台湾空襲
2025年 4月2日 05:00 沖縄
台湾から先島諸島へ目標変更した、DF16単距離弾道弾6個大隊約50発のうち、現地工作によるターゲッティングに成功したのは花が関わった16発のみだった。
他は古い情報に基づいた推測で打ち込まれ、むやみに民間の被害を出しただけだったが、宮古島の防空組織の損害は深刻だった。
中距離防空の要であった、03式地対空誘導弾2個中隊のうち、増援で送り込まれた313高射中隊が、花によるターゲッティング成功により壊滅したからだ。
防空能力がほぼ半減したと言って良い。
沖縄には弾道弾の第2波が到達している。
辺野古と普天間には第2波のDF21のうち、合計60発が飛来した。
日米イージス艦のSM3は既に全弾射耗しており、手出しができない。
予備弾が限られる中、THAADとPAC3MSEが約40発射撃されたものの、両基地に15発前後が命中し、共に機能停止状態となった。特に普天間は、回りを取り囲む市街地にも被害が拡大している。
さらにその約1時間後、最終第3波が飛来。
目標となった、沖縄諸島の民間空港群は迎撃手段が無いため、やはりなす術無く破壊されていった。
精度が格段に落ちたとはいえ命中弾が出れば、自衛隊や米軍のようなに滑走路を修復する能力は、これらの空港には無かったから復旧の目途は立たない。
最後の迎撃ミサイルを突破した沖縄本島への弾道弾は、那覇駐屯地、那覇港、牧港補給地区に数発ずつが着弾し、牧港では火災が発生していた。
2025年 4月2日 04:25 台湾
一方、台湾への弾道弾と同時に行われた巡航ミサイルによる攻撃は、台湾空軍基地と主要な民間空港の滑走路の殆どを使用不可能にしつつあった。
戦時予備飛行場の高速道路すら攻撃を受けている。
巡航ミサイルは、ロケットで弾道飛行してくる弾道ミサイルに対し、ジェットエンジンで低高度を飛行するミサイルだ。
弾道ミサイルに比べると比較的安価で数を揃え易く、さまざまなプラットフォームで運用できる。
弾道ミサイルと比べたら亜音速のものが大半で遥かに迎撃しやすいが、大変な脅威であることに変わりは無い。
固定式レーダー、防空指揮所が次々と沈黙する中、生き残ったE2T早期警戒機との連絡に成功した台湾側の戦闘機部隊は、圧倒的多数の中国軍機が接近しつつあることを知って、東に向かって退避した。
電子妨害もあって状況がつかめていない一部の戦闘機部隊は、中国軍が上陸を試みるとされている台湾南西部の上空で滞空していたが、そんな彼等に向かって中国空軍の先鋒、最新鋭のJ20ステルス戦闘機が80機も忍び寄っていた。
弾道弾の波状攻撃が続いているのに、中国軍空軍の制空隊第1波は、お構いなしに突っ込んで来たのだ。
しかし、台湾空軍機は決して愚かでも、臆病でも無かった。既に何年も前から、自分達が中国軍に対して質量共に劣勢であることも自覚している。
故に彼らの大半は、正面からの迎撃は避けていた。
本土を爆撃されても耐え、対空ミサイルと台湾そのものを盾にする形で、中国の第一撃を回避し、攻撃を終えて帰投する中国攻撃隊を追撃することを狙ったのだ。
混乱して一方的にJ20に駆逐された一部を除き、台湾空軍の戦闘機の大半は台湾の中央、雪山、玉山、海岸の各山脈と、台湾東岸の低空域に隠れていた。
中国側は台湾空軍機が東側に退避することは読んでいて、制空部隊を台湾東岸にも迂回させていた。
だが、山間部の間を超低空飛行する機体を探知することは、性能が格段に向上した彼らのレーダーでも難しかったのだ。
レーダーの精度を上げようと、中国軍機が内陸に進入しようとすると、まだ生き残っている対空ミサイル網に妨害される。
(このような事態を避けるためにも、台湾を中国海軍のエリア防空艦で包囲してしまうことが求められていた。)
