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ローリング・ボール

和津ケインの頭にごちゃごちゃと浮かんでは消えていく妄想を形にした、ショートショートです。

K氏の部屋の中で、綺麗な水色をした大きなボールがひとつ、音もなくゆっくりと回転している。

少し床から浮いており、回転しながらあっちにゆらゆら、こっちにゆらゆら動いている。


K氏はこのボールと二人暮らしだ。K氏の部屋にはベッドと冷蔵庫以外は家具もない。


K氏はボールの回転を眺めるのが好きだった。くるくる常に回転していて、見ていて飽きないのだ。

仕事の疲れも、ボールを眺めていると自然と

忘れることができた。


K氏は「点Pを動かすこと」を生業としている。

本人曰く、「地味で体力をつかう裏方の仕事」だが、

そんな日々の業務の疲れも、部屋でボールを眺めていることで癒されているのだった。


その日もK氏はせっせと「点P」を動かしていた。

あと少しで終業時間だ。


終業時間間際になると、K氏の頭の中はボールのことで

いっぱいだ。あと少しでボールに会えると思うと、

「点P」を動かす手にも力がこもった。


終業のチャイムが鳴る前にはもう帰宅できるように

準備しており、就業時間ぴったりに職場を出た。


一刻も早くボールに会いたい!ボールの回転をずっと

眺めていたい!そう思っていたことだろう。


自室まで飛ぶように走った。ボールのツヤ、

ゆっくりと滑らかに回る動きを想像しながら。

勢いよく自室のドアノブに手をかける。

そこで、K氏は自室のドアに鍵が

かかっていないことに気がついた。


鍵を閉め忘れることなんて無いはずだ。毎朝、部屋を出る時は何度もドアノブを回して施錠を確認するからだ。


K氏は爆発するように動く心臓の痛みを覚えながら、

恐る恐るドアを開けた。


ドアをゆっくり開くと、体にまとわりつくような、

部屋の空気が漏れてくる。

ボールはそこには無かった。

K氏は足跡だらけの床に崩れ落ち、激しく泣いた。

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