表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode  作者: しののめ八雲
緊急展開-自衛隊に託される希望
28/99

独立宣言

2025年4月1日 17:35 那覇市内


前田典夫は沖縄の大学に所属する社会学名誉教授で75歳。

SONや、「いんでぺんでんと・おきなわ」といった、親中派団体のブレーンということになっていた。

彼等の大半は無自覚な中国の協力者だったが、前田は違った。

米国占領下の沖縄に生まれた彼は、米国と日本を憎み抜いていた。復讐のために中国を利用しているつもりで、お互いを利用する関係だ。

そして久米等とは違い、澤崎同様に李達の正体と真意を知っている数少ない人間だった。


一応名誉教授ではあるが、彼が過去には発表してきた論文には、荒唐無稽な沖縄独立論が含まれていた。久米のような人間にとってはバイブルになっていたが。


今彼は、久米と共に先ほど行った演説の録画を点検していた。


その内容は

・自分達は琉球人民共和国の設立を宣言する

・我々はあくまで平和を欲しているだけである。

・にもかかわらず、日本政府と米国は長年にわたって沖縄と琉球民族を抑圧し、差別し、戦争に利用し、また巻き込もうとしてきた。

・先日の朝鮮人学生殺害事件の真相解明と、北朝鮮に対する誠実な対応をすべきところを、あろうことか日米は真逆の対応を行い、軍事行動を開始しようとしている。

・これに対して我々は平和的な抗議行動をおこなってきた。

・だが日本の官憲は抗議を行った若者二人を虐殺した。

・それに加えて中国人留学生や労働者を不当に拘束している。

・もはや日本の統治下にあっては、沖縄の平和を守ることは出来ない。

・したがって沖縄は独立しなければならない。このままでは、永久に日米両政府による圧政と軍国主義への回帰に巻き込まれて、沖縄戦の悲劇が再現されるだろう。

・沖縄が独立した以上、日本国の官憲、政府機関、自衛隊、米軍は直ちに国外へ退去しなければならない。

・しかしながら、日米両国はすぐさま我々を弾圧、いや侵略しようとするだろう。我々はこれを防ぐために、中華人民共和国と国交を樹立し、同国の人民解放軍の進駐を求めるものである。

・最後に犠牲になった、小田氏、青池氏に哀悼の意を表すものである。


「良いでしょう。久米さん。これをネットにアップし、マスコミ各社に送って下さい。

日本の官憲がどう動くか分かりません。中国軍が助けに来るまで、お互いしばらく身を隠しましょう。若者達にも気をつけさせて下さい。」

「いよいよ独立宣言ですね!全てはここから始まるのです!」

久米はヒロイン気取りだった。


彼等の独立宣言とやらを、日本の国内法と国際法がどのように扱うかは、実際のところ中国にとってはどうでも良い。

本物の日本人が、中国に軍事行動を求めたという事実がとりあえずあれば、それで十分だった。

ちょうど台湾でも類似した工作が行われている所だ。


台湾と沖縄の親中派が、中国軍の進駐を要請したことを根拠に、攻撃を開始するのだ。

中国としては一応手順を踏んでいるつもりだった。

あとは動画の検証や、独立宣言や中国軍進駐要請の正当性を、日本側が議論する暇も無しに、一気に台湾と先島諸島、ついでに尖閣諸島の占領を既成事実化するだけのことだった。



