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先島諸島上陸作戦

先島諸島へ向かう第1船団を構成する中国両用戦部隊は、日米の対艦ミサイル攻撃を切り抜けると、それぞれが目標とする島へと向かって分散していった。


与那国には強襲揚陸艦の075級1隻と、ドック型揚陸艦の071級2隻、護衛の055級1隻、052D級1隻、054級2隻。

石垣には075級1隻と071級1隻、護衛は055級1隻、052D級2隻。

宮古島には075級2隻と071級1隻、護衛は055級2隻、052D級1隻、054級2隻だった。


揚陸兵力は、与那国が3200名、石垣が2400名、宮古が4000名。

いずれも空港の確保と、自衛隊の対艦ミサイル、対空ミサイルの完全な沈黙を任務としていた。中でも空港が二つあり、先島諸島の中心的存在である宮古島への上陸兵力が最も多かった。


第1船団の揚陸兵力が橋頭保を確保し、前進した後で、第2船団の戦車を含む重装備部隊が進出して、陸上自衛隊と米海兵隊の守備隊を圧倒する作戦だ。

第2船団が揚陸する重装備には戦車等に加え、S400対空ミサイルと対艦ミサイルが含まれている。

これらの兵器の揚陸が成功すれば、台湾を支援しようとする日米の航空作戦、海上作戦に大きな制約をかけることが出来るはずだった。


さらに各島の空港を奪取できれば、増援と補給も飛躍的に強化され、台湾占領を支援するための拠点として先島は機能し、中国側により有利になる。


だが、上陸部隊の司令部には懸念もあった。

それぞれ旅団級の部隊が着上陸するとはいえ、直前のわずか1週間で日米が先島の3つの島に、それぞれ2個連隊相当の兵力の増援に成功してしまいったことで、兵力で優位に立っているとは言い難いからだ。


空軍の爆撃や、巡航ミサイルによる攻撃で島の敵を叩き続けているし、上陸作戦開始後は更にドローンやヘリによる直接支援が加わるから、島に孤立した敵は急速に消耗していくはずだった。

だが、現状では空軍は期待に反して、爆撃を反復できていない。なによりその戦果確認が極めて不十分だ。


出航前に司令部内には全部隊を集中して、与那国島か、宮古島に的を絞って占領し、その後で残り2島を占領するべきだ、という意見が出ていた。

だが、方針は変わっていない。一理はあるものの、仮に一つの島を占領してから次の島を攻略するとなると、補給、再編成等に時間を要することになる。


その間に、上陸部隊は残り2島からHIMARSや新鋭のROGUE-Firesに対艦ミサイル、さらに沖縄本島から、米海兵隊のトマホークで断続的に攻撃を受けるという懸念があった。


つまり、3つの島の火力が、相互に支援する態勢となっているがために、敢えて3島同時攻略が選択されていたのだ。

何より3島同時攻略は、中央軍事委員会から直接命令されている。


2025年4月3日 10:00 先島諸島


ついに第1船団は先島諸島に対する上陸作戦を決行した。


075級強襲揚陸艦は、まずはドローンを次々と発艦させる。

艦内のスペースを取る上、機動性の劣るGJ-1系の機体はまだ発進させない。

ハリアーやF35Bのような、揚陸艦で運用可能な戦闘機を中国軍は持っていない。だから、GJ-1と攻撃ヘリは貴重な近接航空支援が可能な兵器であり、温存策が取られていた。

この段階で投入されたのは、比較的小型で安価かつ、使い捨ての自爆ドローン群だった。


偵察・観測ドローンも、船団からの砲撃を観測するために発進する。


だが、ドローンは島に接近するにつれ、03式、11式、81式、93式といった地対空ミサイルに次々迎撃された。

それでも数が多いので、島の上空にたどり着くことが出来たドローンも、91式携帯対空誘導弾や、87式自走高射機関砲、三菱電気製のレーザー、妨害電波によって、次々撃破されていく。


与那国と宮古では自衛隊の防空システムに加え、海兵隊のアベンジャー、MADIS(海兵隊防空統合システム)、さらにはミサイルを補完するAPKWSレーザー誘導ロケット等も、大量投入され迎撃に加わる。


中国軍揚陸戦指揮官は舌打ちした。空軍の報告だと、敵の対空ミサイルはほぼ沈黙しているはずだったが、状況は正反対だ。


画像で確認できる戦果は無かったので、友軍の戦果報告を鵜呑みにはしていなかったが、ここまで報告と現実のギャップが酷いとは。

揚陸指揮官は、母艦に着艦可能なタイプの偵察ドローンは引き返させた。

威力偵察と、敵の対空ミサイルを消耗させることはできたが、上陸前に敵をじっくりとドローンで徹底的に叩くという目論見は外れてしまった。


数基の対空ミサイルやレーダーを見つけ出し、自爆ドローンが撃破することに成功してはいたが、これほど敵の対空ミサイルが生き残っていたのであれば、上陸作戦と同時に攻撃を行った方が、まだ効果は見込めたかもしれない。


