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3.


 まあ、部屋に入ってしまえばどうにかなる。

 その予想は当たっていた。リリアムは魔女の間に入り込んで、感心して見回した。


「わー、すっごい施錠魔術に結界。厳重だぁ」

「淫魔め、貴様の行動は全て監視しているからな」


 ジルが物凄い目つきでこっちを睨みながら言う。王宮に入ったら帯剣もしている。

 まあ、斬られたらその時は受験せずに済むかもしれない。

 リリアムはジルを無視して解除に勤しんだ。

 部屋の中は本棚戸棚や机、それにソファセットというよくある執務室の形を成していた。

 王家から魔女に充てる手紙や書類はここに置かれ、いつの間にか無くなっているという。返事はきまぐれらしい。


 リリアムはその中で一番警備が厳重な机の引き出しに狙いをつけた。

 解除は大体、グレイとの戦いの最中に編み出した結界を壊す方法でなんとかなる。施錠の魔法も、無理やり破壊した。元通りにしなければいけない時には不向きなやり方だが、別にイヴリンにバレても構わない。心臓を取られる契約にサインしているのだ。もし嫌なら、部屋を荒らさないという一文も加えておくべきだ。


 まあ、完全に泥棒の言い分だが。いや、盗まない。見るだけ。

 しかし、この行為を咎めず見ているルドガーは何なのだろう。そんなに魔女の机の中が気になるのだろうか。

 チラッと背後のルドガーを見ると、彼は顎で指す。


「早くしろ。お前が見た物は全て開示してもらう。持ち出しも許さん」

「そんなお宝、入ってるの?」

「初代アダム王と関わりのある何かが入っているやもしれん。俺が抑える」


 どうやら、いずれきたる王位争いに有利になりそうな物があれば、奪おうとしているらしい。

 何もいいものは入ってないかもしれないのに。何かあるかなー。

 リリアムは期待を込めて、最後の施錠をこじ開けた。


「よし、開いた」

「中を見せろ」


 中には書類や絵姿、冊子などが整頓されて入っていた。

 とりあえず、書類をルドガーに渡す。


「これは! 建国に関する書類だと? それに、この冊子は! 今は失われた、賢者の書じゃないか。信じられん!」


 何だかすごい物が出てきたらしい。ルドガーは大興奮していた。

 リリアムはその辺りは分からないので、絵姿を見る。

 数名の男女が描かれた、絵姿だ。あまり精巧なものではないので、オリジナルではなく印刷した物かもしれない。

 何気なく、その絵姿の裏を見たリリアムはヒュッと息を呑んだ。

 そこには、サインがあった。


『愛堕夢』


 アダムと読むのだろう。

 これを書いてあるということは、日本人は確定だ。

 しかし、こんな難しい漢字、特に堕はリリアムには書けない。スマホの辞書変換で呼び出さないと無理だ。

 暴走族?


 アダムは暴走族の少年だったが、何故か勇者として呼び出されたとか?

 もう一度、マジマジと絵姿を見る。

 白黒で小さいので、日本人の顔かどうか分からない。

 すると、ルドガーがサッと横から奪い取った。


「この写真は?」

「さあ……」

「裏のこの記号はなんだ」

「さあ~、分からないけど……」

「隠し立てすると、為にならんぞ」

「知らないって」


 リリアムは、別の引き出しを開けてみる。

 そして、また絶句した。

 そこにはどう見ても携帯電話……、ガラケーが二台仕舞われていたのだ。

 ルドガーが手を伸ばす。


「これは?」

「さあ~……」

「魔道具の類か」


 ルドガーが突起上になっているボタンを押しても、何も起こらない。

 リリアムは固唾を飲んでその様子を見守った。

 今、この世界には携帯はない。

 でも、四百年前には使われていたっぽい。アダムが持ち込んだのだろう。


 しかし、それは一般に流通するのではなく、勇者パーティだけが使えるよう魔道具として改造されていた。

 ということは、今でも携帯電話を使ったり作ったり出来るのかもしれない?

