表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/48

10.


 ここからは、質問の全てに答えてもらう。今のマーガレットは体も動かせず、ベッドに仰向けになってただ真上を見るだけの無力な存在だ。動かせるのは、口のみ。

 リリアムが、そういう風にした。ぼんやりとしたままのマーガレット、端的に命じる。


「森について、知っていることを話せ」

「……先祖に、とても強い剣士の姉と魔女の妹が居たの。ある日二人は、白竜を領地内で見つけた。そして永遠にここで暮らしてもらおうとした」

「……」


 推理は、合っていたようだ。


「でも、白竜は拒否した。姉妹は白竜と戦った。その時、倒すつもりはなかったけど、強力すぎる二人の力は、竜を殺してしまった」

「閉じ込める前に、最初から死んでいたのか……」

「ええ。魔女は竜を生きる屍、不死竜とし、そして移動させないように森に結界を張った。すぐに、不死竜は瘴気を発生させるようになった。魔女は、そもそも白竜を殺したのは姉のせいだと、責任を取らせた。姉を地下室に閉じ込め、瘴気を吸い取らせた」

「胸くそ悪い話だ」

「白竜は不死化しても、領地に繁栄をもたらし続けているわ。これからも、未来永劫に……」


 そうはいかない。


「結界を壊す方法は」

「白竜を消滅させない限り、無理よ。あの結界は、白竜の宝玉によって構築されているの」

「なるほど。では逆に、白竜さえ倒してしまえば、結界も消えるということか」

「難しいのではないかしら。魔女が使った復活の呪文は、永遠に白竜の肉体を再生し続ける」

「ということは、宝玉は今も白竜の体内にある?」

「ええ、その筈よ。あの結界、素晴らしいでしょう。入ることは出来るのに出ることは出来ない、生き物を誘い込む素晴らしい結界だわ。肉体が滅ばない白竜の中に宝玉がある限り、結界も存在し続ける。結界は魔獣や動物を誘い込み、白竜の餌になる。我がヴェルバッハ子爵家は無敵ね」


 ここのご先祖の魔女、有能すぎ。


「白竜を倒す方法は」

「剣士の剣が、残っているの」

「剣士とは、最初に生贄にされた姉か」

「そう。だから、剣士ほどの実力がある人が、その剣を使って、白竜の宝玉を斬ってしまえば。でも、きっと無理よ。剣はさびて使い物にならないし、それほどの実力がある人はそうは居ないもの」

「その剣はどこにある」

「さあ。この家のどこかに……」


 剣のことは知らないらしい。まあそれはノートに聞けばいいだろう。

 リリアムは、他に気になることも聞いてみた。


「魔女は、まだ生きているのか」

「いいえ、とっくに亡くなっています」

「魔女は長寿ではないのか」


 三百年以上生きていると思われる魔女も居るから、先祖の魔女もまだ生きているかと思ったのだ。


「長寿な魔女もいます。でも通常は人間の寿命しか生きられません」

「通常ではない場合は? 長寿の条件は何だ」

「自らが望んで不老、不死の研究をしているもの。もしくは、契約や盟約によってこの世に縛られているもの。そんなところかしら」

「……分かった。もうおやすみ。では、いい夢を」


 リリアムはマーガレットを眠らせた。

 そして、良い夢を見られる術をかけた。淫魔の力で、見る夢の方向性を決められるのだ。

 マーガレットはこれから、人生で幸福だった時の楽しい夢を見る。その内容までは、リリアムには分からない。ただ、本人が幸せだと認識する内容だ。


 契約内容に、何ら間違いはない。リリアムは話を聞く代償として、極上の夢を見せる。

 マーガレットが思っていた約束とは違うと後から怒ったとしても、後の祭りだ。

 リリアムは空間転移でノートの部屋へと移動した。それから、元の姿へと戻る。やはり、まるっきり違う人の姿になるには魔力も多く使うし、マーガレットとの対話に緊張もした。


 終わってやれやれだ。

 ノートは魔法の目を持っている。屋敷の中ならどこに何があるか分かるはずだ。

 もし剣の在りかが見つからないなら、子爵夫人が目隠ししている研究室だろう。

 そう考えて尋ねに来たのだが、部屋の瘴気が以前より濃い。それに、ノートが苦しんでいる。


「ノート、どうしたの」


 ベッドで苦しそうに悶えていたノートが震える声を出す。


「昨日くらいから、瘴気の量が増えているのです。森が活発になっているのかも、しれません」


 なんだと……。それは、明らかに自分たちが不死竜と戦ったからではないだろうか。


「えっと、まだ、もつ? 明日の朝くらいまでは」

「はい。一日、二日は大丈夫です。でもこのままだと、長期間は難しいです」

「夜明けまでで大丈夫。今晩一晩は、いい夢見せるって約束してしまったから」

「え……?」

「それより、白竜を倒したっていう剣はどこにあるか知ってる?」


 それを聞くと、ノートは苦しそうな中なのに悲し気な瞳をした。こうやって見ると、父の子爵の瞳とそっくりだ。


「知ってしまわれたのですね。この家の秘密を」

「悪魔だからね」

「これも、仕方のないことなんです」

「そうだね、まあそれはどうでもいいよ」

「どうでもいい、ですか……」

「人や家のことについて、どうこう言える立場じゃない。悪魔だから。ただ、私はしたいようにするだけ」


 すると、ノートは疲れ果てたような深いため息を吐いた。


「貴女は、私が今までやってきたことを全て無に還してしまうのかもしれません。我が一族を、破滅に追い込むのかもしれません。それでも。それでも、私は貴女がこの現状を打破してくれるのではないか、私を解放してくれるのではないかと、期待してしまうのです」

