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アンフェア

米軍のF22は嘉手納に、2個飛行隊が前方配備されていた。

彼等は、弾道ミサイル攻撃直前の離陸に成功すると、第90戦闘飛行隊は日米のAWACSの護衛に加わった。

残りの1個飛行隊、第525戦闘飛行隊はAWACSの管制に従い、中国軍攻撃隊への迎撃を試みたのだ。


付大佐が見込んだ通り、沖縄上空から退避行動をとった米軍の沖縄のE3は、自身のレーダーでは中国の戦爆連合を、捉えることはできなくなりつつあった。

だが、その代わりに海上のイージス艦、地上のパトリオット部隊のレーダー情報から、データリンクの中継機能を駆使することで、中国空軍の動きはほぼ掴んでいたのだ。


E3の指揮官達は、冷静に戦況を判断している。

J20により、確かに沖縄上空は制圧されつつあった。

だが、だからといって、それに対して第525戦闘飛行隊のF22を正面から反撃させるようなことはしなかったのだ。


E3に乗り込んだ、元ベテラン戦闘機パイロットの要激管制指揮官は、第525戦闘飛行隊をマッハ1.6の超音速巡航で、大きく九州側に迂回させた。

そして、レーダーを使用させないままで、中国の戦爆連合の背後に回りこませたのだ。

さらに、なおもレーダー未使用かつ、超音速巡航で一挙に距離を詰めさせる。

距離が50キロを割ったところで、F22のレーダーを使用させると、護衛のJ20、11には目もくれず、隊形から攻撃機部隊と判断したJ16編隊を狙って、AIM120Dによる一斉射撃を命じた。


この時の双方の距離は15キロ以下。実戦慣れしていない中国軍機が、PL15、12の長射程を過信し、あまりに遠くからミサイルを発射して振り切られがちなのに対し、米軍は過去20年近くAIM120を実戦で使用してきた。

そして目標に回避された経験も豊富に持っていたから、射程100キロ以上のアクティブレーダーミサイルでも、背後からの追撃で使用する場合は、思いきり距離を詰めてから発射しなければ、簡単に命中するものではないことを経験的に良く知っていたのだった。


攻撃隊のJ16は、レーダー警戒警報が鳴り響くと、ほぼ同時にAIM120Dの攻撃を受けた。

状況を把握して対抗手段を選択する暇も無く、命中が始まる。

反射的に回避機動を取ることの出来た、カンの良いパイロットも多数存在したが、12機のF22は、約70発AIM120Dを発射し、さらに数機は肉薄して、赤外線式ミサイルのAIM9Xでの攻撃にも成功した。

この結果、爆装で巡航中だったJ16を、一挙に42機も撃墜してしまっていた。


護衛のJ20、11の編隊は何が起きたのかを理解したが、F22をレーダーで探知することが出来なかった。さらにF22はアフターバーナーを使用して、通り魔のように離脱しつつある。

120機もいる護衛戦闘機には、まったく手を出していない。

怒り狂った中国軍の護衛戦闘機隊は、赤外線捜索追尾システム=IRSTを駆使して、F22の追尾を試みたが、うまくいかなかった。

F22の追尾は、柳の大隊も全速で試みたが失敗した。

絵に書いたような一撃離脱をされてしまったものの、攻撃隊はまだ半数以上が残存している。爆装を緊急投棄した機体は、あまり居なかったのだ。



今こそ、友軍である日本軍機が、自分達に追い回されているにもかかわらず、最大の脅威であるF22が援護に姿を現さなかった理由を、柳は理解した。

(米帝め!日本軍機を囮にしやがった!なんて奴らだ、勝つためには友軍も見殺しにするのか!卑怯な帝国主義者めが!)

実際には米軍はそこまで非情に考えていたわけでなく、戦闘機と戦う無駄を避けて、ピンポイントで攻撃機を狙ったに過ぎなかったが、すくなくとも柳はそのように受け取った。


だが、柳の悪夢はこれで終わらなかった。


大型戦闘機のJ20は、多少の運動性を犠牲にしてでも莫大な機内搭載燃料を誇っており、その戦闘行動半径は2000キロにも達していた。これは米軍に比べて、空中給油機を揃えていない中国空軍の事情を反映した結果でもある。

米軍機に比べて、やや胴長な印象を受けるJ20だが、それは空中給油機に頼らずとも太平洋に出て長距離、長時間の任務を遂行出来るだけの機内燃料を確保するためだったのだ。


