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抗菌・除菌・消毒・殺菌……

作者: 烏木

抗菌・除菌・消毒・殺菌・滅菌・静菌


これらの言葉の中には聞いた事があるものもあると思いますが、それぞれの違いは何かと言われると中々難しいのではないでしょうか。


よくCMなどで聞くのは「抗菌」と「除菌」で、「消毒」と「殺菌」は日常では聞くにしてもCMではそれほどは聞かず、「滅菌」や「静菌」は滅多に聞かないのではないかと思います。


CMで「抗菌」や「除菌」をよく聞くのには理由があります。

それは薬機法(旧・薬事法)が絡んでいます。


薬機法というのは薬事法を改正して作られた法律で、正式名称は『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』といいます。


薬機法には医療機器・医薬品・指定医薬部外品・医薬部外品などの薬機法の対象である薬事品の広告について規制があります。


「効果や効能や適用範囲などに虚偽や誇大な部分がある広告」

「医師などが保証したと誤解されるおそれのある広告」

「未承認の薬事品の広告」


これらは「()()()してはいけない」となっていますから、違反したばあいは広告を掲載した媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌など)も処罰対象になります。


その辺りが分かりやすいのが「何かを取り除く」といった効果を謳ったCMで取り除かれずに残っている部分が必ずある事です。

全部取り除いてしまうと「効果を誇大に表現した広告」になってしまうのです。


もう一つが「医師がお勧めする」とか「医師が認めた」という表現がある薬事品のCMはなく、薬事品ではない物にしかそういう表現が使われません。

「医師がお勧めする」とか「医師が認めた」と謳うものは薬事品ではありませんので眉に唾してお臨みください。


そして「殺菌」と「消毒」という効果・効能を謳えるのは薬事品のみです。

つまり「殺菌剤」や「消毒液」といった「殺菌」や「消毒」の効能を謳うには厚労省がからむ薬事品にしか使えず、CMなどの広告を出すには先の禁止事項に抵触しないようにしなければなりません。


医師や薬剤師や厚労省に「こういう事例にこのぐらいの効能がある」と認められてはじめて薬事品になるわけですから、用法・用量を守って正しく使う分にはそれなりの効果が見込める品でもあります。


それなりの医学的効果が見込めると認められている薬事品ではないものは「殺菌」や「消毒」という文言が使えないので「抗菌」や「除菌」という文言を使うのです。


これがCMで「抗菌」や「除菌」という文言をよく聞く理由です。



■■■


実は「抗菌」も「除菌」も学術用語ではないので統一的な定義がありません。

いわば好き勝手に使えるので「我が社の定義ではこれは抗菌効果がある」と言われたら反論できません。

そうはいっても無秩序に「抗菌」や「除菌」という文言を使われると収拾が付かなくなるので、一応はそう名乗れる基準がないわけではありません。


しかし基準を設けているのはそういう品を作ったり売ったりしている業界団体であって、厚労省や医療界はタッチしていません。



『抗菌』

端的に言えば『製品の表面における細菌の増殖を抑制する』です。

抗菌はあくまで『細菌の増殖を抑制する』のであって『細菌を増殖させない』や『細菌を殺す』ではありません。


各社が好き勝手に使うのは拙かろうということで数多ある抗菌を謳っている内容の最大公約数的な物である『製品の表面における細菌の増殖を抑制すること』というのを「抗菌」と呼ぼうとなったのです。


抑制といっても、どの程度を抑制するのかが定められていないと状況が変わらないので、一応は抗菌活性値2.0以上ある物と日本産業規格(JIS)(旧・日本工業規格)に定められています。


抗菌活性値と言われても分からないと思いますが、簡単に言えば「同条件で処理品と未処理品に細菌(大腸菌・黄色ブドウ球菌)を付着して二十四時間後の菌数が未処理品の一〇〇分の一以下ならOK」というものです。


これは抗菌処理すると二十四時間で九九パーセントの菌が死ぬのではありません。

例えば未処理品は二十四時間で三〇〇京倍(三〇〇億倍の一億倍)まで増えたのに処理品は三京倍しか増えなかったといった感じのものです。

※黄色ブドウ球菌は好適環境下で増殖し続けられれば二十四時間で約三〇〇京倍に増えます。大腸菌はもっと増え二十四時間だと黄色ブドウ球菌(約三〇〇京倍)の三十六万倍ぐらいまで増えます。


