終わり、始まる
私の終わりかけてた人生が、新たに始まる──。
“異世界”── 異世界とは、現実世界とは異なる世界を意味する(当たり前)。そんな異世界へ行く方法は……あるわけがない。本来ならね? まぁ漫画とかアニメの世界線でならよくある話だけど、現実を生きる私達が異世界へ行く機会なんてあるはずがないのよ。
異世界とかそんなの非現実すぎて馬鹿馬鹿しいけど、仮に異世界があるとして、異世界へ行くきっかけとなる例はいくつかある。
1 何らかの理由で異世界に移動してしまう“異世界転移、召喚”。
2 現代で死んで異世界で生まれ変わる、よくありがちなパターンの“異世界転生”。
3 異世界の人物に心が乗り移る“異世界憑依、成り代わり”。
この3パターンで異世界へ行くのが殆どじゃない? ま、こんなこと改めて説明するまでもないよね? 異世界に微塵も興味が無い私ですら、このくらいのことは把握済みだし。
そもそもさ、冒頭でも言ったけど異世界なんてあるわけがないじゃん? あんなのアニメとか漫画で繰り広げられてる架空の世界線でしかないんだから。
異世界だの転生だの転移だの、ただの空想幻想にしすぎない。そんなふうにしか思っていない私が異世界の知識や常識なんてものを持ち合わせてるはずがないよね? これっぽっちもない。だからと言ってどうってことはないし、異世界の知識とか常識とか、そんなの必要? 別に要らなくない? 異世界へ行くわけでもないんだしさ。
異世界? なにそれおいしいの? 異世界だのなんだの、そんな現実離れした架空の話なんて知らんがな。
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「相変わらず貧相な体ね、人族は」
「うーん、容貌は悪くないなぁ」
「何を悪趣味なこと言っているんだ、君は」
「まぁまぁ美しいではないか。ペットにでもするおつもりか? 陛下は」
「私は人族の世話役なんて御免だわ」
「すぐ殺してしまえばいいものの、陛下も酷なことをする」
えーっと、てなわけでハイごめんなさい。どうやら私、『異世界? なにそれおいしいの? 異世界だのなんだの、そんな現実離れした架空の話なんて知らんがな』と小馬鹿にしていた世界へどうやら転移させられたっぽい。多種多様なコスプレをした連中に囲まれて物々しい雰囲気。全く歓迎されてないってことだけは、はっきりと分かる。こんなの絶対に殺させるじゃん。極刑じゃん、死刑じゃん。
早々に前言撤回するわ。異世界はある、おそらくきっと。だってここ多分、異世界だよ──。あのぉ、誰かぁ、異世界有権者とかいない? まじで助けて、異世界とか本っ当に無理なんですけど!?
『異世界の知識が無いようじゃ無理かぁ。知識はねぇ、入れとかないと 』の言葉が脳裏を過って腹が立ったのは言うまでもない。菊○風○構文って異世界でも流行ってます?
「名はなんという」
大柄でガタイの良い眉目秀麗な男。高圧的で堂々とした様は、今まで自分の思い通りにならなかったことはないと言っているようで、それがどうも見下されてる感じがしてかなり癪に障る。ビクビクしてんのも柄じゃないし、どうせ死ぬんならありとあらゆる悪態と暴言吐き散らかしながら死んでやる。
「人に名前を尋ねる時、まず自分から名乗れって教わってません?」
ふんっと小馬鹿にしたように鼻で笑う私見て、眉間にシワを寄せながら少し目を細めた男。こういう偉そうな奴ほど自ら名乗るってことを極端に嫌がる傾向がある。要はプライドが許さないってタイプのやつね。
「俺の名はガノルド・ラフマトスホユール。お前の名はなんという」
いや、名乗るんかい。拍子抜けするほどあっさり名乗られてズッコケそうになるわ。『佐々木美織』なんて本名を言っても『なんだそのヘンテコな名は!』とかこの場が荒れそうだし、やっぱあの名前を名乗るのが無難かな。
「えっと……れ、レディア・ウィンテルシア」
「そうか。レディア・ウィンテルシア、お前を正室として俺の傍に置く。以上だ」
ん? 今なんて? 俺の傍に置く……とは?
ていうか、この世界滅びました? なんっの音も聞こえませんけど? 死ぬほどシンッと静まり返った謁見の間、氷河期かってくらい場が凍りついてる。で、周りの視線がグサグサと突き刺さってとても痛い。
そもそも正室ってなに? 私の頭上には無数の疑問符がプカプカと浮かんでいる。
── とまぁ、なぜ私がこんな意味不明な状況に陥ってるのかというと、時を遡ること数時間前……。
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