だが、柳の大隊は何度もアフターバーナーを使用して、急速に燃料を消費してしまっていたのだ。

F15JSIの追撃。ESSM、PAC2の回避。そして、制空任務の終盤で生じたF22の追撃。

これらの積極的な戦闘行動の繰り返しによって、柳の大隊を含め、先鋒を務めたJ20の各大隊は、想定より遥かに多い燃料を消費している。

約800キロ彼方の上海に帰投するには、燃料が不足していると言って良い状況だった。


しかし、柳はそれほど心配していない。上海と沖縄の中間点付近には、中国空軍虎の子の空中給油機部隊が進出しているはずだったからだ。

中国軍の給油機の機数は全く十分ではなかったが、胡中将は長距離侵攻になる沖縄方面に、保有機の殆ど全てを投入していた。

おかげで柳達が不足する燃料を緊急に補給してもらうには、十分な態勢が整っているはずだった。


この護衛には最新鋭のJ20Aが1個旅団の全力、24機がついている。

さらに沖縄の沖合300キロには、中国国産のKJ500H早期警戒機が進出して滞空していた。

同機の護衛には人民解放空軍戦闘機隊の中でも最精鋭とされる第9旅団のJ20Aが、やはり予備の1個大隊も加えた全力でつくことになっていた。

J20Aは、待望のWS15にエンジンを換装して、超音速巡航を実現した最新バージョンだ。

給油機にも警戒機に対しても、米軍流の重厚なHAVCAPというわけだった。


生き残ったJ16部隊が、敵艦隊と沖縄への攻撃を開始するのを見届けると、柳は部下を率いて帰投を開始した。爆撃隊の打撃力は低下したものの、それでも充分な攻撃力はあるはずだ。

これで沖縄の日米空軍基地は再起不能になるだろう。もう少し勝利の戦場に留まってその瞬間を見届けたかったが、燃料に不安がある。


柳はKJ500Hに連絡を取り、空中給油の段取りを要求する。

結局今回は、撃墜戦果を得ることは出来なかったが、まだ戦いは始まったばかりだ。

彼は、思っていたよりも遥かにやっかいな、F22をどうやって撃墜するか、考えを巡らせている。


その時、KJ500Hからのデータリンクがいきなり切れた。

「妨害電波!?まさかまたF22か?いったいどこから?人民解放空軍最強の第9旅団のJ20Aが、周辺を警戒しているのに?」


柳の予想は当たっていた。バージニアから増援で飛来し、在韓米軍大邸基地から離陸したF22装備の第94戦闘飛行隊は、やはりレーダー未使用、超音速巡航で背後からKJ500Hに接近すると、高高度へいったん上昇してから急降下を開始。


8機ずつの3個大隊に分かれ、KJ500Hの周囲で円を描くように周回してパトロールするJ20A。

その中心に位置するKJ500Hに対して、F22の先頭フライト4機が逆落としで突っ込むように攻撃の火蓋を切る。

護衛のJ20Aはレーダーを使用していたし、背後からのレーダーにはある程度探知されてしまうから、米軍側は護衛のJ20Aの位置を概ね掴み、彼等のレーダーとセンサーの死角となる真上からの攻撃を行ったのだ。


米軍のリーダーは敢えて、KJ500Hの電子防御能力を過剰な程高く評価していた。

その結果、長距離からのAIM120による攻撃は失中するリスクがあるとして、AIM9Xを使用した一撃離脱を敢行したのだった。


KJ500Hは一撃で撃破された。

攻撃に気が付いたJ20Aのうち、1個大隊はIRSTでF22を探知することに成功。

追尾に移るが、上方からアフターバーナーを使用しての一撃離脱を行ったF22は、離脱時点でマッハ2近い速度を出していた。

このために、J20Aの搭載する中国最高の戦闘機用エンジンであるWS15の全力でも、F22のF119エンジンにはまだ性能で劣る上、航続距離と引き換えに多すぎる燃料を搭載した重いJ20Aでの追撃は、距離が離れるばかりで難しい状況だった。それでも彼らはあきらめるつもりがない。


柳は無線を通じて、第9旅団が敵機の追撃に移ったことを知って、自分の大隊も現場に急行させた。

危険だと思った。柳は先ほどの実戦で、J20が以前から噂になっていたように、後方のステルス性能はさほどでもないことを実体験として経験済だった。

だが、KJ500Hの護衛部隊のパイロット達は知らない。F22を安易に追撃して、後方に敵の援護機が存在するとしたら、危険なはずだ。

だから第9旅団に対する、さらなるバックアップが必要だと思った。


柳は何度も第9旅団に深追いを止めさせようと、無線で警告を発した。

だが、KJ500Hが撃墜されたことにより、事前に定められた無線交信のルールは崩壊してしまっている。そのため、柳の警告は錯綜する交信にかき消えて、第9旅団には届かなかったのだった。


だが、第9旅団の心配ばかりしていた柳少佐は、途中で考えを変えた。自分自身にとって、より危険な状況に気づいたからだ。

KJ500HをF22が攻撃できたということは、さらに後方にいる、空中給油機も攻撃されるのではないか?


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