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1話

春も終わり、じめじめとした空気になり始めた6月の今日、この頃。私は今年度三度目となる日直としての役目、日誌を書き終えるために放課後のなんとも言えない静かな時間に1人で席に座ってペンを動かしている。




放課後はどうしてこうもゆったりとした時間が流れるのか、外からは部活動をしているのかグラウンドから人が話す声が開いた窓の奥から聞こえてくる。時たま教室の外廊下を靴が歩く音が聞こえては、去っていく。





一通り書き終えた日誌を閉じて一息つく。机に肘をつきながら、誰もいない教室をぐるりと見回す。




(大分減ったな…)




入学当時は40人以上いたクラスの机は今では30人にも満たない机しか用意されておらず、1週間に1人以上のペースで人数が減っていくクラスになんとも言えない気持ちになる。




この世界では、今までよく話していたクラスメイトの席が明日には存在しない、なんてことはよくあることだ。そんなふうに今まで減ってきたし、そのことに対して誰も疑問に思わないのか、人数が欠けても普段通りの授業、普段通りの休み時間が繰り返される。




(まあ、世界が違うんだから、当たり前が違うのは仕方ないことだよね…)




もう一度深いため息をついてからゆっくりと日誌を持ちながら立ち上がる。




横に置いていたリュックを手に取って、肩にかけて教室を出ると誰もいない廊下が広がっていた。今日は土曜日なので、外の景色はまだ青空が広がっていて、窓に近づいて下を見ると中庭のベンチに座って駄弁りながら話している生徒が見えた。




教室から職員室までの近道は中央階段より西階段のほうが近いのでいつもは通らない人通りの少ない方へ歩みを進める。






この学校―霖海(りんうん)高校―は都心部にある割と最近できた新しめな学校だ。制服も評判で、制服を着るためにこの高校を受験してくる生徒もいて、土足で校舎を歩けるというところにも定評があるらしい。




今年の春から5期生として入学した私は制服がどうとか、土足で校舎を歩けるとかいう理由で入学したわけではない。この学校が他の学校よりこの世界の常識から離れているから選んだのだ。




【この世界は狂っている】それは前世を持つ私だからこそ思うことなのだろう。【正義】と【悪】というものがこの世界には明確に存在し、お互いを敵同士だと思っている節がある。この世界はそんな世界だ。






西階段に辿り着き、階段を降りていくと見知った人が階段のところで話していた。3人とも一つ上の先輩で、昔から何かと縁がある人達だ。




特に会うのが気まずいというのはないので階段を降りていくと音で気付いたのか3人の顔がこちらを見たのがわかった。




「あれ、水葱(なぎ)じゃん。まだ学校残ってたんだ。」

そう言いながら肩甲骨まで伸ばした髪を揺らしながら一階に着いた私の近くまで寄ってきたのは白蓮尊(はくれんみこと)といって、一つ上ではあるが同級生のような仲の友人だ。




「うん、今日日直だったんだよね。」

「そっか、私らこれから寄り道して帰るんだけど…行く?」

彼女は覗き込むようにしながらニヤリと笑う。




「行く!…そういえば兄と多津(たつ)は?」

いつもは兄ともう1人を含め、5人で行動しているイメージだったので気になって聞いてみる。




「あー、あれはもうすぐ来ると思う。」

「…もしかして、何かあったの?」

「まあ、そんな感じ?」

なんともあやふやな回答だが、彼女的には興味のないことなのだろう。完全に顔に「興味がありません」と書いてある。




喧嘩するほど仲が良いバカな兄達なので、またどこかで問題を起こしてるに違いない。こちらとしてはとばっちりが来なければノーダメージ、つまり私的にもあまり興味はないが、前例が前例なので警戒はしておいたほうがいいだろう。









尊の言っていた通り、件のバカ兄達はすぐにやってきた。




「ねえねえ、天雄(てんゆう)くん。さっきの話なんだけどね!」




知らない女を連れて。

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