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5.


 ルドガーの言葉に、リリアムは無言で応えた。


「…………」


 お説教なんだろうか。

 まあ、終わったことだし気にすんなよ。

 そう言ったら余計怒られるだろうなーと思って黙っているのだ。


「神殿を馬鹿にした後、神官長をアルバルトに会わせた。何故神官長を夢に連れて行った?」


 どうやら連れて行った人選に文句があるらしい。


「疑ってた人に見せた方が、勇者の意志が分かると思って」

「貴様のやったことは逆だ。王家は淫魔に操られ、それを止めようとしたと神殿が吹聴している」

「信じてる人だけを連れて行っても、どうせ同じこと言われるんじゃ?」

「だが、陛下と王家の証人にはなった」

「その人も、神殿に同調して王家のこと悪く言うかもしれないでしょ」


 可能性のことを言い出したらキリがない。

 しかしルドガーはイラついたらしい。こめかみに血管が浮き出ている。


「口の減らない下級悪魔め。黙れ!」

「自分が尋問するって言ったんじゃん。黙ったら話にならないでしょ」


 ちなみに、今日もまじないはばっちりかけてある。反論も思いのままだ。


「聞かれたことだけに答えろ。お前は神殿との繋がりがあるのか?」

「あるわけない。生理的悪寒がするから無理」

「では、ハーラルトとタルコリーの行方を知っているか」


 一瞬、誰だったっけと思った。

 確か、勇者パーティの賢者と魔法騎士だ。


「ああー、あの眼鏡とマッチョ。知らないけど、え、行方不明?」

「聞かれたことだけに答えろと言ったはずだ」

「知らないけど、先に勇者の所に行ったんじゃ?」


 すると、ルドガーはちらりと父王の方に視線を送る。

 王は一つ頷き、口を開いた。


「未だ破竜の剣は宝物庫の中だ。二人は剣を受け取っていないまま山脈に向かったのだろうか。剣を求めたアルバルトの要請を無視してまで」

「うーん、あの眼鏡は最初からずっと、疑ってたからあり得るかも。本物の勇者はそんなこと言わない、とか言ってたし」


 まあ別にあり得るんじゃない? と思ったがルドガーはそれを否定する。


「聖女レティーナは神殿に閉じ込められたままだ。いかに賢者と魔法騎士といえど、回復役も居ないまま山脈を超えようとするとは考えられない」

「じゃあ、逃げたのかも。もう面倒くさくなって」

「それもあり得ない。ハーラルトは誰よりもアルバルトのことを大切に思っていた。勇者ではなく、アルバルト個人の親友だ」


 同じパーティであり親友。その勇者が行方不明になったのに、捜索せず国に帰ってきた。

 一体何故?

 まあ考えても分からん。


「じゃあ本人に聞けばいいんじゃない」

「探せるのか」

「魔女なら」


 面倒だからイヴリンに振った。

 イヴリンが口を開く。


「探すことは出来ますが、方向の検討もつかないとなると大海から一粒の真珠を探すようなもの」

「時間がかかるということか」


 魔女の言い回しはもったいぶっている。そう思っているとブーメランが返ってきた。


「それよりも、リリィの夢から探す方がまだ早いでしょう」

「いや、こっちもめちゃ時間かかるし。ってゆーか。賢者探すよりさっさと勇者を助けに行けばいいでしょ。こっちが最初に見つけてから、どんだけ時間かかってるの。これだけぐずぐずしてたら、助かる者も助からないね」


