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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode  作者: しののめ八雲
静かすぎた夏-兆候
13/99

すれ違う母娘

2024年8月23日 15:00 平壌


朝鮮民主主義人民共和国国家主席は、先刻中国国家主席との首脳会談を終えて中国代表団を丁寧かつ、にこやかに見送った。表向きは。内心はその逆。不機嫌そのものだった。

彼には中国側が自分達を見下しているのが、手に取るように理解できていた。


中国国家主席との会談は長かったが、その内容は要約すると、こういうことだった。

「内緒の話だが、半年後に台湾と沖縄に攻め込むからできるだけ協力しろ。

38度線で武力衝突を起こして韓国軍と米軍を引き付けておけ。

それから中国は沖縄の独立を支援する体裁を取るから、代わりに沖縄以外の自衛隊と在日米軍の航空基地に、弾道ミサイルを300発程打ち込んで破壊しろ。

なるべくテロ・ゲリラ攻撃も行って日本国内を混乱させろ。

それが出来るなら、コロナワクチンを大量に恵んでやる。

アメリカに勝った後は、さらに石油輸出含めた経済援助をしてやる。どうだ、悪い話ではなかろう。」

無論、実際の言葉は最上級の修飾に彩られてはいた。


しかし、北朝鮮の通常戦力は韓国と正面から戦えるような状態には無かった。

それゆえ、弾道ミサイルと核の開発に全てを注力するしかなくなっている。

北朝鮮側は努力して38度線の件は断った。

だが、中国側は最初から期待しておらず、断ってくるのは織り込み済だったようだ。


結局、北朝鮮は開戦と同時に300発の弾道ミサイルと相当数の巡航ミサイルを、日本の在日米軍基地および航空自衛隊基地に撃ち込むことを中国側に約束した。

攻撃の口実については北朝鮮側で適当に仕立て上げることになった。


執務室に戻ってきた主席に、側近がうやうやしく話しかける。


「よろしかったのですか?主席様。我が国には倭奴を攻撃できるミサイルは、300発もありませんが・・・。」

国家主席も側近も日本に対する蔑称「倭奴」を当たり前のように使う。

北朝鮮は、22年ごろから中国の要請を受けて、日米のイージス艦を日本近海に拘束する状況を常態化させるため、弾道弾を頻繁に日本方面に発射するようになっていた。このため、弾道弾のストックが不足していたのだ。

「良いのだ。いかに中国といえど、我々が発射したミサイルの数を確認する術は無い。いつも偉そうな連中が、めずらしく向こうから頼み事に来たと思えば、、、

見下しおって!我々は中国の属国では無いのだ!言われるがままになど、なってたまるか。」


「それでは?」

「倭奴に攻撃はする。だが、やつらの迎撃できる範囲に留めろ。ギリギリのタイミングで情報も流せ。そうすれば、倭奴や米帝の報復は最低限に収まるはずだ。」

「中国を裏切ることになりますが?」

「そうだ。中国の目論見通りになれば、奴らは台湾と沖縄の次に、日本本土と南朝鮮が欲しくなるだろう。

そうなれば我々は南とむりやり戦わされるか、下手をすれば最後には南朝鮮共々中国の属国になる。

その過程で我々は生き残っているか?

我々を中国に売り渡す獅子身中の虫が、必ずや出てくるだろう。我が国の独立のため中国に勝たれては困るのだ。」

「それでは、もっと早く情報を米帝に与えて、戦争を抑止しては?」

「わかっておらんな。中国の国家主席は計画を面子にかけて押し通すつもりだ。

情報が洩れたら漏れたなりに、計画を前倒して強行するだけだろう。計画そのものを止めるのは無理だ。奴が失敗を認めることは無い。」

「だとすれば、この状況をいかに利用するかですね?」

「そうだ。中国側の要求通りに動いて見せるが、中国に勝ってもらっても困るのだ。ワクチンだけはありがたく頂いておくとしよう。それとな。」

「はあ?」

「倭奴の政治家は無能者揃いだ。

せっかく我々が情報を漏らしてやっても、余程はっきりした情報でないと、目先の仕事に逃げて何の手も打たないだろう。例の計画はいつでも実行できるように準備しておけ。」

「おさすがでございます。主席様の深謀遠慮に感服致します。」


2024年9月5日 15:00 東京


真紀子はたまの休みを相変わらず一人で過ごしている。

結局、花は夏休みを通して一度も帰省しなかった。


スマホでニュースアプリを開き、沖縄関連のニュースを見てみる。

花が係わっている環境保護活動がニュースになっていないかと淡い期待を抱いたが、無駄だった。


代わりに沖縄で日本からの分離独立を主張する人が増えている、というニュースが目立っていた。

沖縄県知事は政府の米軍基地負担軽減に対する、政府の長年に渡る不誠実な態度に原因があるとして、その主張に理解を示しているらしい。さらに政府はそんな知事に対して「極めて遺憾」としている。

