表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

4 なりたい私になるための人生設計


 幸せな異世界転生生活を送るために、私は何をすればいいだろうか。計画を立て、準備することだ。避けるべきは身分差結婚と婚約破棄の原因となること。


 貧乏子爵家とはいえ、継母の実家のおかげで学園には通える。というか世間体的に通わねばならないため、乙女ゲームのルート回避は困難を極めるだろう。


 攻略対象者は避けるとしても、生徒は沢山いる。正式な婚約者がいる生徒の情報は今のところ得られていないので、主に身分違いの交流を避けて行こう。


 



 まずはエンディングが卒業後の場合の対策。




1、大学に行って婚期を遅らせる



 通常高位貴族は学園卒業の十五才までには婚約する。そこから二年位で結婚するのがベタだ。大学に二から四年通って逃げ切れば、荒方の対象者の婚期とズレる。大人組は身分等詳しい情報が入ってきていないが、その時点で誰とも婚約していないのなら、さほど切迫した脅威にはならないと願いたい。


 この案は、この世界が創作世界でなかったとしても、モチベーションが無駄にならないところがいい。再度の見合い攻勢から逃れる為に、高位貴族の子供の家庭教師を狙うという建前にもなる。大学まで学費を出してもらえないことを考えて、奨学金のため勉強を頑張る必要はあるが、教師は女性がなれる数少ない職業だ。歴史、音楽、刺繍にマナーなど人並み以上には習得せねば。




2、いっそ領地からでないで領地経営



 継母はタウンハウス好きだし、弟が継ぐには大分間がある。その間に攻略期間が終わればルート回避は可能か。しかし潰しが効かない上、その後の政略結婚が強制となる。


 第一、継母の実家から派遣された人員が実務をしているらしいので、領地経営の手伝い所か下働きになる可能性もある。どんな規模の領地かは不明だが、どうせ下働きするなら他家でしたい。一応選択肢として残す為には経営学や、算術の授業を頑張っておくか。




3、侍女になる



 上手くいけば結婚はしなくても生きていけるかも。ただし王子達がいる王宮以外なので女官は不可だ。この一年の侍女修業だけでは卒業後すぐには雇ってもらえないかもしれない。親に頼れない以上、在学中にツテを作るか更なる修業が必要になる。




4、他国に留学


 攻略対象者候補の国以外で。留学を可能にする程の特化した才能と語学が必要だ。オデットは入学前に特別な教育は受けていないので、入学後の勝負となる。この一年は休みなく奉公で休みなく働くことになるのため予習は難しい。ヒロインチートですぐ覚えられるといいのだが。




5、平民になる


 これは平民と結婚すればなれる。政略結婚で商家の嫁もありえる。使用人のいない生活なので炊事洗濯覚えないと。前世の記憶があるから苦はないが、設備と食材が違うので慣れる必要がある。奉公先で下働きも手伝う覚悟をしよう。




 どちらにしても、在学中のフラグは避けなくてはならない。婚約なんてもってのほかだ。既成事実にも注意しよう。そして在学中にエンディングを迎える場合。創作世界なら学園のクラス分けはもう、諦めるしかない。となると目立たず喋らず空気のように振る舞うしかない。




 目立たないためにはまず外見。このピンクブロンドが普通なのかどうかは今のところわからない。父は金髪、継母は茶色、弟妹は薄茶。食事の給仕をしてくれた執事と継母の侍女は色味は違うけどどちらも茶色。我が家の範囲だと平民は茶色ってとこかな。そういえば寝台にいることが多かった産みの母は、赤栗毛だったようだ。明るい外で見たらどんな色だったのだろう。


 私は店先で接客はしないので、盗み聞きはできても覗き見は難しいが、室内から見える範囲の外を出歩く人達は、濃淡はあれども茶色。たまに赤茶色や黄色っぽい茶色など、混ざっている人もいる。仕事仲間も概ね同じ。私はこの奉公先ではできるだけ髪はまとめているが、灯火が上質ではない奥向きで働いてるので色は余り目立たないようだ。お使いに出される事もないし出稚奉公なので基本休みもない。


 どピンクじゃないだけましだけど、三年全寮制の学園に行くことを考えると染めるのは難しい。チートな可愛さを抑えるためでも太るのはなぁ……出される食事だけでは無理そう。お小遣いもないので間食も無理で却下。当然侍女もつかないので複雑な変装も化粧も難しい。化粧品買えないし。


 あるものでなんとかというと……祖父の形見の伊達眼鏡。レンズに傷があるからちょっとした目くらましになるかも。自分も見づらいが。オデットは薄暗い室内でずっと本を読んでいたにしては目が悪くない。ヒロイン調整の証拠だろうか。



 それから髪型は鉄板の三つ編みと、分厚い前髪でなんとかごまかそう。実は既に前髪は実家を出る時に切ってきた。今は一本に編んで丸めてまとめているが、特に絡まれない。髪色で引かれているか、主の関係者だと聞かされているのかもしれない。そういえば遠巻きにされている。主自体も義理の孫扱いなど一切せず、不干渉を貫いている。学園では二本の三つ編みを顔の横に垂らし、眼鏡と前髪で鉄壁防御だ。



 その上、人見知り設定で顔を上げない喋らない。空気になる方法は……今のところ未定。あ、魔法は危険だな。癒しの聖女とか光の魔法とか、そういうヒロイン設定がありそう。入学前の魔法は禁止なので、今のところ何が使えるかは全然わからない。きっと登場人物達は特例で家庭教師とかと既に練習したりしてるんだろうな。この分野は落ちこぼれでいいや。


 そういえば実家では使用人が少な過ぎて気付かなかったが、ここでは私以外の侍女も主に干渉されていない。お貴族様は使用人を空気みたいに無視するのだったか。主は平民豪商だけど。茶を入れさせても顔を見たり礼を言ったりしない。いるけどいない。まるで黒子のようだ。これはいい。


 客の話を漏れ聞いたところによると、学園では家名は名乗らないルールだそうだ。面識がなければ誰かわからない。侍女や護衛も生徒として入学が可能で、皆制服を着る。素晴らしい。ここに紛れたい。高位貴族の侍女はまた、貴族であることが多い。クラスが違えば単独で授業も受けるだろう。実態のない、病弱なお嬢様の侍女の振りで空気になるのはどうだろう。嘘は言ってないけど本当のことも言わない、微妙なラインで攻めていきたい。



 そして願わくば、ルート外の身分低めの素敵男子を見つけて、ラブラブし、攻略対象者に引き離されない様に外堀を埋めたい。私とて地獄は見たくないがつましい幸せくらい夢見たい。まあ第一目標は何事もなく卒業することだ。物語のざまあ強制力やナチュラルな低位者への嫌がらせを受けないように、常に証人の目を意識し、陥れられないように気をつけねば。



 それにしても、イジメてないのにイジメたことになっている強制力はまだわかるが、イジメられてないのにイジメたことにして冤罪をかけたことになっている強制力とはややこしい。辻褄という言葉はこの世界にはないのだろうか。――いけない。悩み過ぎて、まだかけられていない強制力の冤罪を世界にかけてしまった。冤罪ダメ絶対!






 毎晩空いた時間にシミュレーションをし、対策を練り、日々侍女スキルを磨くうちに、あっと言う間に一年が経った。ヒロインチートか前世の接客経験と習い事遍歴のお陰か、意外とちゃんと高レベル指導してくれたこの商家のお陰か、高級侍女スキルを驚くべきスピードで習得した。そうして私は、実家に揃えられたわずかな学園用荷物と共に、恐ろしい学校生活へと足を踏み出した。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