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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode  作者: しののめ八雲
静かすぎた夏-兆候
18/99

那覇警察署騒乱

2025年3月2日 10:25 那覇市内


澤崎は李に呼び出された。


「何年か前に県警と少年達がもめて、少年達が警察署に押しかけた騒ぎがあっただろ?」

「ああ。覚えている。」

「あれと似た騒ぎを起こすから、君達も警察署に抗議行動を行え。いつも通り、動画を撮影してSNSと動画サイトにアップしろ。」


「おい、まさか。」


「心配するな。少年達は多少怪我をするかもしれんが、あの事案程酷くはないさ。

それにな。」

李は悪趣味な笑みを浮かべつつ、言葉を続ける。

「もう暫くしたら多少の怪我人どころか、死人も気にならなくなるさ。」


2025年3月2日 20:12 那覇市郊外


新垣正人は那覇市内に住む「やんちゃ」な少年だ。

17歳の彼は数日前の昼間に、迷惑系動画撮影者を名乗る男に協力を求められた。

パトカーを暴走族が挑発する動画を撮りたいとのことで、新垣と悪友達が何日か豪遊できるだけの謝礼を前金でくれると言う。さらに動画の撮れ高に応じて謝礼を弾むとまで約束してきた。


新垣は喜んでやることにした。

男は、特に証拠になるようにパトカーのナンバープレートを真っ先に撮影しろと言ってきたが、何故かその点だけはしつこく念を押してきた。



そして約束通りの夜中に、新垣のグループは男に指定されたコースを適当に流していた。新垣自身は友人のバイクの後ろに座り、男に渡されたスマホで動画を撮影するつもりで警察の出現を待ち構えている。


すると、おあつらえ向きにパトカーが彼等の集団の前に出て来た。

回転灯を回しながら、「止まりなさい」「暴走行為を止めなさい」とスピーカーで言ってくる。


新垣は仲間に合図して、パトカーを包囲させた。パトカーを囃し立てて挑発させる。

彼自身は忘れないうちにナンバープレートを撮影しようと、パトカーの後方から接近した。


撮影そのものは簡単な話だったが、ナンバープレートに違和感があった。

(横浜ナンバー?神奈川県の警察が沖縄に?)

とりあえず契約は果たした。後は適当に動画を撮り続けてファイルを渡せば、例の男が適当に編集するのだろう。あとは謝礼で派手に遊べるはずだ。


その時、抑揚の無い口調だったスピーカーが、突然ガチギレした。

「止まれって言ってんだろ!このクソガキども!これだから沖縄は嫌いなんだ!」

同時にパトカーは急停車すると、次の瞬間には後進をかけてきた。

タイヤの悲鳴が響く。


彼らは急ブレーキをかけたが、一台がパトカーの非常識な動きを避けきれずに接触、転倒してしまった。

しかもパトカーはあろうことか、そのまま走り去った。


新垣は相棒にバイクを止めさせると、転倒した仲間に駆け寄った。

幸い無傷に近かったが、新垣はキレ散らかしている。

「ふざけやがって!!警察があおりやんのかよ!!」

そこへ、依頼主が何喰わぬ顔で歩いてきた。李だ。


「うわー。こりゃ災難だったな。

こんなことになるとは思わなかったんだ。ごめんね。

お詫びに約束の謝礼に治療費も付けとくよ。大事にな。斜め上の展開になったが、いい映像になるだろう。ありがとう。

ところで、警察に文句言いに行くんだろ?」

「当たり前だろ!警察だからって、なめたマネしやがって!」

「良ければ、その様子も撮影させてくれないか?

俺も知り合いに今の動画を拡散させて、声をかけて、人手を集めて警察への抗議を手伝おうじゃないか。これも何かの縁だろう。いやー、ヒドい話だあ。」

「好きにしやがれ!平良あ!声かけられるだけ声かけて人集めろ!」

「おうよ!ふざけやがって!」

「あー、君らさえ良ければ、火炎瓶の作り方教えようか?オジサン詳しいんだ。」


勿論パトカーは偽物。

パトカーを運転していた偽物警官も李の部下だった。

偽物パトカーは倒産した自動車整備業者の、小さな車庫で本物そっくりに偽装の上、隠してあった代物だった。

この後車庫に戻してバラバラに分解し、反社の漁船で数回に分けて海に捨てることになる。


2025年3月2日 21:02 那覇市内


久米のNPOは、改名して今では「いんでぺんでんと・おきなわ」名乗っていた。

法律上、NPO法人は政治的な活動を禁止されている。

そのため、相も変わらず表向きには、環境保護活動を活動目的に謳っていた。

だが実態は、名前の通りに反政府・沖縄の分離独立が目的だ。

そういう活動をしたいのならNPO法人格を捨てるのが筋だが、取り締まるべき沖縄県が知事の裁量で放置していたのだ。

沖縄県がこのような態度だったから、WEB上でいくら批判されようと久米には痛くも痒くもない。

だいたい、沖縄県知事からして自分の信じる正義のためなら、裁判所の決定に従わなくても良いと考えるような人物だったから、このような部分から沖縄県の秩序は乱れつつあった。


