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石垣島の勝利

2025年4月4日 7:50 台湾周辺


夜明けと同時に米軍は、台湾周辺での航空作戦を活発化させていた。


「ニミッツ」CGSから放たれるトマホーク、F35のJSM、そしてB1Bが対艦モードで発射するJASSM-ERの合計は1000発にも達した。


台湾の西側には、8隻の高速揚陸艦、14隻のエリア防空能力をもった駆逐艦、12隻のフリゲート、多数の戦車揚陸艦、輸送船、フェリーが台湾上陸部隊への補給を反復して継続中だった。

彼等は既に台湾側の迎撃により、少なくない損害を受け、そして多数の対空ミサイルを消費している。

だが、それまでは比較的順調に海上輸送を継続してきたのだ。


そんな彼等に、ステルスミサイルの一斉攻撃がなされたのだ。一連の攻撃は矢継ぎ早に着弾し、一挙に彼等の対空ミサイルを枯渇させて、次の瞬間に破滅的な被害を与えた。


「ニミッツ」の艦載機はLRASMとJASSMを使い果たし、直掩機を残して在日米軍基地あるいは在比米軍基地に移動した。

在日、在韓の米軍機はここ数日の酷使で大きく稼働率を落としている。

だが、在比米空軍は反復して再び攻撃を行った。


「ニミッツ」自身も護衛艦がミサイルを消耗しているため、横須賀に回航を始めている。

対空ミサイルを未だ残している護衛艦については、第7艦隊のグループに編入されて戦闘行動を続行している。


さらに海兵隊はNMESISが台湾に上陸したことに、中国側が気づいていないことを確認すると、再びNMESISを先島から空輸して、ゲリラ的な攻撃を繰り返した。

それだけでなく、先島諸島からは米軍のHIMARSやROGUE-Firesが、次々とATACMASやPRSMを撃ち込んで来る。


こういうことになるから、先島諸島を占領する必要があったのだと、HIMARSとROGUE-Firesの砲撃に曝される第71、72集団の指揮官達は、既に頭では理解していたことを改めて痛感していた。


米軍の攻撃はミサイル攻撃に留まらなかった。

中国側の護衛艦が壊滅したのを見て取った米軍潜水艦が、中国側の潜水艦を慎重に躱すか、撃沈して上陸船団を魚雷で襲撃したのだ。


このため、それまで比較的順調に増援と補給物資を台湾に送り込んでいた中国海軍主力は、早朝の戦闘開始から24時間で壊滅的な損害を受けつつあった。


台湾の東側を封鎖していた中国潜水艦隊の一部は、黄海の戦略原潜の護衛任務から外れ、増援に回された潜水艦と共に北上した。

彼等の新たな任務は、海上自衛隊の佐世保から先島に向かう船団の迎撃だった。

だが、既に台湾東側の海域の制空権は日米台のものであり、フィリピン、鹿屋や岩国から飛来する哨戒機が安全に常時滞空するようになっている。彼等は効果的に中国潜水艦の動きを封じていた。


だいたい、台湾東岸の中国潜水艦隊は既に、「アメリカ」「ニミッツ」両グループへの索敵攻撃を試み、阻止されて損害を出していたのだ。

これ以上損害が増えると、東側海域の封鎖という最低限の目的も果たせない。


一挙に崩壊しかけた戦況だが、今度は米軍の攻撃がスローダウンしつつあった。

というのも、LRASMやJASSM-ER B-2、それにLRWH「ダークイーグル」といった、スタンドオフ兵器を射耗したからだった。


だが、この間に補給と再編成を終えた海自グループに護衛され、陸自の増援部隊と補給物資の搭載を完了した輸送船団が、先島諸島に肉迫しつつあった。


2025年4月4日 10:55 多良間島


多良間島の戦況は一時、膠着状態になっていた。

日中双方の戦力は拮抗していたが、自衛隊側は他の島からの支援射撃を受け取れたのに対して、中国側は計画していた支援、特に航空支援を得ることが出来なかったからだ。


弾薬の枯渇もあり、中国側の攻勢は早い段階でとん挫していた。

中国側は多良間空港の奪取を狙ったが、これに失敗。多良間村に後退して、立て籠もった。

だが、2個中隊しか居ない自衛隊側も損害もあって、空港と島そのものの占領は防いだとはいえ、安易な反撃は出来ない状況が続いていた。


そこから状況が動いたのは、4日の早朝だった。


宮古島と石垣島の中間に位置する多良間島に敵が存在すると、両島の連絡、戦力移動に支障が出ると有坂陸将は判断。奪回のために水陸機動団第2連隊が投入されたのだ。

彼等はAAV7やホバークラフトでの上陸では無く、第一ヘリ団のオスプレイと、第12ヘリコプター隊のCH47、60によって空輸された。


多良間島は、与那国と同じく全島避難が完了していたから、航空支援が遠慮無く行えた。

だが、その過程で国民の財産が、主に家屋を中心に失われる事態は避けることが出来ない。

新田原から飛来した301飛行隊のF35Aは、地上の火力誘導班の指示に従い、LJDAM、JDAMで、多良間村の中国軍部隊が立て籠もる陣地や家屋に対して爆撃を行った。