2025年4月3日 10:42 先島諸島


揚陸指揮官は、ドローンによる攻撃を切り上げると、艦隊による砲撃を開始させた。

結果的には、一連の砲爆撃で、この艦隊からの北斗に頼らない砲撃が最も効果を発揮していた。

与那国の比較的狭い範囲に日米の陣地が構築されているため、無誘導でもそれなりに命中弾が発生したのだ。


砲撃によって、ドローン迎撃を終了後、退避の間に合わなかった対空ミサイルシステム、隠蔽しきれなかった車両、掩蓋の補強が十分でなかった掩体、上陸予定地点の障害物、地雷等をかなり破壊することが出来た。


だがそれでも、その弾数は不十分といえた。

055級、054D級の130ミリ砲にせよ、054A級の76ミリ砲にせよ、対空戦闘用にも用いられる砲である以上、対地攻撃用砲弾は4、50発程度だった。

上陸作戦の直接支援用にも砲弾を残しておく必要があるから、全弾を使用するわけにもいかない。


だがその一発は、運よく長谷川一尉が苦心して構築していた、与那国の弾薬庫1カ所を直撃して、大爆発を起こしたのだった。


しかしこれが限界だった。上陸船団からの攻撃は、もともと十分な空爆が行われている前提の、ダメ押し程度の位置づけだったからだ。


対空ミサイルがあれだけ生き残っていたということは、島の火力も相当生き残っていると考えなければならなかった。だから可能ならば、もっと空爆と砲撃を加えてから上陸を行いたい。


だが、そうしているうちに、日米のさらなる対艦ミサイル攻撃が行われるかもしれない。

そうなれば、すでに対空ミサイルを撃ち尽くしたに等しい第1船団は、下手をすれば全滅する。

心苦しいが、上陸部隊を強襲上陸させ、船団は上海に引き返し、上陸第3波を積み込んで先島に戻ってくるのが正解に思われた。護衛艦も対空ミサイルを補充する必要がある。


一連の思案の後、彼は副官に命じた。

「予定通りだ。上陸作戦を開始せよ」


命令しながら揚陸指揮官は思った。

(いまいち怪しいが、海空軍はそれぞれ海上優勢、航空優勢を握っていると言っている。

まがりなりにも我々は、上海から700キロの海上移動を成功させている。

ということは、されほど悲観することもないだろう。

とにかく橋頭保を確保してしまえば、優勢なこちらの支援火力で、敵の火力は急速に弱体化するはずだ。

空港を確保すれば、空挺部隊の増援も可能になる。弱気は禁物だ。必ず勝てる!)


与那国島には、中国海軍陸戦隊の水陸両用合成大隊3個、空中強襲大隊2個が上陸作戦を展開した。

空中強襲大隊は、大型輸送ヘリのZ-8Jと汎用ヘリのZ-9に400名が搭乗。攻撃ヘリとドローンが援護のために先行して飛行する。

いずれも対空ミサイルを警戒して、超低空で進入することになっている。


各水陸両用合成大隊からは、それぞれZBD-05水陸両用歩兵戦闘車15両、ZTD-05水陸両用戦車5両に約100名の陸戦隊員が第一陣として乗り込んでいた。


彼等が橋頭保を築くことに成功した後は、726型ホバークラフトと、ヘリを使って後続の陸戦隊と空中強襲大隊を送り込み、さらには各揚陸艦に4両ずつ搭載されている、ZTQ-15軽戦車をも上陸させる作戦だ。


