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5 自意識過剰と無表情



 入学式の日に周りを見回して思ったことは、うわぁ~やっちゃったぁ……だ。


 侍女に擬態すべく、早めに入寮した時から薄々感づいてはいたけど、高位貴族ほど直前に入寮するものだから核心はなかった。ズラッと並んだカラフルな頭に、ピンクブロンドがなんぼのもんじゃいと内心突っ込んでしまった。だって目に痛い程のど原色カラーな頭達。自分の髪色を見た時の衝撃を、なかったことにして欲しい。乙女ゲーム説の最大根拠が、何処にでもある石ころの重さしかなかったのだから。



 しかし、油断することなかれ。備えあれば憂いなし。遅刻入場イベントなど起こりえない様に、早くから講堂へ赴き、生徒会(仮)と遭遇しないよう、近くのトイレ付近に人待ち侍女顔で空気となり、無事適切な時間に入場を果たした。これでここが創作世界じゃなければ、馬鹿みたいな無駄苦労だなと思いながら……



 学園内では身分は平等、家名は名乗らないという有り難い学園長の挨拶を聞き、クラスへと移動する。周囲の様子を伺いながら、徐々に歩みを遅くして。



 クラスの大半が席に埋まってから教室に入ると、王子とおぼしきキラキラ達から遠い、前の方の席が空いている。指定席ではない。さりげなく滑り込むと、すぐに担任が来て話し始める。完璧なタイミングだ。



 自己紹介の結果、王子二人と婚約者候補達は同じクラス。席順と顔面レベルとシルエット的に、宰相子息と騎士団長子息も同じクラスじゃないかな。さすがに身分がわかるような話はしなかったが。


 奉公先で仕入れた、黄色い縦ロール釣目美女で有名な婚約者候補の噂。金髪じゃなくて本当に黄色だったとは……あの子がその噂のドラジェ様に違いない。独断と偏見で。とするとくっつかれてる俺様系キラキラが第二王子。もう一人の優しげ系キラキラが王太子だろう。寄り添ってるおしとやか美少女が王太子の婚約者候補か。あれだけベタついてたらもう候補じゃなくていいでしょうに。



 これだけの重要人物が同学年という時点で創作世界決定と思いきや、王妃様妊娠の気配を察知すれば、こぞって皆子作りするのが常なので、これは確定要素にならない。そしてこの世界がソレだったとしても、私がソレとは限らない。だってこのカラフル世界で特別な髪色なら、きっと白か黒でしょ。奉公中も黒髪の人には会ってない。ここは、異世界転移の聖女が降ってくる系の世界かも。うわぁ~ハズい。自分のことヒロインとか思っちゃった~



 まあ中年男性の後妻に入る話を蹴った時点で、侍女奉公は避けようがなかったから、自意識過剰ドンマイってことで、就職先のツテ探しでもしようかな。一応警戒と対策は続けることにする。自分がメインじゃなくても、巻き込まれ被害も避けたい。でも大分気が楽になったかも。



 自己紹介の後はもう解散で、お昼休みだ。キラキラ達が食堂に行くのを確認して、私はランチボックスを貰いに行く。食事は三食付いていて、朝晩は寮で、昼は食堂か、お弁当を好きなところで食べるかを選べる。


 私は入学式前に下見しておいた、裏の庭園の外れにある温室へ向かった。今日のランチはサンドイッチだ。小さいティーテーブルにランチセットを広げて、いざパクついた瞬間、入って来た男子生徒と目が合った。咀嚼して飲み込んでもまだ見てる。あちらは引く気はないか。――ネクタイの色から一学年上、侍女も護衛もいないから上級貴族じゃない。髪もグレーで目が痛くない。よしっ!



「失礼致しました。こちらは貴方様の席でしたか。」


「ああ。」



 立ち上がりながら話し掛けるとあっさり肯定された。近寄ってくる身のこなしは洗練されているように思う。ランチボックスを片付けて、さっきティーセットを置いた温室備付けのワゴンに移動させる。温室なのにこの辺りに砂一粒ないのは、この人が毎日使ってるからなのかもしれない。



「実は私は、侍女になる修業を始めたところなのですが、先輩にお茶をお入れしてもよろしいですか?」


「……」



 あれ、拒否られた?もしや毒でも入れると思ってるのか。何か言ってくれないと引っ込みがつかないよ。



「――入れる所作を見て、変だったらご指摘いただけますか?お飲みいただかなくても結構ですので。」


「――わかった。」



 飲みたくないで正解だった~。この人は命でも狙われてるのか……。はっ!こんな外れの場所で椅子一つのテーブルを毎日使ってるってことは、この人ボッチなのか。しかも嫌がらせでお茶に何か入れられちゃう系の。――お労しい。細いけどこんなに背が高いのに、抵抗できない身分の相手にイジメられてるのか……。道理でレディが食べてるところに遭遇しても出て行かない訳だ。彼にはここしか居場所がないのだろう。


