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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode  作者: しののめ八雲
静かすぎた夏-兆候
15/99

母娘関係の破綻

2025年1月16日 18:32


仕事から帰った真紀子は覚悟を決めて、娘に電話をかけようとしている。勝部からの報告で考え過ぎでなかったことを思い知っていた。

彼は複数のソースを慎重に選んで、SONの活動実態を調べてくれていたのだ。


勝部の調べた限り、SONは環境保護活動を目的としたサークルとされているが、最近は本来の活動はなおざりらしい。

では何をやっているのかといえば、米軍と自衛隊の活動の監視と妨害行為。ネットでのフェイクニュースの乱発や荒らし行為だった。

彼らの主張によれば、米軍と自衛隊の活動で沖縄の自然が破壊されるから、これも環境保護活動になるらしい。

それだけでなくNPO団体と連携を深め、自然を守るためには沖縄が日本から独立する必要があるという、かなり飛躍した論理を主張しはじめていた。

SNSの公式アカウントは日本やアメリカ両政府の批判を強め、反面、中国のことは擁護している。

活動資金は学生組織としては異常なほど潤沢だった。はっきりと確認されていないが、金の出どころは中国の諜報機関というウワサだった。

どうみても明らかな親中派組織と言える。


だが、真紀子にはそういったことは良く分からなかったし、関心も無い。

肝心なのは、彼女の娘がそんな活動に入れ込みすぎて、奨学金を打ち切られそうになるほど学業をおろそかにしていること。

そしてそんな連中と付き合っていては、まっとうな社会人になることが出来なさそうなことだった。

沖縄への進学を決めた時に心配した通りに、花は真紀子の目が届かない所であっさりと変な連中にひっかかってしまい、人生を台無しにしかねない状況に陥っていたのだ。


事情を聞こうと電話をかけても、最近はいつも留守電だった。

だが今回はチャットのメッセージで成績のことで大事な話があるから今夜電話をかける、今回だけは出るようにとは伝えてあった。既読はついていた。


深呼吸を繰り返してから電話をかける。

娘が電話に出ることを祈る。


数度のコールの後、花が出た。

「もしもし?花、今大丈夫?」

「・・・うん。ひさしぶりだね。」

久しぶりに聞く花の声が、迷惑電話に出るかのように固い。


「もうご飯は食べたの?」

「忙しいから学食で済ませた。」

「そう。野菜はしっかり摂ってね。それでね・・。」

本題に入る。

「あんた結局冬休みも帰らなくて、正月は帰るって言ってたのに。」

「しょうがないじゃない。サークル活動がすごく大事な時なの。」

「アンタがサークルやNPOの活動を頑張ってるのはお母さんも知ってるけど、勉強が出来なくなるほどのものなの?年末に奨学金の所から警告が来たわよ。アンタの所にも来たでしょう?

私は大学の勉強は知らないけど、ちゃんと準備すれば単位を落とすことはそんなに無いものでしょう?

大事なことなのに、なんでお母さんに相談してくれないの?」

「うるさいなあ。お母さんに話したって分かってもらえないよ。

今、沖縄は大変なことになっているんだよ。

今活動を辞めたら一生後悔することになるから、手を抜くわけにはいけないの。」


まるで新興宗教にハマった子供と、止めさせようとする親の会話みたいだと真紀子は思った。

「そのサークルとNPOだけど。環境保護活動の団体なのに、環境保護活動をしていないんでしょ?

会社の人に調べてもらったけど、母さん心配で・・。いったんお休みさせてもらって、距離をおいてみても良くないかしら?成績が戻るまでだけでも。」


むやみに花を怒らせないように、真紀子は言葉を慎重に選んだつもりだったが、無駄だった。


「会社の人って、だれ?」

「私の部下の男の人よ。」

「何歳くらい?」

「20代後半。」

「あー、やっぱりね。その辺の歳の男はネット右翼だらけだもん。

いつも私達の邪魔ばかりしてくるバカな連中よ。お母さんの会社にそんな奴居るの?さっさとクビにするべきよ。お母さん管理職でしょ?」


考え方の極端さが、高校の時より酷くなってる気がした。

「てゆーか、お母さんそんな奴の言うこと真に受けて、私に文句言ってきたの?信じらんない!他のみんなも親の無理解で苦しんでる!お母さん!高校の時も私を信じてくれなかったのに、またなの!?」

「花、お願いだから落ち着いてお母さんの話を聞いて。

まずは大学をきちんと卒業することが第一でしょう?退学にでもなったら大変じゃない。」

「よけいなお世話よ!だいたい日本の大学なんか卒業しても意味ないの!これからは日本は落ち目で中国の時代なのよ!

大学卒業しても日本のブラック企業でこき使われるだけ。

NPOや中国で働いた方がはるかに希望が持てるの。そのための繋がりはもうゲットしたもん!

お母さんみたいな底辺の介護職をやってる人には、その程度の世界の流れも見えないんだよ!」


自分の仕事を底辺呼ばわりされても、真紀子は耐えた。

「花。お願い。良く考えて。お母さんには、そんなに簡単に中国の会社やNPOの仕事で食べて行けるとは思えないわ。

それに今言ったことだけど、本当にそれは自分で考えたことなの?ちゃんとした裏付けはあるの?誰かの受け売りじゃないの?」

「うるさい!よけいなお世話って言ってるでしょ!もうお母さんの世話にはならない!大学も辞める!仕送りも要らない!」

「ちょっと、花?何を言ってるの?大学やめちゃうの?お金どうするつもりなの?お願いだから落ち着いて!」

「お金なんて、ツテのあるNPOに雇ってもらえばどうにでもなる!お母さんは落ち目の日本で、日本とアメリカと手を切って、これから豊かになっていく沖縄を指を加えて見てればいいんだわ!もう電話かけてこないで!切るからね!鬱陶しい!」

「待ちなさい!花!まだ話は終わって・・。」

花は通話を切った。


すぐに電話を掛けなおすが花は出なかった。数度掛けなおすうちに着信拒否されてしまう。


真紀子の悲壮な決意は結局、藪蛇にしかならなかったのだ。

緊張の糸が切れた真紀子はテーブルの上にスマホ置く。


彼女は花に決定的に嫌われてしまったと思う。

どうやって親子の関係をやり直したものか、見当もつかない。

チャットも拒否されて、とりあえず謝ってお茶を濁すことも出来なかった。


こうなることを恐れていたのに。他にどうすることも出来なかったのだろうか?

後悔の波が押し寄せる。

何も考えたくなくなった真紀子は、顔を両手で覆うと大きな声で泣き出した。



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