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12.


 あ、これ死んだな……。リリアムは避けきれずに当たる瞬間、そう思った。

 だが、古代大蜘蛛の糸が能力を発動した。リリアムの体を魔法障壁が守る。光のブレスは直撃したが、リリアムは無事だった。

 その間も、グレイが羽を引き裂いている。

 剣はリリアムにダメ出しをしながら胸元に突っ込もうとした。


『転移をしたら、出現する時に空間に澱みが出来る。出現場所がバレバレだ』

「言うタイミングな?! あのブレスが直撃したら、普通死ぬから!」

『古代大蜘蛛の糸は、この程度の魔法は防ぐ』

「知ってたの、この服のこと」

『直撃した瞬間に分かった』


 おい!

 ともかく、剣は攻撃ばかりで守備には力を割かないことが分かった。ガードは自分でやらなければいけない。

 リリアムがその意識を持つと、剣との間に隔たりが発生する。

 それは動きのキレであり、スピードでもある。


 不死竜はその辺りもしっかり見ているようだ。突如、体を反転させた。

 ぶぅん、とゆっくりだが力強い動作で回転する。竜の背中側に居たグレイとリリアムは直撃した。

 リリアムは吹っ飛ばされて、背後にあった木に直撃した。


 物理攻撃を防御する結界は張っていたが、それを上回る力でグレイとぶつかったようだ。結界が壊れ、木には素でぶつかってしまった。背骨がおかしなことになった。めちゃくちゃ痛いが、悶絶している場合ではない。リリアムは淡々と回復魔法をかける。

 グレイはスタっと着地をして、次にどう飛び掛かろうか、不死竜を伺っている。

 その間も剣はダメ出しを続けた。


『もっと周囲を見て動け。我と意識を一体化するのだ』

「お前に任せたら、私が怪我して死ぬ」

『慣れの問題だ。すぐ避けられるようになる。白竜はのろまだ』

「慣れる前に死ぬってば」

『ええい、まだるっこしい。我に体を明け渡せ』


 これにはリリアムもカチンと来た。勝手なことばかり言う剣に、怒りをぶつける。


「お前が言うことを聞くんだよ!」


 剣の宝玉に向かって、更なる魔力をぶつける。体は痛いし、好き勝手に動かれ、こっちが魔術でサポートしているのを何とも思わず当然のように受け止めているのが腹が立つ。

 いい加減にしろ!


 半ばやけくそで、剣をねじ伏せようとした行為だったが、これは悪手だった。

 魔力を与えれば与えるほど、剣の力は強くなる。剣は喜びで宝玉を輝かせた。


『良き! 良き魔力だ! そなたは我に相応しいと認めてやろう』

「なーにをクソ偉そうに! 無機物の分際で!」


 リリアムと剣が揉めている間にも、グレイは不死竜に攻撃を仕掛けては向こうの攻撃を躱す、ということを繰り返していた。

 剣は不死竜の注意がグレイに向かった瞬間に攻撃を始めた。

 魔力が高まった剣は、とんでもない攻撃力を発揮した。不死竜の肉体に剣先が掠めるだけで、傷を負わすことが出来るのだ。すぐに自動治癒能力で治ってしまうが。しかし、期待は高まる。


「これ、宝玉に掠っただけでも壊れそう?」

『うむ! いくぞ!』


 グレイと協力して、不死竜に攻撃していく。

 だが、剣がリリアムに求めるものは、とんでもなく高いものだった。

 剣が要求するのは、一流の剣士の動きだ。到底、リリアムにはその通りに動けない。しかし、剣はリリアムの体がどうなろうと構わないので強引に動かす。その度に、リリアムの体は腱が裂け、骨が折れ、関節がねじ曲がった。