作戦上では、2個空中強襲大隊と1個水陸両用合成大隊は、与那国島の北から侵攻する。

空中強襲大隊の第1波は、北牧場に降着。水陸両用合成大隊はナンタ浜と3畳ビーチに上陸して、与那国空港を占拠。空港に空中強襲大隊の第2波を受け入れる。


南からは2個水陸両用合成大隊が比川浜とカタブル浜に上陸し、与那国駐屯地と久部良港を占領する。そういう作戦だった。

空港と港を抑えてしまえば、増援も補給も受け入れ易くなる。


第2船団は重装備を有しているとはいえ、戦車揚陸艦を除けば、民間のフェリーや輸送船だったから、彼等のためにも久部良港の早期奪取は必須だった。


そこまで事が運んだならば、二つの山に立てこもる海兵隊と日本陸軍を、航空支援を誘導しながら制圧していけば良いのだ。

上陸部隊は守備隊に対して、数的に優位とは言い難かったが、支援による戦力倍増要素が増えれば、無理な攻撃を行わずとも占領は可能なはずだった。


与那国島の北に位置を取った075級と、同じく南に陣取った071級2隻は、それぞれ艦尾のウェルデッキから水陸両用車両を次々と海上に送り出していく。

空中強襲大隊は熾烈な対空砲火が予想されるため、水陸両用合成大隊の上陸、交戦開始を待ってから発進する計画だった。


与那国島の南北の沖合15キロから発進した、水陸両用装甲戦闘車両群は時速40キロ弱で島に接近。20分程の行程で、沿岸まで3キロに接近すると煙幕を張った。

同時に、075級から空中強襲大隊が援護のWZ-10、Z-10攻撃ヘリコプター計8機と、ドローンを先行させて発進させた。

さらに、艦砲射撃とPCH-191による砲撃が再開される。PCH-191は煙幕弾を撃ち込む。

日米の防御砲火の照準を妨害するためだ。


水陸両用車の集団が、浜辺まで約2キロまでに迫ったところで、日本側守備隊の本格的な迎撃が始まった。

山腹の退避陣地から射撃陣地に移動していた、中距離多目的誘導弾小隊と米軍のヘルファイヤ対戦車ミサイル小隊が、身を隠したまま射撃を開始。

中距離多目的誘導弾は、瞬時に6発。小隊全体で24発を発射する。


攻撃に気付いたZBDとZTDの群は、煙幕をさらに発射しつつ回避に努めたが、海上で満足な回避運動が取れないため、瞬く間に20両が被弾。南側の2個大隊の先鋒は、一瞬で半減してしまった。


陸上自衛隊各師団の対戦車大隊や、普通科連隊の対戦車中隊が、たった1個小隊の中距離多目的誘導弾で置き換えられるのも納得できるだけの威力だった。


攻撃に気付いた中国側は、援護のために自爆ドローンと攻撃ヘリを推定発射位置に向けて突進させ、水陸両用車は自前の火力で反撃を始める。

一部の攻撃ヘリは、射程20キロに達する新型対戦車ミサイルでのアウトレンジ攻撃を狙った。


北側の大隊も、米軍のハンヴィーに搭載されたヘルファイアや、APKWSの射撃で大損害を受けていた。

中距離多目的誘導弾も、ヘルファイアも打ちっぱなし性能を持っていたから、射撃各班や射撃チームは発射後にすぐ身を隠し、中国側の反撃をかわす。


こうはいかなかったのは自衛隊の96式MPMS(式多目的誘導弾システム)だった。

彼等は水陸両用車に後続する726A型ホバークラフトを狙って、攻撃そのものには成功した。

だが、システムを構成する機材が、発射機以外に情報処理装置、射撃式装置、地上誘導装置と多数であったために、射撃後の退避が迅速に行えなかったのだ。


96式の光ファイバー誘導は、妨害に強い利点もあり、その実態は徘徊型自爆ドローンに近いものがあった。

狙われた726A型は必死に回避を試みたものの、2隻を撃沈することに成功し、1個中隊200名近い陸戦隊員を海上に放り出す。


だが、そこで対空ミサイルを突破してきた自爆ドローンと、攻撃ヘリの射撃を受けて、発射機2台と、情報処理装置を破壊され、1個小隊が射撃不能に陥った。

他の装置は生きていたものの、前線近くで運用するには、全体のシステム構成が複雑すぎるのが96式の欠点だった。

何か一つでも構成する車両を撃破されると、一個小隊がまるごと射撃不能になってしまうのだ。


2025年4月3日 11:35 与那国島


日米のATGM(対戦車ミサイル)部隊が陣地変換と次弾装填を行う間に、生き残った中国上陸部隊は海岸に辿りついた。


80年ぶりに外国の軍隊が日本の有人である領土を侵攻し、踏みつけた瞬間だった。


しかし、砲爆撃にもかかわらず、自衛隊が敷設した水際機雷と地雷は相当残っていた。

特に北のナンタ浜に上陸を試みた部隊は、祖納港の水際機雷で壊滅的な被害を出しつつある。

生き残った陸戦隊員は車両から脱出すると、祖納港の岸壁にしがみつき、テトラポットから必死の上陸を試みた。


普段は黄海の茶色く濁った海を見慣れた彼等にとって、与那国の海岸は戦闘ではなく観光で訪れたいような土地だったが、今の彼等にとっては悪夢の舞台そのものだ。


空中強襲大隊は、ドローンと攻撃ヘリが盾になる形で与那国に接近していたが、距離が狭まるにつれ、輸送ヘリが狙い撃ちされ始めた。

特にZ-8Jは1個小隊丸ごと搭載できるだけに、撃墜された場合の損害は甚大だった。


約20機のヘリは、8機を撃墜されたものの、残る12機は250名の陸戦隊員を牧場に降着させると、母艦に向けて引き返した。

さらに位置を晒し、残弾も少なくなっていた日米の対空ミサイル群に、自爆ドローンが突入していく。

輸送ヘリ部隊に対する盾の役割も行った攻撃ヘリは、8機中5機を撃墜されていた。

生き残ったのは、長距離対戦車ミサイルを使用した攻撃に徹した機体だけだ。


大損害だったが、第1波が上陸をした以上、第2波の上陸はいくらかやり易くなるはずだった。


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