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プロローグ

 その日、王宮にはひそやかにだが浮ついた空気が流れていた。

 一部の者にしか知らされていない極秘事項だが、魔女と淫魔が王宮に招かれたのだ。

 この世界で魔法を使える者は珍しくない。魔力量が多く、知識を学んでから魔法を専門的に使う物を魔術師と呼ぶ。


 魔女はその魔術師が束になってもかなわない魔法力を持ち、神秘的な存在だった。ここフォルシオン王国内でも数名いるかいないかの、稀有な存在である。

 まして、淫魔を使役する魔女など珍しい。

 悪魔や妖魔の類は人を脅かす邪なる存在だが、人語を理解する高位種は滅多に出現しない。魔法騎士や神殿騎士、上位神官でも実際に対峙した者は数少ない。

 人々が見かけるのはせいぜい魔獣、意志を持って人を襲う悪意ある獣や墓場を彷徨う低級妖魔くらいだろう。


 当日には王宮の兵士、それも魔法力があって心身共に強い者が選ばれ、魔女と淫魔が通る通路に配置された。また、万が一にも淫魔が力を行使したり、魔女の魅了に負けてはいけないと兵士は独身の男か女性、女性に興味のない者が選ばれた。淫魔は女の姿をしているとのことなので、この措置は当然だと思われた。

 口外無用の極秘任務だが、魔女と淫魔を見てみたいという者が多く、どうしてもそわそわとした雰囲気になる。

 王国の若き将、上級魔法騎士のクラレッド・マクヴェイは眉を吊り上げ叱咤した。


「浮つくな! 訓練通りにしろ!」


 真面目な性分のクラレッドは、部下たちの浮かれた雰囲気が腹立たしいのだ。

 平常心で、魔女だろうが淫魔だろうがおかしな行動をすれば滅してやろうと決めている。


「はは、無理だって。俺も早く見たいもん。どんな子たちなんだろうなー。可愛いのかな、絶世の美女なのかな」

「お前は全く、ちゃらちゃらとしおって」


 クラレッドに苦々しく言われたのは、同じく若き将であるフェルノー・モティマスだ。家柄も身分も、そして見目も良い彼は女にもてる。彼はいかつく厳しいクラレッドとは反対に、もてることを最大限に活用しあちこちの花と戯れていた。


「いやー、一回くらいお相手願いたいよね。魔女殿にも淫魔ちゃんにも」

「大体お前、ルドガー殿下の護衛担当だろうが。何故ここにいる。早く戻れ」


 ルドガーとは第二王子だ。国王陛下には王子が三人、王女が一人という四人の子がいる。

 その中でも一番国民に人気があり、人望が厚いのが第一王子アルバルトだ。勇者アルバルトは各地に冒険し、魔物を倒し地方の人々を救っている英雄だった。

 フェルノーは第二王子担当であるので、ここに居るのはおかしい。そう指摘したが、彼はしれっと言った。


「変わってもらったから大丈夫!」

「大丈夫、ではない」

「あっ、クラレッド。そろそろ来たよ。魔女殿と淫魔ちゃん……、かな、あれ……?」


 淫魔を一目見てみたいと思っていた兵たちは、少しがっかりした筈だ。

 魔女は期待通り、色気たっぷりのあだっぽい美女だった。年齢は不詳だ。それほど若くはないが、老いてもいない。しかしおそらく、見た目通りの年齢ではないだろう。

 整った容貌の中でも口元のほくろが魅了の力を振りまいている。ふるいつきたくなるような美貌の持ち主だ。胸元がはだけた黒のドレスはスリットが深く入っていて足がちらちらと見えるのがまた魅力的だ。


 だが、その脇に付き従う人物は、フードを目深にかぶりマントで体を覆っている。顔はなんと、仮面を付けている。服装は粗末な冒険者の服といった様相で、長袖長ズボン、そしてブーツだ。露出している部分がほとんどない。

 ただ、手だけは見えていた。その手首の細さや手の甲の滑らかさから、若い女だとフェルノーは見当を付けた。


 ここまでは王宮警備の責任者が二人、いや一人と一匹を先導してきた。この先は王宮でも限られた者しか入ることが出来ない、陛下のおわす場所となる。

 クラレッドは魔女の美貌にも臆せず平常通りの表情と声で話した。


「宣託の魔女殿、ここからは我々が案内する」

「はい、どうも。ありがとね、ご苦労さん」


 最後の言葉は今まで案内していた王宮警備責任者への言葉だ。

 いつもは無骨な警備責任者がすっかり舞い上がり、魔女の美貌に見惚れている。

 クラレッドはその男を睨みつけてから、先導を始めた。

 魔女は余裕しゃくしゃくといった態度でゆったりと歩いているが、淫魔は俯きがちにとぼとぼといった態だ。


 前を歩いていても、百戦錬磨のつわものであるクラレッドには分かる。魔女には隙がないが、淫魔は隙だらけ。素人以下だ。

 こいつは本当に魔族なのか。もしくはそのように見せて油断させようという狡猾な作戦なのだろうか。

 なんにせよ、おかしな様子を見せたら叩き斬ってくれる。

 油断なく後ろの気配を探りながら、クラレッドは腰の剣に触れた。


 一方その頃、淫魔が思うことは一つだった。

(早く帰りたい……)

 


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