 この提案に、ルドガーは冷たく返した。


「神殿から横やりが激しく入っている。国王、破竜の剣を持ち出すべからずと。それもこれも、貴様のせいだ」

「いや、私のせいではなく協力する気がない神殿のせいでしょ。勇者を助けるつもりがないんじゃ?」

「確かに、アルバルトは歴代勇者とは違い、神殿の加護を拒否した。それどころか、神殿から遣わされた聖女を篭絡していた」


 ああー。あの聖女、勇者のこと好きでたまらない感じだったっけ。

 元は神殿から遣わされていたという存在を、自分の味方に引き込む。勇者は器が大きく心が暖かな人だったからそんなことが出来たんだろう。


「つまり、この国は一枚岩ではないと。それをこの国とは何の関係もない淫魔に言っても仕方なくない?」


 これに尽きる。

 神殿と王家が揉めようと、究極的にはこの国がどうなろうと、リリアムには関係がないのだ。

 しかし、ルドガーは平然と言い返す。


「我がフォルシオン王国は四百年もの歴史がある。中には意に反する者もいるが、それも含めての国だ。貴様のような淫魔ごときには分かるまい。この歴史と、次代への責任が」

「ふーん、四百年ね。ぽっと出の王家が、四百年くらいで偉そうにガタガタと」

「なんだと……!」


 睨みつける視線は、ルドガーより何故か横のイヴリンの方がキツかった。

 なんだ?

 不思議に思うが、今はルドガーへの反論が優先だ。


「第一王子であり勇者が行方不明になったって聞いたら、国をあげて捜索し見つけたらすぐにでも救出しにいけばいい。それを、行方不明になるのは伏せ、いざ見つかってもぐだぐだと全然探しに行かない。動きが悪すぎる。はっきり言って、この国はもう腐ってるね。それを修正する方法も分からないんでしょ? たかだが四百年でこれだったら、もうすぐ終わるんじゃない」

「リリィ! 口に気をおつけ」


 言っていいことと悪いことがある、とイヴリンに注意されたが淫魔だからそんな判断つかないもーん。

 リリアムは言いたいことを最後まで言う。


「千年後にはこの国は記録にも残ってないね。私は千年後でも生きてるし、それを見届けるわ。まあ、今言ったことも忘れるだろうけど」


 お前の国など記憶にも記録にも残らない、そう言ってやったのだ。

 まじないの成果は抜群で、悪口の瞬発力がすごい。その結果に満足したが、ルドガーは怒りを爆発させたようだ。すごい形相になっている。

 そして、隣のイヴリンも氷点下の怒りの気配。こっちの方が怖い。

 ルドガーはつかつかとこっちに向かってくると、片方の手袋を取ってバシン! と足元に投げつけた。


 け、決闘だ~!

 漫画でしか見たことない。いや、アニメや映画もでも見たか。

 まさか自分が決闘を受けることになるとは。

 ちらりとイヴリンを伺うと、此方を睨みつけている。味方はしないし止めもしないということか。


 リリアムは手をスッと動かして風魔法で足元の手袋を浮かせた。そして手袋を掴むと腐食魔法を使う。闇の精霊の力だ。みるみる手袋は黒くただれてボロボロになっていった。

 これは何も、かっこつけてるのではない。魔法がちゃんと使えるかを確認しているのだ。

 風の魔法は問題ない精度だが、腐食魔法はいつもより効きが悪い。やはり対人の攻撃魔法は威力が抑えられるような結界が張られているとみた。


 その間に、ルドガーは側近から剣を受け取って鞘を抜いた。剣がギランと光っている。

 剣と魔法の戦いか。

 大丈夫かな……。


 リリアムは前世から平和主義で戦ったことなどないので、タイマンなど勿論初めてだ。剣を向けられたことも無いが、ちゃんと動けるだろうか。

 まあ、詠唱なしで魔法を使えるし、淫魔の力もある。何とかなるだろう。

 と思った瞬間、ルドガーが恐るべきスピードで詰め寄ってきた。


 速い!