 私も継母には食事を減らされて、お小遣なしだし、服はお下がりだし、一度は殴られたけど、普段はいないもののように扱われるだけで、オデットの記憶の中では食事や衣服に異物混入はされたことない。身の周りのものに何かされると常に気を張らなきゃいけないから疲れるんだよね。分かる~

 

 なんてことを考えながら先輩の前に移動させたワゴンでお茶を入れて見せた。蒸らしの間に先輩のランチセットを広げる。男子生徒用は量が多いな。確か追加料金を払うと内容までカスタマイズできるはずだけど、これは汎用品だ。



「いかがでしょうか。おかしなところはありましたか?」


「ない。――ただ、僕はもう少し渋いのが好みだ。」


「心得ました。――お飲みになりますか?」


「ああ。」



 味に言及するから飲む気があるのかと思いきや、先輩は手を出さない……。もう!ビビっちゃって仕方がないなぁ。



「あの……毒味の仕方を教えていただいてもよろしいですか?」


「――そのまま普通に一口飲んでくれ。」


「?!……畏まりました。」



 スプーンとかじゃないの?間接キスだよ。ああ。カップの縁に何か塗ってあるのを怖がってるのかな?うんん。間接キス位でうろたえるなんて、私、中身幾つだよ。でも十四才の青年が、初対面の女と同じカップで気持ち悪くないのかな。それだけイジメを怖がってるってことか。うんうん。お姉さんに任せなさい。外見は年下だけど。



「ミルクとお砂糖はご使用ですか?」


「いや。いつもそのまま飲む。」



 じゃあ紅茶だけでいいか。ソーサーごと持って取っ手を右にして一口飲む。こういう人にティースプーン付けて、取っ手を左にして出す必要ってあるのかな?――まあいいか。テーブルにカップを戻してから聞いてみた。



「飲み口は私が拭ってよろしいですか?」


「自分でする。」



 お~これで正解だったか。逆の縁から飲んだ方がいいかとも思ったけどね。それに私が拭ったらまだ毒を塗るかもしれないしってことか。

 さてこれからどうしよう。控えていた方がいいかな。貴族なら食べてるとこじっと見られてても平気なんだろうけど、この人はどっちだろう。お腹空いたしな~この人と雇用契約結んでる訳じゃないしな~でも私も他に行くとこないし。椅子は一脚だし。



「控えてなくていいよ。」


「では私はあちらの方にいますね。ご用があれば呼んでください。」



 ラッキ~。自分の分のランチボックスと自分用にお茶を入れて、さっさと花壇の反対側に行く。草でお互いが見えない辺りの花壇の煉瓦にハンカチを敷いて座り、食べ始めてから気付く。今日はまだ午後の授業はないから、急いで食べなくてもよかったのか。まあいっか。



 昼休憩の時間が半分位過ぎた頃、草葉の陰から音もなく先輩がぬっと現れた。ずっと無表情だしビビります。



「僕は済んだから、テーブルを使うといい。」


「ありがとうございます。」



 正直今更移動するの面倒だったけど仕方ない。私がテーブルに移動すると、無表情先輩は草花の手入れをし始めた。あ、私があそこに座ってるのが邪魔だったのね。なる程納得。私は先輩の姿を眺めながら、残りのランチをいただいた。




 全て片付けて、休憩時間が終わりになっても、無表情先輩は出て行く気配がない。一緒に出て行くところを見られたくないのかもしれない。私はさっさと帰ろう。その前に言っておきたいことがある。



「明日からもこちらで昼食をいただいてよろしいでしょうか?(この場所は譲らないわ)」


「構わない。――ただし、僕のことは他の者には黙っていて欲しい。」


「まあ!秘密の逢瀬みたいですね(イジメ回避の安息の地をバラされたくないんですね)。畏まりました。では、失礼致します。」




 ワゴンはここの備付けなので、二人分のランチボックスを重ねて圧縮し、中にカップも入れちゃう。ポットと湯沸かし魔道具とボックスを載せたトレーを持って退出する。歩きながら考える。飲める水が魔法で出せればいいのに。むしろ熱湯が出せれば湯沸かしいらないし。逆に重さ軽減魔法が使えれば荷物が多くても問題なしか。――魔法の授業が楽しみだ。







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