凱旋
会議を終えた私は、
戦争の後始末に追われていた。
ここにいるのは武官達ばかりなので、
事務処理に長けたものが少なく、
自然と私に負担がのしかかっていた。
書類仕事に埋没していると、
頼もしき援軍がユキムラから送られてきた。
再開したばかりの列車に乗って、
ガイン自由都市の能吏達がやってきたのである。
「初代様。領主様より伝言です」
そう言って、
官僚の一人がユキムラの言葉を伝えてくれる。
「大おじい様。どうせ文官が足りなくて、
一人で仕事を抱え込んでいるのでしょう?
その責任感の強さは美徳なのですが、
たまには私を頼ってくださいね。
特に有能なものを選りすぐって送りましたので、
彼らに仕事を引き継いで、
できるだけ早く、ガイン自由都市へと、
解放軍と共に凱旋してください。
領民達は皆、待ち焦がれていますよ?」
私の行動パターンが、
ユキムラには筒抜けである事実に、
私は苦笑しきりであった。
それでも、その心遣いが大変にありがたく、
早速彼らに仕事をどんどんと引き継いでいった。
それから数日後には引継ぎも終わり、
帰還準備を進めていた解放軍の再編成も終わった。
治安維持に必要な最低限の人数を残し、
皆で臨時列車に乗って、
次々とガイン自由都市へと帰還する。
全軍で整列するために、駅から降りると、
いったん都市の外の広場へと向かい、
到着した部隊から順に隊列を整える。
解放軍の面々は、一世一代の晴れ舞台だと、
胸を張って隊列を整えている。
もうこの時点で、
市民達の熱狂的な歓迎を受けていた。
集結場所の周囲には、
私達解放軍の雄姿を一目見ようと、
多数の市民達が押し寄せている。
そして全軍の隊列が整い次第、
進軍ラッパを吹き鳴らし、
ガイン自由都市へと凱旋を始める。
周囲にはもう人、人、人である。
皆一様に笑顔で、紙吹雪を舞い散らせている。
中には生花をかき集めた人もいるようで、
本物の花びらもひらひらと舞い踊っている。
そして、進軍の列の中心部に集まっている、
軍首脳陣が見えると、
歓声は最高潮に達していた。
「皆さん大人気ですね」
私がそう感想を述べると、周囲の全員が、
こいつは何を言っているんだという顔をした。
「この歓声の大部分は、
あなたに向けられたものですよ?」
まあ、分かってはいても照れくさいので、
私は苦笑しながらごまかしておいた。
あまり不愛想にするのもどうかと思ったため、
試しに手を振ってみると、
あちこちから黄色い歓声が上がった。
「ヒデオ将軍は大人気ですな。
よりどりみどりですが、
婚約者さんが焼きませんかな?」
ゲイル将軍が、笑顔で怖い発言をする。
私はクリスさんが、
この様子を眺めている場面を想像し、
ブルッと震える。
笑顔なのに、
背後に黒いオーラをまとっている、
クリスさんの姿がありありと浮かぶ。
「やめてください。
くれぐれも、
クリスさんには内緒でお願いします」
私が戦々恐々としてそう言うと、
「もう既に、恐妻家ですか?」
と言われ、周囲から笑いが巻き起こった。
(自分では、愛妻家になるつもりなんですが)
やがて凱旋のパレードは終わりを迎え、
そのまま自然と祭りが始まった。
後にこの日は正式な祝日に制定され、
解放記念日と呼ばれるようになるのであった。