爆撃の後、水機が持ち込んだドローンにより、中迫撃砲の観測射撃が行われる。

水機のドローンはさらに爆撃も行い、多良間島の中国軍は急速に消耗していった。状況を確認した水機2連隊は、午前10時を期して本格的な掃討を開始。


それでも中国側は頑強に抵抗し、多良間島が確保された時、投降した生存者は12名だけだった。

だが、自衛隊は初めて領土に侵入した「敵」を、排除することに成功したのだ。



2025年4月4日 11:36 石垣島


その1時間後、中国側に衝撃が走った。

石垣島の上陸部隊が、独断で投降したからだ。


石垣空港は与那国空港と異なり、上陸に適した砂浜の白保海岸に面している。

このため、中国側としては3つの島のうち、投入する戦力が最も少ないとはいえ、石垣島の占領が最も成功確率が高いと見積もっていた。


与那国は上陸適地が限られており、ヘリボーン部隊と強襲上陸部隊が分断されていた。

宮古島の場合、投入される兵力は多かったが、目標が多良間島、下地島空港、宮古空港と多すぎた。


そこへいくと、石垣島の場合は石垣空港さえ確保すれば良く、しかも与那国のように戦力が地形の問題で分断されることもないからだ。


石垣島の戦況は、当初は中国側の目論見通りになった。

自衛隊は爆破処理を行ったものの、中国軍は石垣空港の占領に成功したからだ。


だが、そこから先が地獄だった。


中国側が約束通りの航空支援を得られない状況下、石垣戦闘団が石垣駐屯地を中心に、周辺の高地を巧みに利用して構築した馬蹄型の陣地群に半包囲されて、集中射撃を浴びる形になったからだ。


石垣空港がキルゾーンになっていることに気付いた中国軍だったが、かといって、支援が無いことにはどうにもならない。

数度、無理矢理な攻勢を仕掛け、周辺の陣地を沈黙させようと試みたが、失敗。かえって戦力を失っている。


中国軍上陸部隊指揮官は、優秀な人物だった。

そうであるが故に、独自の視点を持っている。

彼は急速に戦力が消耗する中、祖国への忠誠心、部下に対する責任感、自分の保身といった要素を、重迫撃砲弾と155ミリ砲弾、それに16式の105ミリ砲弾が降り注ぐ中で考えた。


その結果、勝ち目のない戦いから部下と自身を救うために、降伏を許可しない統合司令部に反抗して、独断での投降を選択したのだった。

(その際に、馬の合わなかった政治委員を射殺している。)


多良間に続いて、未だ多数の民間人の残る石垣島での戦闘が、自衛隊の勝利によって終結したことは、日本にとっては朗報以外の何でも無い。

残る宮古島、与那国島で苦しい戦闘を継続している、自衛隊員達の士気も向上していた。


2025年4月4日 12:05 那覇市


南西方面統合任務部隊司令部は、石垣島からの報告が確認されると歓喜に包まれた(若い木村二尉など涙ぐむほどだった。)。

TVにも速報「石垣島に着上陸した中国軍部隊が降伏。自衛隊が勝利」のテロップが流れて、日本人はほぼ1世紀ぶりに手にした戦闘での勝利を歓んだ。

東京では号外が配られた程だった。


地元のローカル局が石垣島の自衛隊に、感謝を伝えようとする人々のインタビューを放送していた。

そのうちの一人、我那覇氏(43)は石垣戦闘団司令部の近くで、こう語った。

「正直、知事と新聞の言うことを信じてました。いままでだって、ずっと平和だったんだから、これからも平和だ。

自衛隊が来たら、かえってややこしいことになるだけだ。と。


でも、私が間違ってた。

中国は自衛隊の基地とかに関係なく、空港を狙って無差別攻撃してきました。

しかも、ただ攻撃するだけじゃなくて、占領するつもりで。

百歩譲って、自衛隊の増強が話をややこしくしたにしても、占領までする理由なんか、これっぽっちも無いじゃないですか?


急に不安、というか絶望を感じましたよ。

アメリカはまがりなりにも、一度占領した沖縄を返してくれました。

でも、中国は?ロシアと一緒で、沖縄の独立だなんだと妙な理屈つけて、返すつもりが無いんじゃないか?

このまま占領されたら、石垣は永久に中国のものにされるんじゃないか?