事務所には日曜日の活動を手伝った花達も居て、久米達と談笑している。

花はいつの間にか、活動が無くても「いんでぺんでんと・おきなわ」の事務所に頻繁に入り浸るようになっていた。


「あら?澤崎さんから緊急に見て欲しい動画ですって。何かしら?」

「私にも来ました。なんでしょう?」


「見て、八木さん。この動画。酷いと思わない?沖縄に派遣中の神奈川県警のパトカーが、相手が暴走族とはいえ、この沖縄で県民に無茶苦茶なことをしているわ!」

「沖縄に神奈川の警察が?」

「そうよ!辺野古への抗議活動の妨害とかに、政府の連中は他県の警察から応援まで寄越してるの!酷いでしょ?本土の警察なんて、沖縄の人々を虫けらとしか思っていない証拠だわ。だから私達の活動が必要なのよ!あら?澤崎さんから電話だわ。」

澤崎からの入電を終えた久米は、興奮して花に告げた。


「・・・少年達が警察署に抗議に行くらしいわ。私達も行きましょう!」

そこへ花にも澤崎から電話が入る。

「八木さん。動画見た?久米さん達と一緒に警察署に抗議に向かってくれる?僕もいくよ。動画撮影してSNSにアップして。」

「分かりました!」

「それからアップするときには、タグに「沖縄独立」ってつけてね!」


その夜、那覇市内の警察署は、突如として身に覚えの無い不祥事を理由に、大挙して押し寄せた不良グループ、学生、NPOの抗議活動にさらされた。

火炎瓶まで投げつけられた程だが、県警側は冷静に対応した。


一夜明けて事の顛末を把握した沖縄県警は、辺野古等の警備等で他県の警察官が来援することはあるが、市内の夜間巡回に他県の警察官を動員することはあり得ないと説明した。

神奈川県警側は該当するパトカーは実在するものの、当該時刻に神奈川県に存在していたことを説明したが、騒ぎは収まらなかった。

沖縄県知事が両県警の言い分を殆ど無視し、真相究明と責任者の処分を主張。

事態を鎮静化させようとするどころか、警察相に押しかけた連中の「気持ちは分かる」という姿勢だったからだ。


花達が投下した動画はすさまじい勢いで伸びた。

火炎瓶まで投入された騒乱の様子を撮影した、衝撃的な動画は「沖縄独立」のタグと共に急速に拡散していった。

閲覧数も支持も今までにない勢いだった。それは相変わらず中国側の工作だったが、花が「沖縄独立がアツい!」と無邪気に思い込むには充分だった。


2025年3月4日 13:08 東京


総理の執務室には、数名の閣僚が総理と共に居た。

沖縄で起きた騒ぎの対策を協議している。


「見え透いた偽旗作戦です。」


総理に対して、国家公安委員長が発言していた。

先日発生した那覇市内における警察不祥事疑惑と、それに対する抗議活動についての見解だ。

偽旗作戦とは、ある勢力が対立する勢力を非難しようとする時に、あたかも自身が攻撃された「被害者」に見せかける行為。国家公安委員長は今回の件は、その類だと言い切った。