これに対して知事はさらに反発を強め、沖縄県内の避難シェルター建設への協力を拒否するとの声明を出したらしい。


国際ニュースを見てみる。

中国では毎年大規模な洪水が頻発するようになったことを受けて、大規模な災害救助訓練を行うらしかった。軍隊も万単位で動かすらしい。


要は、真紀子の知りたいニュースは何も無かったのだ。


多少迷ったが意を決して、花に近況を聞こうと電話をかける。

しかし、半ば予想していたが、忙しいのか鬱陶しそうな態度を取られた挙句、早々に電話を切られてしまった。

電話に出てくれて、花の声が聞こえただけでも満足することにする。


花は母親からの電話を切ると、ブツブツと独り言を言っていた。

その様子を見たSONの1年生が話しかける。

「八木さんどうしたの?迷惑電話?」

「小田君?うーん。それに近いかな?お母さん。子離れしてくれなくて。」

「お母さんだって寂しいんだよ。電話くらいいいじゃん。」

「小田君優しっ!私なんか、最近お母さんと話すとすぐイライラしちゃうんだ。」


そばで花と小田の会話を聞いていた澤崎が口を挟む。

「それは、お母さんはここ半年で成長した八木さんを見ていないからだよ。

八木さんは成長して自信を深めているけど、お母さんの認識は東京に居た頃の八木さんのままで、そこにギャップがあるはずだよ。そのへんに問題があるんじゃないかなあ。

SONの活動って、親御さんに理解され難い時もあるけど、そもそも皆18歳になった時点で「大人」だしね。」

「なるほどー。さすが澤崎さん!」

「いつまでも実家で暮らすわけじゃないでしょ?少しずつ距離は取っていった方がいいって。

あ、そういえば小田君、船舶の免許取るって?」

「そうなんです。」

「頑張って!青池がリスペクトするって言ってたよ!免許取って、アイツを船に乗せたら喜ぶんじゃない?」

「そうですかねー。えへへっ。」


同時刻 石垣沖


石垣島の沖合で中国と日本の「漁船」が横付けしていた。

2隻とも船上に漁具を積んでいるが、漁は一切していない。

中国側から日本側に荷物を受け渡している。


日本側の「漁船」には李が立っており、作業を指揮していた。

「急いでくれよ。海保や日本軍の哨戒機に見つかったら、せっかくのシノギがオシャカになるぜ。」

中国側は海上民兵の偽装漁船、日本側は反社会組織の密輸船だった。


双方は手際良く発泡スチロールに入った荷物を日本側に移し終え、中国の偽装漁船は本国へ向かって帰って行った。

石垣島に帰る船上で李は煙草を吹かしながら、反社の男と会話をしていた。

「カシラ。相変わらず手際が良くて助かるよ。口も固い。金は後で事務所に届けさせる。お約束だが、積み荷のことは聞くなよ?」

「そりゃあ分かってるけどよ。最近頻繁すぎやしねえか?そろそろ海保に目を付けられてると思うぜ。」

「ああ、アンタらにブツを運ばせるのはこれで最後だ。

当分船を出すことは無いし、次からは船を出す時は、手なづけた学生のガキ共にやらせる。

アンタらには別の仕事を頼むから、シノギの心配はしなくていい。

ちなみに祖国を裏切ってるかもしれんが、そのへん大丈夫か?」

「食ってくためには仕方ねえよ。俺らを締め付けすぎるお上も悪い。国の自業自得だ。」

「いい答えだ。親分さんによろしくな。」


2024年12月27日 12:00 東京


さらに冬休みになっても、花は帰ってこなかった。

(このまま正月も帰らないつもりかしら?)

電話をかけても繋がりにくく、たまに繋がっても鬱陶しがられてすぐに切られてしまう。

そんなに沖縄の生活と大学の勉強、それにサークル活動が楽しいものだろうか?

真紀子は段々と心配になってきている。



その日の朝、郵便受けに日本学生支援機構からの郵便が届いていた。「重要」とある。

「なんだろう?」

封を開けた真紀子は、思わぬ文面に仰天した。

書類には花の成績が不良なため、この成績が続くようなら奨学金の支給を打ち切る可能性がある、と記載されていた。

「ちょっと、ちょっとどういうことよ?」

同封されている成績表を見る。

前期の成績もギリギリだったが、後期の中間テストは散々だった。

(あの子、勉強はちゃんとしてるって言ってたのに?)