うちらの権利もへったくれも無くなるんじゃないか?ってね。


もう、本当に、なんで妻と子供だけでも、島から避難させなかったんだって、何度も後悔しました。

知事と新聞の言う事なんて、信じた俺が馬鹿だった。ネットでは警告されてましたしね。


それにここは、うちらの土地です。なのに、なんでうちらが逃げることを必死に考えなきゃいけないんだって。

それを思うと悔しくて。ウクライナの人々も、こんな気持ちだったのかって。


でも、自衛隊が島を守ってくれました。

本当に、本当に、よくやってくれたと思います。

もう、無我夢中で、一言感謝を伝えたくてですね。ここまで、やって来たんです。はい。


それから日の丸みたいな、あの旗?ああ、「自衛隊旗」というんですか。

あれを持って、自衛隊が行進してるところを見ましてね。なんというか、頼もしいやら、美しいと思うやらで。

とにかく日本の旗が、こんなにも綺麗に見えるもんかって、感激して泣いちゃいましたね。はい。」


沖縄県庁でも、職員が喜びに包まれていたのは同様だった。

だが、知事と取り巻きのマスコミ連中だけが、ニュース速報や、我那覇氏のインタビューを不満気に眺めていた。

彼等は自分達の主張が間違っていたことに、内心では気付いている。

だが、現状では「中国には勝てないから、抵抗は無意味」という主張すら、自衛隊の奮戦によって否定されつつある。


敵部隊降伏による勝利により、当面の脅威が無くなったことで、石垣島から第22即応機動連隊が宮古島に増援されることになった。

だが、その輸送は簡単な話では無い。22連隊の重装備を運ぶための船舶が無いのだ。


彼等を運ぶべき輸送船団は「いせ」を中心とする艦隊に護衛されながら、沖縄本島沖に到達したばかりだった。

さらにその先の海域における海上輸送を安全に行うために、予定航路上を海上自衛隊の対潜・水上打撃グループが、哨戒機部隊と連携して対潜掃討を行っている真最中だったのだ。


このような状況だったから、22連隊が完全な状態で移動するには、まだまだ時間が必要だった。


だが、それではせっかくの22連隊が勿体ない。よって午後になってから部分的に移動が開始された。


結局、16式機動戦闘車、96式装輪装甲車といった重装備は、石垣島にいったん残置されることになった。

多良間島から帰投したばかりの、オスプレイとCH47、60は、補給と休息を済ませると整備が必要な機体を選別する。

さらに第一ヘリ団、第15飛行隊の残りの機体と合流して、大規模なヘリ部隊を編成して石垣島に向かった。

彼等は沖縄で積み込んだ補給物資を石垣に卸すと、一部は負傷者を載せて、自衛隊那覇病院に加えて臨時野戦病院も増設された沖縄本島へと戻って行く。


ヘリ集団の大部分は、22連隊の2個普通科中隊と、本部管理中隊、それに重迫撃砲中隊を空輸する。

CH47は、120ミリ重迫撃砲とその要員および弾薬、高機動車、中距離多目的誘導弾、93式地対空誘導弾といった、空輸可能な重火器と機材を担当していた。UH60とオスプレイは普通科隊員を中心に搭載している。


こうして4日の15時から16時にかけて、第22即応機動連隊の第一陣が宮古島に来援したのだった。

宮古島に降着したヘリ集団は、そのまま沖縄に帰投して大車輪の1日を終えたが、一部は石垣島に引き返して残っていた1個中隊を宮古島に空輸した。


制空権が中国寄りだった2日、中国海軍の防空艦が沖合にまだ居座っていた3日の時点では、このような作戦は自殺行為だっただろう。


沖縄の有坂陸将は、22即応機動連隊を大畑一佐の指揮下に入れた。

彼は、22連隊を早速、宮古空港正面の中国軍部隊の攻撃に投入する。

第10即応機動連隊と2個連隊で一気にたたみ掛けることも可能だったが、大畑は敢えてそうしていない。

損害を受けた第10即応機動連隊は、第22即応機動連隊と交代して後方に下がって、休養と再編成に入らせたのだ。(ただし、第10即応機動連隊は、機動戦闘車中隊のみは前線に残した。)

2個連隊での攻撃はその後だ。

第22即応機動連隊の攻撃も本格的なものでは無く、中国側に弾薬の消耗を強いるものだった。


民間人の犠牲をこれ以上出さないために、一刻も早く宮古島における地上戦の決着をつけたい気持ちはあったが、大畑は慎重な作戦を選択したのだ。


宮古戦闘団には、沖縄周辺海域での対潜掃討が進捗し、増援と補給物資を搭載した船団が接近していることが分かっている。

あと半日もして船団が到着したなら、戦況は一挙に自衛隊優位に傾き、終息に向かうだろう。

宮古戦闘団司令部に安堵した空気が漂っていた4日の夕刻、しばらく聞いていなかった中国軍機のジェットエンジン音が、宮古島上空に鳴り響いた。


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