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1.


 今日は学校見学会だ。

 何が悲しくて、学校になぞ行かなければならないんだ。

 しかし、誓約書をサインしてしまったからにはイヴリンのいう事を聞かなければならない。隙を見てあの書類を盗み出して燃やしてしまえればいいのだが。

 いや、それも対処療法だ。


 今まで、イヴリンのアクションに対して対応してはそれが破られる、という連続だった。そうではなくて、こちらから仕掛けて相手を出し抜かないと、この関係はずっとこのままだ。いつかイヴリンの上手をいき、もう自分は魔女の使い魔ではないと証明しなければいけない。

 今のリリアムには叶わぬ夢だが。


 急ぐことは無い。ライフワークとして粘り強く挑戦し続けるしかない。

 だから渋々、ノートの姿になって年頃の令嬢が着そうなワンピース姿になった。

 リリアムが見たノートは、瘴気で肌がぼろぼろになってほぼ寝たきりだったので、元気だったらこんな感じだろうという想像だが。三歳上のマーガレットを幼くしたイメージも湧くので、大体は合っているだろう。


 現在、学校は長期休暇中だ。その間に、ルドガーが学校を案内してくれるらしい。


 リリアムは、ルドガーが賢王になれるとは思わない。普通の人間で、たまたま王族に生まれただけの凡庸な男だ。イヴリンがこんなに国に尽くして、その果てが悪政とまではいかなくても傾国に繋がるなら無駄な努力すぎる。


 その点、第三王子のラスティンは魂が輝いていた。あれは神の祝福を受けた人間だろう。そういう非凡な王子の方が即位するに相応しいのではないだろうか。

 まあ、この国がどうなろうとリリアムの知ったこっちゃないのだが。


 待ち合わせ場所は王都の広場だ。そこで合流して馬車で行くらしい。

 普通の人間なら王都に出入りするのも城門をくぐらなければいけないが、リリアムには関係ない。家から直接広場まで移動魔法で行って、それっぽい馬車を見つけるなり中に転移した。


「なっ! 何者だ!」


 中にはルドガー以外に、同じ年頃の青年が居た。同じ制服を着ているから魔法学園の生徒だろう。銀色の前髪を片方に流して、紫の瞳を光らせた美貌の青年だ。ただ、三白眼で目つきがかなり悪い。

 護衛役も兼ねているのか、ルドガーを守って前に出て、リリアムから庇っている。


「悪魔だ」


 威厳を出そうと端的に無表情で言う。

 すると、護衛の青年は息を飲んで驚く。見る間に緊張状態となっているし、全身を警戒で硬くしながら身構えている。

 リリアムはじーんと感動さえしていた。

 そうだ。これが足りなかったのだ。


 今までの人間ときたら、悪魔のことを舐めていた。警戒もしないし怖がらないし、いいようにこき使うし、ザックにいたってはちょっとのことですぐ怒るし小言がうるさいし!

 でも、今、この青年の魂からは恐怖が漂ってくる。

 本能レベルで怖がっているのだ。

 悪魔は、人間の恐怖を好むというのは本当だったようだ。リリアムは心地よさにうっそりと笑った。


「ジル、座れ。警戒は不要だ。御者へ合図を」


 ジルの警戒を解いたのは、ルドガーだった。そう言われてハッとしたジルは、言われた通りにする。すぐに馬車は走り出した。

 リリアムは考えてきた嫌味を即言った。


「お前、友達居ないの? 他に手伝ってくれる人が居ないからって淫魔をわざわざ入学させるとか、どうかしてる」

「……学園内に迷宮があることを、他の生徒に口外してはいけない。そういう決まりがある」


 リリアムがジルを指さし、この人は知ってるよねとジェスチャーするとジルが説明する。


「私は、殿下が夜半に寮を抜け出したので跡をつけ、調べて知った」

「はー、なるほど。教えなくて知るのはいいんだ。じゃあ二人で行けば?」

「出来るならば、そうしている。後は現地で説明する」


 説明は後とのことなので、リリアムは次の嫌味を言う。


「魔女殿がお前を後押しする理由、知ってる?」

「さあな」

「初代国王アダムに感じが似てるんだって。四百年前の人間と見た目が似てるから即位させたいって、どうかと思わない? 隔世遺伝にも程があるでしょ。中身は全然違うだろうに」

