傭兵
ガルムの都市の中では、
一番大きな傭兵団の一員となったが、
これが思った以上に仕事が少ない。
この傭兵団にしたのは、
周辺住民のウケが一番良かったからだ。
傭兵にしては規律のしっかりした所、
という評判だった。
傭兵の基本業務は、魔物の間引きであるが、
全員が一度に出撃という事はなくて、
交代制である。
「なぜ、これほど人数がいるのですか?」
と周囲に質問したら、
魔物の氾濫に対処するためらしい。
魔物の氾濫というのは、
魔物の領域でたまに起こる魔物の大移動が、
たまたま人里方向に向かった時に、
呼ばれる現象だ。
魔物の大移動というのは、読んで字のごとく、
魔物の領域の魔物が、
突如集団で移動する事である。
森の奥深くに割って入るような、
凄腕の傭兵達がまれにみる現象で、
これを見たら、ベテランの傭兵でも避難する。
ただ救いなのは、大群が移動するが、
我を忘れて走って移動、という訳ではなく、
普通に歩いて移動するため、
見かけてからでも、余裕で逃げ切れる。
これが人里に向かった時には、迎撃するため、
都市にはしっかりとした街壁があるし、
傭兵もそれなりの数が常備されている。
原因については諸説ある。
「魔物の領域の奥深くで、
非常に強力な個体が発生し、
それが周囲の魔物を押しのけたからだ」
とか、
「蜂の巣分けのような現象だろう」
とか、いろいろ言われているが、
人跡未踏の魔物の領域の奥深くの事なので、
真相は誰にも分からない。
きちんと魔物を間引いて管理していても、
避けられないらしい。
そんな訳で、
人数の割には仕事の少ない傭兵達は、
雇われて警備兵のような仕事をしたり、
移動する商人の護衛をしたりする。
ちなみにこの警備兵、
ルツ工房でも常時雇用している。
最初の頃は、
私が悪質なクレーマーを追い返していたが、
だんだんと目が行き届かなくなっていったので、
警備兵を雇うようになった。
傭兵稼業は暇が多い自由業で、
思った以上に快適だった。
自由気ままに狩りをし、
時に雇われて旅をする。
そんな生活を2年ほど続けたある日、
私は国の境界線にほど近い道を、
北東部にある、
マルトという都市に向けて移動中だ。
私は祭司長の言いつけを守り、
本当の実力を隠し続けているが、
私が凄腕の魔導士な事は、
都市ではそれなりに知られているので、
過剰に隠してもすぐにボロが出ると判断し、
(これくらいは問題ないですかね?)
と思われる程度には、実力を開示していた。
それでも周囲から見ると、
比べるべくもないほど強力で、
私は、
「遠距離から戦い始めたら、団長でも負ける」
と団員に言われるほどの、
トップクラスの実力者として、認識されていた。
その団長による強い推薦で、
私は既に分隊長になっていた。
いくら私が強いとは言っても、
これは異例の出世であったが、
「こいつは後ろから、いくらでも攻撃できる。
前線から離れていても、魔物の数を減らせるし、
無詠唱だから、
指示を出しながら片手間でも攻撃できる。
指揮官向きだ」
という、団長による鶴の一声で、
分隊長に就任したばかりだ。
団長は、
「ヒデオは、次期団長だ」
と吹聴して回るので、少し困っている。
ゴリマッチョの多い傭兵団で、私は一番華奢だ。
そんな私が、
強面のおにいさん達のトップになるのは、
できれば勘弁して欲しい。




