名字
それからまた、2年の月日が流れ去った頃。
法整備もかなり進んだため、
司法試験を開催する準備として、
法科ダイガクを開校した。
ちなみに、法曹一元の考え方を取り入れ、
裁判官、検察官、弁護士は、
同一の司法試験で採用する事が決まっている。
本来であれば、
各種法律の根拠となる憲法も制定したい。
しかし、
そこまではとても手が回りそうにない。
そこで、イギリスのような、
慣習法の憲法で良いかと考えている。
また、大統領が違法行為をした時のために、
特別検察官制度も法整備した。
国会議員の過半数の議決で、
特別検察官が任命される。
その特別検察官が捜査した結果、
違法行為が認められる場合は、
大統領本人を起訴できる仕組みである。
そして、裁判所が違法行為を認定した時点で、
大統領は失職する。
その場合は、
あらかじめ任命していた副大統領が昇進し、
60日以内に大統領選挙を行う事が、
義務付けられている。
これらの準備に奔走していたある日。
戸籍調査を行っている部署の担当者から、
質問を受けた。
「コセキなのですが、
家族の単位がとても分かりにくくなっています。
なにか良い案はありませんか?」
詳しく聞いてみると、
この国の市民には名字がない事が、
問題の根本であった。
これまでは、住んでいる地域を屋号として、
名字の代わりにしていた。
つまり、ガイン村のヒデオさん、
のような呼び方をしていたのである。
しかし、今では市民の移動が自由になったため、
出身地で管理していたのでは、
分かりにくいと言われたのだ。
そこで、私は名字を各自で名乗るように提案した。
そうすると、先ほどの官僚さんが、
さらに質問を重ねる。
「各自で考えるとはいっても、
地方では学校教育が始まったばかりです。
そのため、自分では考えられない人も、
多いと思われますが」
私はそれもそうかと思い、別の案を提示する。
「それでは、
各村の村長さんに決めてもらってはどうです?」
しかし、この意見も不評のようだ。
「人口が少ない村は、それで良いと思われます。
しかし、家が多い村や町になると、
一人で決めるのはさすがに無理かと」
そう指摘された私はしばらく考え、
別の案を提示してみる。
「それでは、
ご先祖様の名前二人分を繋げるのはどうです?
ガイン家に名字がなかったと仮定して、
ユキムラ・ヒデオクリスとか、
ヨシヒロ・ルースエルクのように名乗るのです」
この案は採用され、
名字の作り方の手引書も、
合わせて作られる事となった。
こうしてこの国では、
全ての市民が、
名字を名乗るようになったのであった。