「……どうであろうと、魔女の助力が貰えるならありがたいことだ。どのような力であれ、今の俺には必要だからな」

「ふーん……」


 話は終わった。

 ルドガーは真っすぐ前を向いていて何だか人を寄せ付けない態度だ。

 なんというか、ルドガーは変わった気がする。前はもっと小物って雰囲気で雑魚っぽかった。それが今では、一応王族っていうロイヤル感が出ている。

 成長したのかもしれない。

 こうやって無駄口をたたかず、理知的な態度を取るならこっちもそれなりに協力してやってもいい。


 リリアムは基本、平和主義なので相手が突っかかってこなかったら静かにしているし、親切にされたら嬉しくてちゃんとお礼をしたくなる。

 ルドガーも最初は酷い態度で腹が立ったが、心を入れ替えたのかもしれない。王座を目指す為に冷静に協力を求める。それなら揉めずに心穏やかな仕事となるだろう。


 そんなことを考えていると、ほどなくして馬車が停まった。学園に着いたのだ。

 リリアムは転移で馬車の外に降り立つ。


「これが、魔法学園……」


 広大な敷地を持つ学園の門は固く閉ざされている。当然、学生以外は立ち入り禁止だ。

 魔法学園、と聞くともっとおどろおどろしい暗い場所かと想像したが、明るい陽が降り注ぐ綺麗な学園だ。

 後からルドガーとジルも降りてきて、そして門の隣にある通用口を開けた。


「見学の許可は取ってある」


 先にルドガー、そしてジルが通用口から入っていく。

 リリアムも続いて足を踏み入れた。

 瞬間、バシィっ! と光の壁に弾かれた。

 結界だ。


「痛っ! 入れない。淫魔は入校禁止?」

「王立魔法学園校則第十八条、学園内で許可の得られていない魔法はいかなるものも禁止とする……」


 ルドガーの台詞に耳を疑った。


「こ、校則~?!」

「そうだ。学園内では規律が求められる。校則の厳守は絶対だ」


 なんで今更、学校の校則なんか守らなくちゃいけないんだ。我、悪魔ぞ?

 ムカつきながら、どうにか出来ないかと質問をする。

 

