親方
溢れるやる気と決意を胸に、
ルツさんの工房の扉を開ける。
「すいません。
どなたかいらっしゃいませんか?」
「おう。何だ、アルク族とは珍しい客だな。
何の用だ?」
ルツさんは、
立派なひげを蓄えた強面であったが、
声と顔のイメージから来る、
頑固おやじの印象とは違い、
体つきはちょっと華奢だ。
「弟子入りさせてください!!」
「帰れ。そういうのは、およびじゃない」
取り付く島もない。
そう簡単に弟子入りさせてもらえるとは、
思ってはいないので、
この程度ではめげない。
「お願いします!
雑用でも何でもしますし、
給料もいりませんから!」
土下座する勢いで、腰を折ってお願いする。
「そういう事じゃないんだがな。
給料もいらないって、
お前、どこかの金持ちのボンボンか?
そんな軟弱なやつは、もっといらん」
「いえ。私はど田舎からのお上りさんです。
ただ、生活費を稼ぐ方法には、
心当たりがあります。
魔石を売って、
生活費に充てようかと思っています」
私は魔石の入った袋を触る。
「はぁ……。
お前さんは確かに田舎者のようだな。
たくさん魔石を持っているようだがな。
この都市にはな、
森アルクの良質な魔石が、
出回っているんだよ。
町アルクの魔石程度では、
小遣いにしかならん。
悪い事は言わん。田舎に帰れ」
森アルクの魔石と聞いて、少しニヤリとする。
(私の魔石は、さらに高級品ですよ?)
「私の作った魔石は、
知り合いの商人に聞いた話では、
もっと高値で取引されるようですので、
ご心配には及びません」
魔石を一つ取り出して見せる。
そうすると、目を見開いたルツさんは、
驚愕の表情を浮かべる。
「何だ、その輝きの魔石は!
まさか、噂に聞く上位アルクの魔石?
いや待て。お前さん、
さっき作ったって言ったよな?
まさか……。これ、作れるのか?」
なんだか悪い予感がする。
(また認識のズレを感じますね。
常識の違いがありそうです。
これは、素早く修正しないといけません)
そう思い、しばらく会話した結果、
衝撃の事実が発覚した。
私や祭司長が作る魔石は、その輝きから、
もはや魔力の供給源としては扱われず、
宝石扱いのようだ。
希少さゆえに、
税金で取り立てられる、交易ルート上の領主と、
王族くらいしか入手できないと、言われており、
もし市場に出せば、最低でも小金貨、
おそらくは、大金貨が必要になるほどらしいが、
そんなものを、
平民街で取り扱った事が、貴族にばれたら、
簡単に物理的に首が飛ぶ。
それから気を取り直して、
根気強く交渉した結果、
私の魔石をルツさんに年に一個だけ収める事で、
弟子入りを許可してもらった。
何でも、商品に使う事はできないが、
貴重な研究素材として使うようだ。
それ以上の数は、
怖くて持っていられないらしい。
私の持ち込んだ魔石は、
絶対に誰にも渡すなと、厳命されている。
これは後でアレンさんに確認した話だが、
私や祭司長の魔石は、
領主命令で指定された取引先にだけ、
おろしているようだ。
横流しでもすれば一発で首が飛ぶので、
ちゃんと守っていたようだ。
この都市で見た事がないから、
高額だろうとは思っていたようだが、
私同様、そこまでの価値があるとは、
考えていなかったとか。
ルツさん改め親方との取り決めでは、
私の扱いは次のようになった。
・私は内弟子の扱いになる。
・親方の家に住み、
雑用をこなしながら下積みを積む。
・衣食住は親方持ち。
・給料は出ないが、小遣い程度は支給する。
・休日は6日毎。長期休暇等は要相談。
私が一番こだわったのは、長期休暇の取得だ。
不定期でも良いので、里帰りに使いたい。
それ以外も予想以上の好待遇で、文句等ない。
私の魔道具職人へ向けての、道が始まった。