 そうなれば通信革命が起こる。


 それを、今ここでルドガーに伝えていいものか。いや、黙っておこう。

 更に、その下の引き出しには大切そうに封に入れられた書類があった。

 ルドガーがさっそく中を見る。


「これは? 書き損じの書類のようだが。何か隠された意味があるのだろうか」


 リリアムはその裏に書いてある落書きを見て、腕組みをしてしまった。

 相合傘のマークで、右側に愛堕夢、左側には威武と書いてあったのだ。

 アダムとイブだろう。


 これは想像でしかないが、イヴリン……その当時イヴと名乗っていた名前に合わせ、初代王はアダムと改名した。その意味も説明しただろう。二人で一対の名であり、新しい国を創るに相応しい名前だと。

 アダムはイヴリンを憎からずは思っていただろう。けれど、結婚相手は魔女ではなく別の女性を選んだ。


 イヴリンは魔女として、国の理の外で暮らすことになった。

 私はたたらばで、そなたは森でというやつだ。

 その時に、約束をしたのではないか。この国を、それぞれの立場から守っていこうと。

 普通、魔女はそれほど長寿ではないとマーガレットが言っていた。

 イヴリンは建国当初から生き続けている。その約束に縛られたまま国を守り続けている。そう考えると、辻褄が合う。


 それもこれも、イヴリンが一人の男を思い続ける超重い女だからだ。他の男に現を抜かして国を守るなんておろそかにしてしまえば、一人で長生きすることもなかったのではないか。

 そんなことを考えていると、ルドガーが探るような視線で見降ろしてくる。


「何を考えている」

「……熟女好きを探そうかなあ」

「あ?」

「うーん、まあ今日はここまででいいや。引き出し、閉めるけどそれ持っていく?」


 ルドガーの手元には書類に冊子に、そしてガラケーがあった。


「この書類だけは持っていく。精査が必要だ。後は戻しておく」

「じゃ、閉めとくね」


 ガラケーを引き出しに入れ、そして閉める瞬間に精霊界に収納した。

 バレなかったはずだ。

 しかし、今すぐ帰りたい。

 リリアムは逃げるように空間転移で王宮の外に出ると、移動魔法で家に帰ったのだった。




 帰宅すると、リリアムは部屋に駆け込みガラケーを精霊界から取り出した。

 サイド部分にある、電源ボタンらしい突起を押すが無反応だ。

 電池が切れているからだろうか。リリアムは電池パックがあると見られる、後ろの部分の蓋を開けてみた。


 そこには電池パックの代わりに、赤く輝く宝玉が鎮座していた。

 宝玉の充電は、どうすればいいのだろうか。魔力を込めてみる? いやでも、リリアムの悪魔の魔力を注いで壊れたりしたら困る。もしくは、宝玉を新しい物に変えてみる?

 どうしようか、と考えていると部屋の扉が開いた。ザックだ。


「帰っているなら灯りくらいつけろ」


 気付けば、部屋は薄暗くなっていた。


「ねえ、聞きたいんだけど。この魔道具、何か分かる?」

「知らん」

「じゃあこの宝玉、何の魔獣のか分かる?」


 同じ魔獣を倒して新しい宝玉を入れてみようかと思って尋ねたのだ。

 ザックは何やら呟いて宝玉を見つめた。


「え、何?」

「鑑定している」

「そんなこと出来るんだ」

「……小型赤竜の宝玉のようだ」

「へー。分かるんだ。その小型赤竜の生息地、知ってる?」

「居ない。絶滅している」

「えー!」


 四百年もあれば、竜も絶滅するようだ。


「小型赤竜は、皮は硬く鎧や盾に加工するに適していた。また、肉も美味だったらしい。乱獲が進んで、小型赤竜は絶滅。竜も希少種だ」


 その希少種、二体も倒してしまったリリアムは言葉に詰まった。一体はゾンビだったが。


「うーん。この魔道具を復活させたいんだけど、どうしたらいいかな」

「工房に行けばよかろう」

「なるほど!」


 そういえば、イヴリンから工房の名前を聞いていた。

 一文字も覚えていないが。


「サノワに行くなら、途中で黒蜘蛛の魔獣の生息地がある。そこで糸を取って持っていき、加工を頼むといいだろう」

「なるほど~」


 流石、頼りになる。アウトドアの狩猟と旅はザックに任せておけば間違いないだろう。

「では明日の早朝に出発する」

「行ってらっしゃい……着いたら合流するから呼んで」

「お前も一緒に来い」


 その言葉には耳を疑った。ザックと旅なんて、多分しごかれまくる修行の道中になるだろう。


「え、ヤだ」

「素材は自分で集めろ」

「じゃあ、素材が出るとこで呼んで」

「己を鍛えろ。走って行け」

「無理! 体を鍛える淫魔とか聞いたことないし!」

「ならばその最初の一人になるんだな」

「絶対無理!」


 出発まで散々揉めたが、走ったら胸が痛くなると主張し、移動の同行は勘弁してもらった。

 胸が大きいと走ったら揺れて痛いのは事実だ。

 ただし、素材集めや魔獣討伐などは自分でするということで落ち着いたのだった。


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