「……許可を得るには?」

「教師が授業での使用を申請した場合。もしくは、学園長及び生徒会が特別に認めた時」


 生徒会ときた。

 久しぶりに聞く単語だ。学園モノって感じだとリリアムはしみじみ思った。


「お前、生徒会長だったりする?」

「昨年までは。今期は後進に譲った」

「じゃあ今から私は魔法が使えない?」

「そうだ。早く入れ」


 ぐぬぬ……と歯噛みしながらも、この変身魔法を使っているとどうやっても中に入れない。リリアムは仕方なく、元の姿に戻った。

 すると、中に入れるようになったのだ。


「先に言っといてよ!」

「試してみないと分からないだろう。淫魔殿の魔力は人知を越え、魔道具をすり抜けるかもしれないからな」


 そう言いながら、ルドガーは意地悪い笑みを浮かべている。

 こいつ、絶対人が顔面を痛めるの分かってて黙ってただろ。

 リリアムは、ルドガーは全然変わってなくて底意地が悪いままだと理解した。


「悪魔でも、魔法は精霊を行使したものになるの。それがこの世の理でしょ」

「俺に悪魔のことなど、分かるわけもない」


 いちいち腹立つな、こいつ。

 こめかみがヒクつくのを感じながら、リリアムは彼が挑発していると見て取った。後で、絶対吠え面かかせてやる。そう決心しながら、更に問いかける。


「……これは、どういう仕掛けなの?」

「門や出入口には、魔法を使っているかチェックする魔道具が仕掛けてある。使用者は弾かれる」

「魔道具……」


 そんなのあるんだ。ファンタジー物で聞いたことはあるアイテムだけど、実在するんだなあとリリアムは感心さえしていた。

 ルドガーは歩きながら説明を続ける。


「校内には、無数の魔法計測魔道具が仕掛けてある。ただ、それは魔力を弾くほどの力はない。魔力に反応して警報を鳴らすだけだ。警報は、職員室及び警備室に即通報される」

「誰がどんな魔法を使ったかは、その魔力計測には記録されない?」

「ああ、そこまでの機能はなかった」


 魔力チェックだけで、ログの機能はないのかもしれない。


「なんでそこまで分かるの」

「生徒会長の特権で、試せることは全て試させてもらった。……ここだ」


 目的地に着いたらしい。

 入り口も何もない、校舎裏に見えるが。

 ルドガーは呟いた。


「学園の生徒に、その道を開けよ」


 すると、隠し扉がスライドし、地下への階段が出現したのだ。


「これが、地下迷宮?」

「そうだ。これを見つけるのに一年以上費やしてしまった。お前が入学してから一気に攻略する」

「今、私は入れないの?」

「試してみろ」


 ルドガーとジルは階段に降りれるが、リリアムはまた弾かれた。


「うーん、学生じゃないから入れないのかな。っていうか、私にはこの地下迷宮のこと教えてるじゃん」

「さっき言っただろう。学園内に迷宮があることを、他の生徒に口外してはいけない、と。お前は生徒じゃない。俺も、初等部入学前の幼い頃に迷宮があると父に教えられた」

「そんなルールの隙をつくような屁理屈……」


 そう思ったが、学園内というのはそういうものなのかもしれない。

 校則に書かれていることは違反してはいけない。でも、書かれていないことには抜け道がある。


「屁理屈だろうが違反ではない。そして、この地下迷宮も学園内と同じく校則が適用される」

「えっ、じゃあ魔法禁止の迷宮?」

「そうだ。だから、お前を呼ぶのだ。人間には使えない、悪魔の力を使って迷宮を踏破しろ」


 ……淫魔にそんな大層なこと、出来ないんだけど。過大に期待しすぎでは?

 リリアムはそう感じた。

 とりあえず、整理しよう。


「学園内にある、魔力を感知する魔道具を全部壊すことって出来ない?」

「すぐにバレる」

「ですよねー」

「ただし、長期休暇中の夜半は教師も警備も居ない。狙うならそこだ」

「なるほど……その魔道具、全部でいくつある?」

「二百は無い。百五十ほどと見ている。ただ、隠されている場所にもあるらしく、正確な数は不明だ」


 ジルが口を挟む。


「ですが、三人で一つずつ破壊しても時間がかかりすぎます。それに、隠されている魔道具に気付かず地下迷宮内に入って魔法を使って警報を鳴らされると、最悪退学になります」

「退学?」


 リリアムが聞くと、ルドガーが答える。


「地下迷宮にも細かく規定が定められている。この迷宮の秘密を晒す行為をした場合は、学園を退学となる」

「そこまでするなら、もう迷宮は良くない? 普通に卒業したら」

「そうはいかない。歴代の王は、皆この迷宮を踏破しているのだ。むしろ、踏破していなければ王にはなれない」

「そんな決まり、無いでしょ~」

「決まりはない。だが、王位を争う時には条件となることもある。ここで取りこぼす訳にはいかない」

「はは~……」


 その為には淫魔を入学させて、仲間にして校則すれすれ、退学のリスクも負う。

 そこまでして王座が欲しいものなのか。リリアムには理解出来ないし、する気もない。

 まあ、やったら? こっちは適当に手伝うだけ。

 そんな一歩引いた思いで見ていると、ルドガーが言った。


「貴様には、先ず入試を合格してもらう」

「えっ……」


 入試、あるの?


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