台湾防空部隊に対する中国空軍の防空制圧や、対艦ミサイル部隊に対する爆撃が開始されると、それまで雌伏していた台湾側の迎撃機は、上昇して逆襲に移った。
2025年4月2日 04:45 台湾上空
既に中国軍機の第1波制空隊に続く、第2波が台湾上空に飛来していた。
だが、J20を第2波との合計で100機を滞空させていても、台湾空軍機の反撃を防ぎきることは出来ず、防空部隊の対空ミサイルと併せて痛打される展開になった。
何より低空から出現した台湾軍機に中国軍機戦闘機は懐に飛び込まれる形となり、制空隊に続いた攻撃機を狙われている。
その結果、彼等は合計で53機も撃墜されたのだ。
2波合計で約400機の攻撃隊の損害としては1割超。大損害だった。
中国空軍機は大損害と引き換えに、ダメ押しとばかりに台湾各地の空港、高速道路に爆弾を叩き込んだ。さらに勇敢な防空網制圧=SEAD任務機は、対レーダーミサイルを発射して、台湾陸軍の索敵用と照準用レーダーを破壊。対空ミサイルを次々と沈黙させていった。
第3波が台湾上空に現れるころには、民間を含めて殆どの飛行場は破壊され、戦時滑走路の高速道路すらも使用が困難になった台湾軍機は、密約に基づき、燃料が残っている内に下地島空港、あるいはフィリピンのクラーク飛行場へと落ち延びて行った。
中国側の攻撃隊が全て帰投した時、台湾軍の作戦機は地上撃破と併せて、虎の子のF16Vを30機以上、ミラージュ2000やFCK1は50機以上を喪失していた。現有約320機の台湾軍戦闘機隊は、開戦後1時間で戦力の25パーセントを喪失したのだ。
この時点で台湾空軍機は、損害と残存機の大半が国外に緊急着陸を強いられたことで、台湾西武の制空権をほぼ失っていた。
これに対して帰投時の事故等も含めると、中国側は結局60機を喪失した。
それでも金門島や馬公へ出撃した機体を含めると、900機もの空軍機を投入した中国側は、多少の損害には目もくれずに攻撃を継続する。
上海の統合司令部では東部戦区の空軍司令官であり、長征作戦空軍司令官でもある胡中将が戦況表示を見て満足気だった。
損害は大きいが、それ以上に戦果は挙がっている。他の軍との戦功争いに一歩リードだと思った。
彼は個人的に、さらに勝ち馬に乗っておこうと「意外にいい奴だった」張に話かけた。機嫌取りの一つもしておくことにする。階級は同じだから、総司令の張に対しても慣れ慣れしい。これまでは張も気にする風もなかった。
「総司令。おめでとう。見事奇襲成功じゃないか。」
だが、期待に反して張は、胡に信じられない阿呆を見るような表情で、
「何が奇襲成功だ。馬鹿者が。」と言い放った。
それを聞いた胡は顔を真っ赤にした。
「何だと!貴様!誰に向かって!」
胡の怒声は空軍のオペレーターが鳴らした警報と報告にかき消された。
「泉州沖の低空に敵機らしきもの探知!」
「何!?」
張が呆れた口調で言い放った。
「だから言っただろう。戦いは始まったばかりだ。何が起こるか分からんよ。今の内に海軍と陸軍に頭を下げる準備をしておけよ。
あのあたりは、ご自慢の第6旅団が哨戒中のはずだっただろ?言い訳が大変だな。」
花蓮基地を発進して、台湾の東海上の低空に潜んでいた、台湾空軍第26戦闘機作戦隊のF16V戦闘機16機は、超低空で中国本土に接近。泉州港に未だ在泊中の上陸船団と、集積されている物資を狙って攻撃を開始した。
泉州上空は、胡が目をかけていたSU35装備の第6旅団が警戒していたが、彼等は台湾軍機の攻撃を阻止できなかった。
F16Vは泉州港に停泊していた輸送船2隻と揚陸艦1隻に、命中弾を与えて炎上・擱座させ、物資、燃料、弾薬類を集積していた倉庫を破壊したのだ。