「やっぱ、救いを求めてるんだ。悪魔にそれを求めるのは、滑稽だけれど」

「はい。それでも……。でもやはり、剣の在りかは教えられません。一族が何百年もやってきたこと、代々のノートが耐えてきたことを無駄にされるかもしれないなら、剣を渡す訳にはいかないのです。ごめんなさい、リリィ」


 納得している、自分が犠牲になっても仕方ない。そんなことを言いながらも、やはり人は期待してしまうのだ。

 悪魔への期待は、一番酷い裏切られ方をするかもしれないのに。

 同時に、ホワイトドラゴンを倒す可能性のある剣の在りかは教えないという。期待と葛藤、解放と現状位置という矛盾。これこそ、人間の感情の滑稽なところだ。

 リリアムは威厳を持った悪魔のような話し方をした。


「悪魔に期待する分、後々高い代償を払ってもらうことになるが。お前の負担を軽くすることは出来る」

「私が払えるものならば、代償も支払います。負担が軽くなるのは嬉しいです」

「では、明日の朝まで待て」


 リリアムは自分の部屋となった客間に戻って、完全に日が昇るまで待った。ノートの部屋にずっと居ると間が持たないし、ごろごろ出来ない。少しの時間でもゆっくり出来るなら部屋に戻るタイプだ。


 朝になって、マーガレットへの幸福な夢の供給を打ち切る。それから、再びノートの元へと向かった。

 無言のまま、ノートに繋がっている瘴気の供給のパスに変更を加える。このパスの元はアンデッドドラゴンに繋がれていると分かったのだ。想像しやすいので、パスも変えやすい。

 手を加えると、苦しそうな息遣いだったノートが、フと身を起こした。


「なんだか、楽になっています。瘴気が完全になくなった訳ではないけれど」


 リリアムはにっこりして答える。


「そうだろう。今までの負担の1/6くらいになっただろう」

「ろくぶんの、いち……」


 その言葉を繰り返してから、ノートはハッとした様子を見せた。まさか、と目を見開いている。リリアムは得意げに口を開いた。


「この屋敷の中で魔力がある人に、平等に負担を割り当てた」

「そんな! じゃあ、みんなは……」

「そう。今頃、初めての苦痛に苦しんでいるだろう。でも、全員負担だからそこまで大変じゃない。痛みは分け合わないと、ね」


 ノートは目に見えて震え始めた。声も震えている。


「やめて。やめて。私はそんなこと、望んでいない。望んでいなかった。一番下のエイミーなんて、まだ六歳なのにせめて、妹たちの負担は……」

「その妹たちは既に魔術の研究を始めている。魔力を持つ男に群がって、少しでも研究を良くしようとしているのは、生贄になることを避ける為らしい」

「……!」

「それだけしっかりした妹なら、負担も平気だろう」

「でも。でも……」

「自分の負担が軽くなって、家も存続出来て、不死竜もそのままなんていう都合のいい方法があると思った?」

「っ……」


 ノートは悲しそうにしているが、リリアムは心を鬼にして続けた。悪魔なのだが。


「とはいえ、末の妹は小さい。このままじゃすぐ死んでしまうかもしれない」

「た、助けてください。元に戻してください。私は苦しくても構いませんから」

「剣の在りかを教えてくれたら戻してあげる」

「それは……」


 ノートが逡巡していると、外が騒がしくなってきた。部屋の前に、人がいる。

 扉が開かれたかと思うと、鬼の形相をした子爵夫人が飛び込んできた。


「ノート、お前っ! 何をした! この悪魔に、唆されたのか!」

「いいえ、いいえ。違います、私は……」

「苦しいっ、肌が崩れていく。早く、元に戻しなさい!」

「へー、人にはさせておいて、自分が苦しいのは嫌なんだ」


 リリアムが揶揄すると、子爵夫人は必死の顔で怒鳴っている。


「私は、この家を継ぐために生まれてきた! 生贄になる為に生まれたノートとは違うっ!」

「だって」

「………………」


 ノートはしばらく、夫人を呆然と見つめていた。

 ぼぉっとしたノートの胸倉を、夫人が掴みかかる。


「早く、戻しなさい! 私の顔が、崩れてしまう!」

「……リリィさん、元に戻してください」

「では、剣の場所は?」

「神獣滅剣は、領主の間の、裏にある小部屋にしまってあります」


 その言葉を聞いた夫人は、半狂乱になった。顔がボロボロと崩れている。


「ノート! お前は、なんということを! 我が家の、家宝を! 悪魔にやるというのか!」

「妹たちを救う為です。申し訳ございません、お母さま」

「くっ……、なら、早く戻して!」


 夫人のお願いに、リリアムはにっこりして言った。


「明日くらいにはね」

「なっ……!」

「いつ戻すって、期日は約束してないもんね」


 明日には、ザックが戻ってくる筈だ。その時に、剣を渡してアンデッドドラゴンを倒してもらおう。

 それまで、瘴気は皆にも負担してもらおう。今まではノート一人だけが辛い目にあっていたのだから、同じ状態になって痛みを理解するのも必要だろう。

 あの子爵夫人なんて、瘴気を受けてもぴんしゃんして元気そうだったし。

 リリアムは領主の間へと急いだ。

 間のいいことに、子爵本人も居た。


「裏の小部屋の、剣を貰いに来た」

「それが必要ならば、どうぞお持ちください」


 子爵が隠し扉を開いてくれる。小部屋の中に、剣は堂々と飾ってあった。


「じゃ、貰っていくね」


 元気な子爵夫人が突進してくる前に、森に行ってしまおう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