「真実は両県警が既に発表した通りです。

沖縄独立とやらの主張も、一部の活動家と中国のサイバー戦部隊が煽っているだけで、当の沖縄県民は困惑しているのが実情です。

ただ、従来の市民活動家グループに加え、新たな学生組織が急速に規模を拡大しております。

かれらは活発に活動していて、これ以上のデマの拡散には引き続き注視している状況です。」

中国の諜報組織が沖縄の大学にかなり浸透していることを公安は把握していた。


中国側には高校生の個人情報が、かなり流出しているらしい。

性格的に興味のあることにのめりこみ易く、かつ一度そうなると、周囲の忠告に耳を貸さなくなる者。

高校時代に問題を起こして相談できる友人が少なく、孤独を感じている者。

実家と離れて暮らしており、家族が危険な変化に気づきにくい者。

当初の志望校からランクを引き下げて沖縄の大学に来たため、自己肯定感が低い者。

そして、承認欲求の強い者。

これらの条件を持つ者があらかじめ選別されて、狙い撃ちで勧誘されているようだった。

ちなみに花は、これらの条件の全てを満たしており、中国側の評価は満点だ。


彼女を含め多くの若者が、大学生という自由な時間の多い立場を存分に利用し、最初は環境保護サークルの活動を熱心に行う。

しかしサークルの実態は沖縄独立運動と、中国の侵攻そのものを補助することが本当の目的だった。

既に沖縄ではこういったNPOや学生サークルが、アメーバのような連合体を形成している。

内部に取り込まれた学生達は、徐々に沖縄の自然を守るには、沖縄を日本とアメリカの横暴から守る必要がある、と思いこまされる。

そうして学生達は、正義感に基づいて沖縄独立運動にのめり込んでいく。

本人も気づかないうちに年配の活動家、いや中国情報機関の手先の駒として動く人間へと、驚くべき短期間で変貌していくのだ。


そして当人達は、沖縄に進学したおかげで自分は変われたのだと、無邪気に思い込んでいる。

一生に一度の幸運を手放すものかと。今、自分は人生で最も充実した時間を送っていると信じていた。今まさに、超えてはいけない一線を越えようとしているのに。



花個人に関して言えば、沖縄での大学生活は彼女にとっては自分の性格と高校時代に犯した失敗について、ゆっくりと向き合う貴重な時間となったかもしれなかった。

そうなれば、猪突猛進気味の行動に、落ち着きが生まれていた可能性があったのだ。

大学時代にも失敗を犯すだろうが、それも踏まえて、なんとか社会人生活を送れる程度の性格に矯正できたかもしれない。

あるいは、持ち前の行動力と合わさり、周囲の人間に恵まれさえすれば、殻を破って大きな飛躍すらあったかもしれなかった。


だが、現実はそうはなってはいない。

彼女は自分の欠点を省みることも無く、ひたすら中国の陰謀の小さな歯車となって走り続けている。


真紀子を含めたわずかな接点のある人間は、貴重な忠告を発した。だが彼女の欠点は、それらに対して聞く耳というものを失わせていたのだ。


「例の神奈川県警のひき逃げ動画とやらも、よく検証すれば、捏造された代物であることはすぐに分かるでしょう。この騒ぎは1月足らずで沈静化するはずです。むしろ中国側の暗躍の証拠になるかもしれません。」

「中国の仕業としてだ。何が目的だ?こんな雑な偽旗作戦の。」

「単なる嫌がらせか、シンパの拡大を狙ったものか。あるいは、さらに大きな動きへの布石かもしれません。」

「布石?何の?まさか沖縄が日本から独立を宣言して、中国に助けを求めて、それを根拠に中国軍が攻め込んでくるとでも?台湾にだけでなく。」


今度は、それまで黙っていた防衛大臣が発言した。

「あながち冗談とも言い切れません。

防衛省は米軍と共有している情報を含め、中国軍の動きが急速に活発化しつつあるのを確認しています。中国の空母2隻が、南シナ海と宮古海峡に向けて出港しました。

米軍は横田基地の在日米軍司令部および日米統合作戦調整センターの人員を増やしています。

最悪の場合。本当に最悪の場合ですよ・・・。」

防衛大臣は言葉を一瞬飲み込んだ。本当にこれを言ってしまっていいのだろうか?


「自衛隊に防衛出動命令を下す。そのお心積もりをされておいた方がよろしいと思います。」


「防衛出動・・。」

閣僚達の間から呻き声が漏れる。誰もが内心で、もしやとは思っていたが、防衛大臣が初めてその可能性をはっきりと口にしたのだ。

総理は目を閉じて、しばらく考えてから答えた。

「・・分かった。自衛隊の準備状況は?」



防衛大臣は、規模はわからないが、おそらく武力衝突がアジアで発生するだろうと予想していた。

その時に総理が判断を誤らないように、文民として彼に助言をするのが自分の役割と認識している。


自衛隊の防衛出動を命じることが出来るのは、総理大臣だけなのだ。


だが、その責任はあまりに重い。


後の世から見れば「なぜ防衛出動を命じなかった?」と批判を受けるような明白な危機でも、当事者にとっては難しい判断になりかねない。

その時になって総理が判断を誤らないためには、誰よりまず、自分が状況を正確に把握しなければならないと防衛大臣は心得ていた。


公設秘書と共に総理官邸を出た防衛大臣は、私設秘書と合流する。

彼は公用車に乗って、彼女達を待っていた。

私設秘書は芸能界時代のマネージャーでもあった。もう20年以上の付き合いになる。

気心は知れているが、彼女が防衛大臣になってからはセキュリティの問題で同行できない場面が増えていた。

「このまま市ヶ谷ですか?」

「ええ、そうよ。でもその前に一杯コーヒー飲みたいかなあ。」

「もう買ってありますよ。ちょっとしたスイーツも。」

「あら!ありがとう!相変わらず気が利くわね!車の中で頂くわ!オヤツは何にしてくれたの?」

「ふふん。開けてのお楽しみですよ。」

責任の重さにストレスを感じていたのは、彼女も同様だった。秘書の差し入れは思いの他、彼女に元気をもたらした。


この日から事態は急速に展開していくことになる。

中国では「長征計画」は「長征作戦」に切り替えが行われていた。


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