真紀子は気づいていなかった。花は既に中国語以外の講義には出席すらしていなかったのだ。

平日も「サークル活動」に費やし、毎日SNSでも活動していた。昼夜が逆転する程の活動の結果、親中派アカウントとして名の知られた存在になった程だった。



(どうしたらいいんだろう・・?)

真紀子は娘に嫌われるのが怖かった。

親子喧嘩を覚悟で電話をかけて、状況を問いただすべきだろうか?

メッセージアプリだけだと、既読スルーされそうな気がした。


職場で施設長始めとした「母親」経験者達に相談してみると、「まあ、そういう時もある」「大学を留年、退学になるのは珍しくない」「好きにさせて、痛い目みさせて学ばせるのが一番」というものだった。

果たしてそうだろうかと疑問に思う。

特に最後に意見は他の子ならともかく、高校で既に痛い目を見ているのにあまり反省した様子もなく、思い込みの激しいままの花には当てはまらない気がした。


そんな冬のある日、職場での昼休憩で、真紀子は新人の男性職員の勝部という若手とたまたま昼食が一緒になった。

大卒だったが自分の性格に合っているからと、上場企業のサラリーマンから介護職に転職してきた人物だ。

彼の共働きの妻の方が出世街道を歩んでおり、遥かに高い給料をもらっていることもあった。

完全に尻に敷かれているが、気にする風もない。


「勝部君どう?少しは慣れた?」

「ええ、おかげさま大分。でも時間に追われ出すと、あせってミスが増えてしまいます。そうなってくると、元から手が遅いので先輩方に指導を受けがちですね。」

「それはまあ、仕方ないわねえ。そのうち慣れてくるから落ち着いてね。

先輩は自分の物差しで何でも判断しがちだから、新人さんの方が利用者さんの受けは良かったりするものよ。」


そんな調子でしばらく当たり障りのない仕事の話をしながら、ふと花より一世代上の大学卒業者の意見も聞いてみようと真紀子は思った。

勝部にも娘がサークル活動に入れ込みすぎて、1年目から成績不良で心配しているという話をしてみる。

勝部の最初の反応は「まあ、娘さんも若いですから、空回りすることもそりゃあ、あるでしょう。僕にも覚えがありますし。」

他と似たような答えに真紀子は多少がっかりする。

「・・・それにしても、よっぽど興味を惹かれるサークルなんですね。どんなことをされてるんでしたっけ?」

「環境保護活動だそうよ。」

勝部の表情が少し曇る。

「娘さん、どこの大学でしたっけ?」

「沖縄の○○大学だけど?」

勝部が真顔になる。

「その・・・。娘さんのサークルの名前って分かります?」

「ええと、なんだったっけ、ずっと前にメッセージで教えてもらったわ。アルファベッド三文字だったわ。見てみるわね。」

スマホを操作しようとするが、勝部が先に答えた。

「もしかして、SON?」

「そう、それ。SON!有名なの?」

「マジですか・・・。ヤバイかも・・・。」

「え?」

勝部は他に人が居ないことを確かめてから、声をひそめる。

「僕もネットでかじっただけの情報なんですけど、そのサークルって、環境保護活動はダミーで本当の目的は、日本人の学生を中国のスパイにすることだって噂があるんです。

昔の過激派みたいになりかねないって話まであったような。」

「中国の?なんでまた?あ、そういえばあの子、中国語を勉強しだしたわ。」

「一度娘さんと良く話しておいた方がいいんじゃないですか?今ならまだサークルから抜け易いかも。

その前に、僕も一度良く調べてみますんで。噂もただのデマやフェイクかもしれないですし。」

「悪いわね。でも助かるわ。」

「気にしないで下さい。八木さんにはいつもお世話になってますし!すいません。もう仕事に戻ります。情報整理できたら、メッセージアプリで報告しますね!」


勝部が自分で言っていたように、デマやフェイクニュースの類だと思う。

だが、花が性格を利用されて、妙な活動に巻き込まれているとしたら?

入学後の花の変化が腑に落ちる気がした。

(いやいや、きっと考えすぎよ・・・。)

真紀子も仕事に戻る。


食堂のテレビは、ウクライナの戦場でロシアの攻勢が大失敗に終わったことを報じていた。

中国側の期待外れもいいところだった。


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