これはだいたい一回の増殖に要する時間が一割ぐらい伸びれば達成できます。

つまり「未処理品だと大腸菌が十八分で二倍に増えたが、抗菌処理した品だと二倍に増えるまでの時間が二十数分に延びた」でOKです。


抗菌製品は菌が増えないのではありません。

増える速度が遅くなるだけです。


抗菌と謳っていい定義を決めたのが厚労省ではなく経産省の審議会である日本産業標準調査会(旧・日本工業標準調査会)が定めたというのがミソです。


また、抗菌活性値の試験には大腸菌と黄色ブドウ球菌しか定められていないのでそれ以外の細菌に効く保証はありません。


つまり医学的なものは何一つ保証していません。


医学的なものは何一つ保証していないので薬事品ではなく、薬機法(旧・薬事法)の対象外になるので、自由にCMが打てるのです。



『除菌』

端的に言えば『対象とするものに含まれる生きた細菌の数を減らす』です。

減らす方法は“物理的に細菌を取り除く”でも“化学的に増殖不可能にする”でも“化学的に細菌を殺す”でも“生物学的な作用で増殖不可能にする”でも“生物学的な作用で細菌を殺す”でも何でも構いません。


「除菌」で面倒なのは、実は食品衛生法関連に「除菌の定義」があるのです。

それによると「除菌」というのは「ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を除去すること」になります。


これは食品関連での限定的な用語なのでちょっと例外という事にして話を進めたいと思います。


「洗剤・石けん公正取引協議会」が定める「除菌」というのは「物理的、化学的または生物学的作用などにより、対象物から増殖可能な細菌の数(生菌数)を、有効数減少させること」とされています。


「有効数減少させる」の有効数とは何かというと、JIS規格を援用したのか大腸菌と黄色ブドウ球菌を除菌効果を謳っていない対照試料と比べて除菌活性値が2.0以上ある(生菌数(増殖可能な細菌の数)を一〇〇分の一以下にする)こととされています。


抗菌では抗菌活性値

除菌では除菌活性値


両方とも大腸菌と黄色ブドウ球菌の二つのみを対象として、一〇〇分の一以下になればOK!


ところで、流水で数十秒洗浄すると菌やウイルスは一パーセントぐらいしか残らないというのはご存知でしょうか?


つまり、除菌も抗菌と同じく医学的なものは何一つ保証していません。


■■■


一応、残りの文言を解説します。



『消毒』

細菌やウイルスなどの病原体を殺したり不活化させたり感染力を失わせたりして無毒化することを言います。

これには“害が無い程度にまで減らす”も含まれており、必ずしも全滅させる必要はありません。


こちらは薬機法の規制対象になる文言なので俗語としてはともかく、商品などで謳うには薬事品である必要があります。

薬事品である以上は厚労省がからんでいますので謳っている効果・効能は一定の裏付けがありますし、虚偽や誇大ということもありません。



『殺菌』

これは細菌を殺すという事なのですが……

残念ながら殺菌する対象や程度についての定義はありません。

極端な事をいえば、ある特定の種類の細菌を一個でも殺せば殺菌といえなくもないという事です。


ただ、昔から使われていた文言で、薬機法の規制対象になっているので……



『滅菌』

学術用語で明確な定義があります。

滅菌とは細菌を全滅させることです。

これは特定の細菌だけではなく、滅菌対象になったものから全ての細菌を文字通り一個残らず全滅させる事を指しています。

まあ、専門家でもなければ滅菌処理なんてする必要はないですけどね。


手術用具など極僅かでも細菌などが付着していたら拙いものとか、細菌検査などで検査対象以外からの混入(コンタミネーション)があったら駄目といったときに滅菌処理を行います。



『静菌』

細菌の増殖を抑えるという意味です。

抗菌と定義が似ていて抗菌と同じく対象や程度を含まないのも同じです。


しかしこちらは医学的な見地からの言葉に近いです。

具体的にいうと実は抗生物質は細菌の増殖を阻害して増殖を抑制する静菌作用がある薬剤であることが多いのです。抗生物質が病原菌の増殖を押さえ込んでいる内に免疫機構が病原菌をやっつける事を期待しているというものです。


ただ「せいきん」というと増殖可能な生きている細菌を意味する「生菌」と読みが一緒なので一般にはあまり使われない用語だと思います。



余談『抗生物質』

抗生物質は「生命」に「抗う」「物質」のことで、英語では“antibiotics”つまり“biotics”=“生命・生物”に対抗する(アンチ)という言葉ですので直訳すると「抗生命物質」とか「生命対抗物質」になると思います。


一応、細菌を殺す殺菌作用がある抗生物質もないわけではないですが、多くの抗生物質は細菌の増殖を抑制する静菌作用を持つ薬剤です。


ここで注意して欲しいのは抗生物質は菌などの生き物にしか効きません。

生き物ではないウイルスに抗生物質は効きません。

ウイルスに効くのは「抗ウイルス薬」であって「抗生物質」ではありません。


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― 新着の感想 ―
[一言] 非常に分かりやすく書かれていて「学生の時に読みたかった」というのが正直なところです。 何故なら看護師だから。 違いがわからず苦労している人もいたので、こういう纏めがあったら……と思わずにい…
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