2025年4月1日 18:05 沖縄 本部町


うるま市から場所を変えた李達は、再び電子的な潜伏を行った上で、予備のスマホと捨てアカウントを使って動画配信サイトをチェックしていた。

前田が指示通りに独立宣言の動画を配信している。

同時に、情報支援部隊隷下のサイバー戦部隊とロボットが再生回数と検索数を急拡大し、急上昇ランキングのトップに押し上げつつあった。


李はホっとため息をついた。これで彼の最重要の任務は完了したのだ。

長きに渡る沖縄での潜伏生活が報われたと思う。

張少将はここまでやれば、無理せず投降して構わないと指示していた。

中国で拘束する日本人との交換で、優先的に帰国できることになっている。その間は何も喋らなければ良いだけだ。

だが、張少将の後任、任少将は前任者の残したレガシーを使って、得点を稼ぐ気満々だった。


李にはまだ、日本人協力者のターゲッティング支援という任務が残されていたのだ。


中国側の沖縄独立工作とは関係なく、4月1日時点で自衛隊の緊急展開は、多少の混乱と遅延を生じつつも最終段階に入っていた。


政府は4月1日に入ると、沖縄への渡航を全面禁止とした。18時には沖縄県内の空港の離発着を禁止して閉鎖すると発表。

また、日本の領空内における、民間機の飛行自粛を求める措置を発表していた。


この日は目前に迫っていると見られる北朝鮮と中国の攻撃を前に、PFI船は退避を続け、先島諸島の港と空港は完全に閉鎖された。


先島諸島、沖縄本島、奄美の港入口には、海上自衛隊のもがみ型とうらが型が機雷を散布していた。

第2陣と共に先島諸島に送りこまれた水際機雷敷設車が、さらに上陸が予想される浜辺に機雷を撒いた。

その奥の陸地には、地雷と、道路障害物、前哨陣地、ダミー、監視カメラ、センサーが設置されていく。

施設隊は空港の滑走路、舗装道路の一部をくりぬき、地雷を埋設すると、一見元通りに補修することまでしていた。


与那国への最後の輸送を終えた「かが」は、補給艦「とわだ」から給油を受けると、護衛艦「ふゆづき」「しらぬい」と合流。

新田原から飛来した臨時F35B飛行隊の10機を着艦させると、太平洋側へ大きく迂回しながら、台湾近海にまでやってきた「アメリカ」ESGに合流すべく南下していった。


F35は空軍向けのA型、空母艦載機のC型、それにエンジンの推力を変更させる、特殊なエンジンを搭載したB型が存在する。

B型は、A型、C型に比べ、性能面での制約が多い。だが、その代わり、短い滑走路でも運用できる。なにより「アメリカ」「かが」のように、機体を射出するカタパルトや、着艦する機体を極めて短い距離で止めてしまう制動装置を備えておらず、通常はヘリコプターの運用が限界の母艦でも運用できるのだ。


海上自衛隊は既に「アメリカ」救援部隊として、イージス艦「まや」を中心とした1個護衛隊を派遣していたから、現時点で機動的に運用可能な護衛艦の大半を差し出した形だ。


F35Bに至っては、現有10機全てを「かが」に搭載した形だった。

臨時F35B飛行隊は305飛行隊の一部が改編されたばかりで、いかにパイロットは米軍で研修と事前訓練を受けたとは言え、「いずも」型での運用は始まったばかりだった。

それにもかかわらず、無理に実戦に投入された格好だ。

下手をすれば事故により、戦わずして「かが」が戦線離脱することも十分にあり得た。

せめて、あと一年訓練していれば、事故その他の懸念はだいぶ払拭できただろう。


そのぐらい無茶をしてでも、海幕は「かが」でF35Bを運用することを選択したのだった。


F35の最大の特徴は、その状況認識能力にある。

例えば、強力なレーダーのみでなく、機体各所に配置されたセンサーで前方だけでなく全周の情報を収集し、それらを統合してパイロットに認識させる「センサーフュージョン」と呼ばれる機能を実装している。

センサーフュージョンそのものは他にも導入している機体は存在するが、F35はレーダー、センサーが最新であるだけでなく、高い情報処理能力と先進的なインターフェイスによって、従来の機体とは次元の違う戦況認識能力をパイロットに与えていた。


なぜ、戦況認識能力が重視されるのかと言えば、それが低ければそもそもの話として、生き残れないからだ。

昔から戦闘機が撃墜される状況は、パイロットが認識していない脅威によるものが大半だった。

いかに高い機動性を持つ戦闘機だろうが、自機に接近する敵機やミサイルに気づくことが出来なければ、自慢の機動力を発揮することも無いまま撃墜される。

激しい戦闘中でも、敵を見落としてしまえば致命的なスキを生み、やはり容易く撃墜される。

そのため、周囲を見張る目の力と数は、空中戦が始まった第1次大戦のころから重視されてきた。

この頃から既に戦闘機は最低2機のペアで行動することで、お互いの戦況認識力を補ってきたが、その能力の養成には才能と、何より長い訓練が必要だ。

F35は空中でパイロットが生き残る術を、一部のエリートパイロットの職人芸の専売特許にすることなく、システムによって普遍化するアメリカらしい試みの集大成と言えた。


F35に乗っていれば、2機編隊長資格「エレメント・リーダー」を取り立ての2等空尉でも、飛行教導隊の上級戦技指導者と同等以上の戦況認識能力を得ることが出来る。

ステルス性能とも相まって、F35は従来の機体とは比較にならない戦場での生存能力、すなわち生残性を実現していた。

少々機動力がSU35やF16より劣っていようが、そういうことを重視している機体では無いのだ。

加えて、ステルス性能を損なうことなく、内蔵したスタンドオフ兵器による高い地上攻撃力を実現している。


ただし、肝心の母艦の「かが」に搭載機の兵装搭載能力持たせ、航空燃料搭載量を増加させるための改装が完了しておらず、F35Bに完全な能力を発揮させるには程遠い状態だ。

しかしそれでも、わずか10機であっても、運用次第では飛行教導隊に所属する、航空自衛隊最高レベルのトップパイロット達の操るF15よりも有力な戦力になるはずだった。

それに航空燃料の問題は、新田原基地から2000ガロン燃料給油車数台を「かが」艦内に持ち込んでいくらか解決していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