 必死に回復魔法をかけ、防御し、強化していく。魔法力がいくらあっても足りない。

 普通の人間なら、とっくに魔力が枯渇しているだろう。とんだ魔力食いだ。

 流石に、リリアムもグレイも疲れてきた。

 不死竜は咆哮する。その度に、小動物や小型魔獣の精気が吸い取られているようで、白い靄となって周囲に吹き荒れる。


 瘴気もまき散らされている。

 リリアムと剣は平気だが、生あるグレイは都度ダメージを受けているだろう。そろそろ、限界かもしれない。


「グレイ、そろそろ下がって」


 撤退もありだろう。リリアムは勝負に拘りがないので、そう思ったのだが不死竜は敏感にその気配を感じ取ったようだ。そして、妨害行動を取った。

 今までは剣への恨みがあるのか、どちらかというとリリアムを攻撃しがちだったのが、狙いをグレイに定めたのだ。


 グレイが距離を取っても、そちらに向かって歩みを進め追い詰めようとする。

 リリアムと剣が注意を惹こうと攻撃しても、復活した羽と尻尾の風圧で追い払われる。

 ヤバいかも、とリリアムが焦っている間に不死竜は鋭く咆哮した。

 グレイに向けてだ。

 直後、グレイは前足がガクガクと震え、今にも倒れそうになるのを必死に構える状態となった。


「えっ、何? 今どうしたの?」

『白竜があの魔獣の精気を食ったのだ』

「……!」


 早く、倒さなければ。これ以上不死竜が咆哮すると、グレイがもたない。

 焦るリリアムに、剣が唆す。


『白竜を倒すには、お前の更なる力が必要だ』

「どんだけ魔力吸うんだよ、燃費悪すぎだろ!」

『そうではない。お前は、まだ真の力を出してない』

「真の力ぁ?」


 少年漫画のバトルで、まだ本気を出していない敵が言うようなことを。

 リリアムは必死に魔力を使って、生きているうちでこんなに疲れることはないという程頑張っている。

 だが、剣は更なる要求をした。


『早く、真の力を出せ。さもないと、あの魔獣は死ぬ』

「もうこれ以上ないくらい頑張ってるんだけど?! どうすればいいわけ?!」

『我に魔力を与えよ』

「結局それかよ!」


 そうこう言っている間にも、不死竜はグレイに迫っている。リリアムも必死だ。死ぬ気で、後先考えず全ての魔力を注ぎ込む。


『そうだ! 今こそ、そなたの真の力を見せよ!』


 不死竜がグレイに向かって咆哮せんと口を開ける。

 その時、気が付けばリリアムは不死竜に飛んで突っ込んでいった。

 飛ぶのは、以前からやっている。淫魔として魔術を使わず浮遊したり、魔術を使って飛んで移動したりだ。

 リリアムは、羽を使って俊敏に飛んで不死竜に切りつけた。


 今までのリリアムとは動きもスピードも違うので、不死竜がまともにくらう。苦悶の声をあげる不死竜に、グレイがよろよろと間合いを取る。

 リリアムは、己の姿を見て驚いた。

 背中に羽が生えている。それに、今まで着ていた服が消え失せている。


 リリアムの体を覆うのは、申し訳程度の布地だけだ。乳房と下腹部をかろうじて隠してくれてはいるが、お尻を覆う部分は紐状になっていて丸出しだ。

 それに、腹部に禍々しく描かれた淫紋が熱い。これが、力の源なのだろうか。


『そうだ。それが、そなたの真の力だ』

「淫魔の姿、ヤバすぎでしょ……」


 人さまには決してお見せ出来ない公序良俗に反する格好だ。リリアムは冷静に思った。

 運よく、ここに居るのはアンデッドドラゴンと魔獣、それに無機物の剣だけなのでいいだろう。

 良くはないが。

 とにかく早く、倒してしまわなければ。


 この姿は、アンデッドドラゴンと同じく、おそらく生き物から精気を吸い取らなければいけない燃費の悪い形態だ。

 不死竜とリリアムがいたら、グレイの命が吸われる一方だ。


『いくぞ!』