 どうせ王子さまのなまくら剣術かと思っていたが、迷いのない素早い動きだ。

 これは、確実に退治しようとしている。

 淫魔を滅ぼさんとする瞳だ。


 しかし、それってズルいと思う。向こうはリリアムを滅ぼそうとして倒してもいいが、こっちが王子を殺したらかなりとても、めちゃくちゃ大変なことになるに決まっている。

 精神系の魔法でダウンさせるしかない。

 だがその前に。


 リリアムはまず幻影を使った。リリアムを斬ろうとするルドガーの背後を狙う。

 しかし、勘がいいのか手ごたえがないと感じ取ったのか、リリアムの幻を斬った返す刀で後ろに振り替えり構える。

 なかなかどうして、堂に入った戦いぶりだ。

 動きがワンテンポ遅くて、まだ空中に浮いたままだったリリアムは逆に助かった。

 背後にすぐ空間転移していたら、斬られていただろう。


「浮いている!」

「道具も詠唱もなしで、これが悪魔の力か」


 ギャラリーの騎士が驚いている。

 人間の魔術では飛行は大変なものらしい。イヴリンでも、箒に乗っていた。

 体一つでそのまま飛んだり浮いたり出来るのは便利だし、結構なアドバンテージだ。

 リリアムは上から色々魔法をかけた。


 暗闇、虚弱、恐怖、睡眠。

 しかしどれもいまいち効いていないみたいだ。

 目も見えているっぽいし、体力にも変化はないようだし、心も折れてないし、寝ていない。

 ステータス異常系の魔法はレベルが低い者から高い者へかけても滅多に効かないのだ。

 少しは鍛えているようだな。では、状態異常は諦める。

 リリアムはまた手をスッと動かした。


 すると、ルドガーの影から黒い縄が伸びて足元を縛り付けていく。

 しかし、拘束力は全然弱いはずだ。子供でも出来る初歩の魔法だし、リリアムの経験値は子供以下だ。

 果たして、ルドガーは剣を振り下ろし縄をざくっと切り裂いた。

 その一瞬の隙があれば、次の魔術が使える。


「豚になーれ!」


 この変化魔法は、詠唱は必要ないと思うがいかんせん実際に試したことはないので起動に言葉を発してみた。これで多分、豚になるはずと思う。

 だがそれを聞いたルドガーは大慌てで魔法結界を張った。

 結界は魔法を跳ね返す者だったらしく、緑の光の束が結界に当たり、そのままリリアムの元へと戻っていく。

 哀れ、リリアムは豚の姿になって地面へと落ちた。


「やったか?!」

「そういう時ってやってないんだよねぇ」


 ルドガーは振りむこうとしたがもう遅い。リリアムは飛翔の魔法を風の精霊の力で勢いをつけ、ルドガーの背中に思い切りドロップキックを決めていた。


「ぐぁっ!」


 蹴りを入れるのはいい、昨日イヴリンが言っていたからだ。

 ざまあ。

 リリアムは得意になって王子を見下ろし、そして次の動きがワンテンポ遅れた。

 すぐに空間転移か飛翔でルドガーの手が届く範囲から逃げなければいけなかった。

 もんどりうって倒れるはずのルドガーは、空中で体をひねってリリアムの腕を掴んだ。そして自分が上に、リリアムが下になるように倒れこむ。


 あっという間に、リリアムはマウントポジションを取られていた。

 ここでもプロレスかー。

 攻撃される前に逃げよう。


「この忌々しい仮面をはずせ!」


 あっと思う間もなかった。

 何故か、ルドガーはリリアムの仮面を取り外してしまったのだ。

 なんという暴挙。人の隠してるものを許可なく勝手に暴くとは、許せない行為だ。

 しかも、彼の凶行はそれだけではなかった。

 リリアムの素顔を見て、鼻で笑って言ったのだ。


「フン、これが淫魔の顔か。醜い化け物め」


 そこまで言う?

 リリアムは前世から、美醜をジャッジされどうこう言われるのが大嫌いだった。

 聞こえるように男子数人であの子は可愛い、あの子がブスと言う輩だ。

 それだって、直接本人にお前は醜い、までは言ってこないだろう。言う奴もいるだろうが。

 とにかく、この男は言ってはならないことを言ってしまった。


 許せねぇ……!

 リリアムは空間転移で空中に逃れ、そして風の魔法で仮面を元通りにハメた。

 そして、平坦な声で告げた。


「この侮辱を、呪いに変えよう。王子ルドガーよ、お前は恵まれし豊かな人生をこれから先も送ることだろう。ただし、お前が本当に欲しいと望むのは決して得られない」

「……!」


 ルドガーの表情が驚愕に歪んだ。

 リリアムは捨て台詞を吐いた。


「満足を知らず、常に不満を抱え渇望しながら生きることだな」


 そして空間転移で城を後にする。

 もう二度と城には行きたくないし、王族なんかとは会いたくもない!

 腹を立てながらリリアムは宿に戻り、帰り支度をするのだった。


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