魔石
そして待ち望んだ翌日。
待ちに待った、大事な収入源を作る方法を習う。
「魔石に魔力を込める方法は、簡単じゃ。
魔力を循環させるのではなく、
そのまま魔石に向かって、魔力を流せば良い」
祭司長が指で触れた魔石が、
どんどんと輝きを増していき、
里の一般的なものよりも、
かなり輝く魔石ができた。
「魔力を込めるほど、
魔石から受ける抵抗が強くなり、
より多くの魔力と、精密な魔法制御が必要じゃ。
そして、普通は心配する事はないのじゃが、
わしら先祖返りだけは、少し注意が必要じゃ。
見ておれ」
そうすると、魔石に変化が起こった。
一瞬でひび割れが広がって行き、
金色の粉になって崩れ落ちた。
「魔力を限界を超えて込めるとこうなる。
多くの魔力を込める方が価値が上がるが、
こうなっては意味がないので、
気をつけるようにの」
そして、私に魔石の入った袋を差し出す。
「まずは一つやってみよ。
そして、感覚を掴むために、
そのまま崩れるまで、魔力を込めてみよ」
左手に魔石を乗せて、魔力を流してみる。
左手なのは、
いつも左手から右手に魔力を流していたので、
その方が簡単そうに思えたからだ。
慎重にそろそろと魔力を流していくと、
輝きが少しずつ増して来た。
(やっと、ここまで来ましたか)
と、感動しながら魔力を流し続けると、
なんだか流れにくくなって来た。
より多くの魔力を使い、
叩き付けるようにしながら、
魔力を流していく。
ともすれば、手のひらから反れようとする魔力を、
苦労して制御しながら流れを整え、流していくと、
やがて魔石は粉になって崩れた。
「ふむ。問題なくできたようじゃの。
後は練習じゃ。
魔力を多く使えば、
使える魔力は少しずつ増えてはいくが、
完全になくなると、
心臓が止まって死んでしまう。
体がだるくなりはじめたら、
減って来た証なので止めるように。
頭痛がして来たら、
気を失う前にすぐに止めるのじゃぞ。
魔法制御の訓練でも、増える上に安全なので、
決して無理はしないようにの」
二つ目の魔石に取り掛かる。
「これくらいですかね?」
と言って、祭司長に渡すと、
「これはまだ行けるぞ」
と言われたのでやってみたら、
確かにまだ結構行けた。
調子に乗ってやっていると、また崩れた。
(限界ギリギリって、
結構難しいのかもしれません)
三つ目の魔石を粉にした所で、祭司長が止めた。
「そろそろ、体がだるくなって来ているはずじゃ。
止めるように」
「いえ? 何ともないです。まだまだ行けます」
「おぬしは年の割に、魔力が多いのじゃな。
まあ、やってみよ」
やってみて分かったが、限界ギリギリになるほど、
抵抗は増えるが、込められる魔力量も増える。
(私の未来の町ライフのために、
できるだけ早く読書ができるように、
限界ギリギリに挑戦です!
目指せ! 祭司長様を超える最高級の魔石!)
そうやって、流れる速さを変えたり、
叩き付ける魔力量を調整しながら、
試行錯誤を続け、6つの魔石を粉にした。
体がとてもだるく、ガンガン頭痛がするが、
溢れるやる気と気合と未来への希望で、
7つ目に取り掛かった時に、
意識がブラックアウトした。
気が付くと、目の前に苦笑いを浮かべた、
祭司長がいた。
「気が付いたか。
じゃから、
あれほど止めるように言ったのじゃが。
まあ、これも経験じゃ。
以後、気を付けるようにの」
それからも、全力で研究に取り掛かった。
4日連続で気絶するまで練習した結果、
ある事に気付いた。
魔石が崩壊する直前に、
それまで高まっていた抵抗が、急激に落ちる。
これはほんの一瞬の事で、
しばらくたって聞いてみたら、
祭司長も気付いていなかった。
連日ぶっ倒れる私を見て、
祭司長も最初は苦笑いだったが、
笑顔が消えて、説教の時間が増えた。
祭司長にもらった魔石は、とっくになくなり、
周囲の大人にねだって、
余った魔石を分けてもらい、
魔石に魔力を込め続けた。
6日連続で気を失った私の側には、
祭司長のものより輝く魔石が転がり、
額に青筋を立てた祭司長が、
待ち構えるように、腕組みをして立っていた。
「こんの大馬鹿ものが!!
何度も言うておろうが!!
この魔石は没収じゃ!!
とりあえず、わしが良いと言うまで、
しばらくおとなしくしておれ!!」
温厚なアルク族としては珍しく、
マジギレしている祭司長の剣幕に、
恐れおののいて、
コクコクと黙って首を縦に振る。
「もし、次に気絶するような事があれば……。
分かっておるな?」
初めて聞いた、
底冷えのするような声での念押しに、
私は冷や汗を流しながら、
涙目でコクコクするだけのマシーンになる。
それから、しばらくほとぼりを覚まし、
弓の扱いの基本や、
森で採集できる食べ物や薬草を、
大人に習いながら、暇を見つけて、
慎重にセーブして魔石に魔力を込め続けた。
次の行商人が来る頃には、
20個ほどの光り輝く魔石ができていた。
私は初めて自分の作ったもので、
買い物をするうれしさのために、
上機嫌で市に向かった。
私の魔石が入った袋を見た、
アレンさんは、
若干頬を引きつらせながら、
「お前は、買い占めでもするつもりか?」
と言った。
どうやら、調子に乗って作り過ぎたようだ。
「では、インクと上等な布を、
仕入れて来てください」
とお願いし、
前金として半分の魔石を渡した。
次にアレンさんが来た時には、
青い布とインクを仕入れて来ていた。
「この布はな、なかなかの高級品だぞ。
布を鮮やかな色に染めるためには、
何度も染め直す必要があるからな」
アレンさんは、続けて説明する。
「ただ、中でも鮮やかな赤い布は、
お貴族様でなければ、
身に着けてはいけないんだよ。
それで、この色にしたんだよ」
この布は、祭司長と私の儀式服に加工された。
なんだか少し、成金になった気分だ。