなさい。ひっぱ叩きますよ」


 光を失った瞳でギロッと睨み付けてきたユノにスンッと黙りこくる私。


「貴女は恐ろしいほど無知で脳足りんなので、まぁ簡潔に分かりやすく説明して差し上げましょう。単刀直入に言います、死にますよ貴女」


 why?


「え、いや、単刀直入すぎませんか? 反応に困るんですけど」

「ガノルド様の正室あるいは側室になるという意味が何を示すのか、どういうことなのか……貴女はお分かりですか?」

「さ、さあ? 知りませんけど……」

「ガノルド様の子を身籠る役目、要は()()()()()()()()()()()()()()ということ。正妃と側妃はその為に存在していると思っていただければ、もうお分かりでしょう」


 ああ、そういうこと。なるほどね、あるあるパターンか。女は子を産むための道具だって、そう言いたいんでしょ?


「そもそも人族の貴女にはリスクしかありません。まず人族の男とは比べ物にならないほどガノルド様のペニスはっ」

「だぁぁーー! もうっ! いちいち言わなくても分かってますって!」


 そりゃあんだけガタイよけりゃガノルドJr.もさぞご立派だろうなとは想像つくでしょ、嫌でもさ! わざわざ言われなくても察してるし!


「はあ。ならば話は早いでしょう。人族の貴女ではおそらくガノルド様のお相手はできません。それにガノルド様の一族は血がとても濃い、故に身籠った母体が耐えきれず流産など当然のように起こります。最悪の場合、二度と子を授かれない体に……なんてこともザラにある話です。ガノルド様の場合、一度も相手を身籠らせたことはありませんが、まぁ血が濃すぎるので相性が合わないのでしょう」


 いやぁ、さすがに残酷な話すぎない? そりゃ人だって簡単に妊娠できるわけじゃないし、色々あるとは思うけどさ……。


「貴女がそんな顔をする必要はありません。我々狼人族、ましてやラフマトスホユール家の血筋ではよくある話なのです。それを承知で『それでも私が』と名乗り出る者は後を断たない」

「……そうですか」

「狼人族の女ですら耐えれぬものを人族の貴女が耐え得るとは到底思えません。それと……発情期(・・・)はご存知ですか? まぁご存知ないでしょうけど。我々には3ヶ月に一度発情期が訪れます。期間は1週間ほどですね。我々が高確率で子を作りたければこの発情期に合わせるのがベストだと言っても過言ではありません。まあ、個体差はあるものの発情期に理性が利かなくなる者は後を絶ちませんので、発情期間には“鎮静剤”を服用するのがベター。ですが、ガノルド様は血が濃いゆえ薬が気休め程度にしか効きません」


 正直私には関係のない話、なのにユノは何で私にこんな話をしてくるのか……脅しのつもり? さっさと去れって?


「あ、あの。ユノさんが何を言いたいのか、いまいちピンとこないんですけど」

「ガノルド様の発情は他の者と比べると症状が重いのです。ですが、発情期間での着床率は格段に跳ね上がります」


 そんな高確率で妊娠させられる発情期があるのに、一度も身籠らせたことがないってどういうこと? おかしいよね、そんなの。ユノは一体、私に何を言いたいの?


「な、何が言いたいの……?」

「ガノルド様の発情期間内は一部エリアが女禁制となります。ですが、我先にと欲をかいて掟を破り、ガノルド様に接触した者は()()()()()()()状態か重体(・・)の状態で発見されています。まぁ愚かな行いの報いとしか言えませんが」


 ・・・いや、そんな壮絶な行為でしたっけ。


 いやいやいや待って、セックスってそんな行為だったっけ? え、絶対に違う。狼人族のセックス……いや、ガノルドとの行為があまりにも命懸けな話すぎて、なんの反応もできない私はただただ無の境地になるしかなかった。


「確率は著しく低下しますが、ガノルド様は発情期以外での交わりで世継ぎを作るしか方法がないということです」


『まあ、そうでしょうね……』としか言いようがない。おそらくガノルドは発情期の間、理性が全く利かない状態に陥るってことだろうから──。

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