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先祖返りの町作り  作者: 熊八


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処刑よりも重い罰

皆の不安を払拭した後も、会議は続く。


この国を改革していくための目標について、

私は軽く説明をする。


「では、これからの大まかな方向性について、

 説明しますね」


私に集まる期待の眼。


それをざっと見渡してから、

ずっと温めていた腹案を語り掛ける。


「まず最初に、ガイン自由都市へ遷都します」


わっと沸き返る会議場。


これで平民の首都が、

名実ともにこの国の首都になると、

喜びをあらわにする幕僚達。


私はそれが収まるのを少し待ち、続きを語る。


「これは何も、象徴的な意味合いに限りません。


 旧態依然としたこの国を大改革するためには、

 有能な官僚達が多数必要です。


 ですから、この国で最も人材が充実している、

 ガイン自由都市を首都にします」


皆納得してくれているようなので、

さらに続きを語る。


「次に、この国の全ての国民を調査、記録し、

 『戸籍』制度を作ります」


国民を調査と言う言葉に、

疑問を覚えた幕僚が一人いたようで、

質問を始めた。


「その調査とやらは、

 最初に行う必要があるのですか?」


私は深く頷いて、首肯する。


「ええ。先にも述べましたが、

 最終的には入れ札、

 『選挙』を行って『大統領』を選出します。


 そのためには、どこに誰が住んでいるのかを、

 まずは調査して記録する必要があります」


質問者の彼も納得してくれたようなので、

どんどんと続きを語る。


「次に、この国の全土に初等学校を建設し、

 一定年齢の子供はそこに通う、

 義務教育制度を作ります。


 もちろん、これは全額国庫負担とし、

 再度勉強したいという大人も含め、

 国民であれば全員無料です。


 ガイン自由都市以外でも人材を育成するための、

 第一歩でもありますし、

 発展政策の第一歩でもあります」


私が学校教育に熱心なのは、周知の事実だ。

「学問の父」の二つ名は伊達ではない。


また、ガイン自由都市の発展の実例からも、

学校教育の重要性を理解してくれている模様で、

誰からも反対はされなかった。


「最終的には、

 各地方の代表も『選挙』で『市民』達に、

 直接選んでもらいます。


 しかし当面の間は、

 各地の有力者による合議制で、

 地方自治を行ってもらいます」


これらの改革案を、

皆好意的に受け取ってくれているようで、

一安心だ。


中には、これからの天下国家を、

熱く語り合うグループも現れた。


私はそれを満足げに眺めていると、

ゲイル将軍が感慨深げに感想を述べ始める。


「なるほど。これがヒデオ将軍の言う、

 シミンによる国家ですか。


 自分達の事は自分達で決める。


 とても難しくはありますが、

 やりがいはありますな」


彼はウンウンと、

一人で頷きながら納得している模様だ。


そして、唐突に全く別方向の指摘をする。


「時にヒデオ将軍。

 明るい未来の話も良いですが、

 とりあえずの議題も話し合いましょう」


「それは何ですか?」


「捕らえている王族貴族どもの、

 処刑の日程ですよ。


 些事に過ぎませんが、影響だけは大きいので、

 さっさと決めてしまいましょう」


そうだそうだと同調する幕僚達。

私はその意見を否定する。


「もう戦争は終わりました。

 これ以上の流血は必要ありません。


 彼らには三か月分程度の生活費のみを残し、

 財産を没収して一般『市民』として釈放します」


「そんな!

 奴らがシミンにしてきた事を思えば、

 助命はあり得ません!!」


一気に騒然となる会議場。


しかし、私はあくまでも冷静に、

処刑しない利点を述べる。


「よくよく考えてください。

 処刑してしまえば、

 彼らの苦痛はそこで終わってしまいます。


 ですが、一般『市民』になってしまえば、

 自分の事は自分でしなければなりません。

 生活費ですら、自力で稼がなくてはなりません。


 プライドだけは無駄に高い彼らが、

 それができると思いますか?


 どうせすぐに住む場所も失って、

 路上生活を始めるでしょう。


 これまでの生活との落差によって、

 ずっと彼らは苦しみ続ける事になるのです。


 簡単に楽にしてしまう処刑よりも、

 より効果的な罰だとは思いませんか?」


この説明で納得してくれたものも多いようだが、

一部の点についての反対意見が出る。


「しかし、当面の生活費まで渡してやるのは、

 さすがに温情が過ぎるのでは?」


私はここで黒い笑みを浮かべ、

その意義を語る。


「良く考えてみてください。

 彼らは追い詰められても対処できず、

 現実逃避して、

 酒宴を開いているような連中ですよ?


 どうせそんなはした金を渡した所で、

 すぐに酒に換わってしまいます。


 それも、

 今まで飲んだ事がないような安酒にね。


 かつて威張り散らしていた王族貴族達が、

 下町の安酒をあおって、

 一時の憂さを晴らす以外なにもできない。


 そんな姿を、見たくはありませんか?」


これを聞いて皆納得してくれたようで、

お互いに黒い笑みを浮かべて頷きあっている。


この後、

噂としてこの処置の真の意味を流してもらい、

それが十分広まった後に、

かつての王侯貴族達は釈放されたのであった。

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