「早く倒して!」

『ははははは! 楽しい! これほど我を使いこなせる者がいたとは! ずっと戦っていたいぞ!』


 リリアムは、この剣に任せていては戦いを長引かせるだけだと判断した。

 一瞬で、宝玉を仕留めてしまおう。


 リリアムは、不死竜の中にある宝玉がどこにあるかを調べた。

 昨日、マーガレットの居場所を探すのに使った魔術の応用だ。

 狙い通り、、それは宝玉の位置探索にも使えた。アンデッドドラゴンの胸の真ん中、その奥に宝玉がある。表面を斬りつけるだけでは届かないかもしれない。

 突き刺す!


「はぁーっ!」


 リリアムは翼で飛び上がり、一直線に不死竜の胸元へと突っ込んだ。

 竜は迎撃しようと、腕を振りかぶる。

 それより前に、リリアムは風の魔法を纏った。背中を押すのではなく、自身が風になる。

 ザックの走り方を真似たのだ。


 剣を前に突き出したまま風と一体になり、宝玉を狙う。

 不死竜の腕が動くより前に、リリアムはその胸元に飛び込んだ。手ごたえはあった。

 剣は簡単に不死竜の胸を貫いた。剣先は宝玉に届いていた。


 宝玉が、パリンと割れる音がした。

 やった!

 リリアムは剣を手放した。


 手放せた、ということは不死竜を倒せたということだろう。

 それなら、もう竜には構っていられない。それよりもグレイが優先だ。

 リリアムは不死竜の胸元に剣を突き立てたまま、グレイの元に飛んでいった。


「グレイ! 大丈夫、じゃないよね。今すぐ移動しよ!」


 グレイに触れて、一緒に移動魔法で飛ぼうとする。その時、異変に気付いた。

 体が、動かない。固まってきている。

 口も、話せなくなっていた。グレイが伏せて動けない所に、リリアムも一緒に倒れこむ。

 魔法を使って移動しようとしても、発動出来ない。

 指一本動かせず、体が完全に硬直していた。


 剣に魔力を注ぎすぎた上に、淫魔の最終形態になってしまったからではないか。リリアムはそう推理したが、もう遅い。

 背後では、不死竜が断末魔の叫びをあげている。

 もう宝玉は割れているのに、すぐには消滅しないのだ。

 早く消えてくれ。


 リリアムの願いも空しく、瘴気が集まってくる。

 まさか、と思うが不死竜は最後に瘴気で自爆テロをするつもりではないだろうか。

 リリアムは、硬直しているものの何とかなるだろう。

 だが、弱っているグレイが瘴気の衝撃波を浴びてただで済むとは思えない。


「グレイ……動け、ない? 逃げて……」

「ぐ、ぅ……」


 声が弱々しい。倒れ伏したグレイは、動けないようだった。リリアムも、まだ硬直は解けそうにない。

 こんなことになるなら、剣を手放ささないで移動魔法を使って安全な場所でに行ってからにすれば良かった。硬直が始まったのは、剣から手を放し、戦いが終わったと認識したからだろう。

 今更後悔しても、背後ではどんどん瘴気が集約し高まってきている。


 不死竜の宝玉が砕けた瞬間、その瘴気は一気に拡散するだろう。

 リリアムは動かない体を強引にほふく前進させ、じりじりとグレイの上に覆いかぶさった。グレイの方が大きいから全てを隠すことは出来ないのだが、少しでも瘴気から庇おうとしたのだ。

 不死竜の断末魔の叫びが、止んだ。


 何百年も縛り付けられていたアンデッドドラゴンは、今やっと死んだのだ。

 これから、瘴気の暴風が吹き荒れる。

 少しでも、グレイを庇いたい。


 必死にグレイを守ろうとしていると、リリアムと不死竜の間に影が差し込んだことに気付いた。

 不思議に思い、よろよろと顔を上げる。

 男の背中が見えた。全身黒ずくめの男だ。

 ザックだった。


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