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22 情報操作とひとつの幕切れ



 そうして私達は、周囲を自分達に慣れさせ、王位にも社交界にも興味がないことを示しつつ、テストでは首位をキープし大学に行きたいアピールと、隣国に興味ありますという隣国語トークを続けていた。ある昼休みのこと、リラ様が私に一冊の冊子を見せてくれた。



 継母に虐待されて誘死の瞳を発動してしまった男爵令嬢が、同じく継母に毒を盛られて瞳を発動した青年と恋に落ちる。密かに愛を育みつつも、嫉妬したライバル達によって酷く心を傷付けられてしまった令嬢は瞳に更なる色を加える。令嬢を慰め、愛を深め、明るい笑顔を取り戻させた青年は、実は隣国の王弟だった。二人はいつしか祝福されて結婚し、幸せに暮らした。



「何これ欲し~い!この本どこで売ってますか??」


「最近学園内でこっそり回し読みされている本よ。売られてはいないわ。」


「作者に挨拶したいです!すごくいい~!ツッコミ所はありますが、関係各所への配慮を考えれば目を潰れる範囲ですし、死にかけなくても瞳の色が変わるというところが特にいいですね!写本したいので貸していただいてもいいですか?」



 増刷の許可を頂きましたが、実はこの本、私が書きました。ちょっと猿芝居過ぎたかな?涙を飲んで、相手を隣国の王弟にしたからバレないでしょ。増産して町の貸し本屋にも流せば、草の根運動の開始だ。ちなみにこの本、ジーク様は不満げ、ドロッセルマイヤー先生はニヤニヤ!隣国の王子はソワソワしている。




 平和な日々を過ごしていたある日、ラスボスからの召喚状が届いた。王宮での王妃のお茶会だ。一応王子達の婚約者を招いてということらしい。怖い。でもここが正念場だ。服はリラ様が貸してくれた。「貴女がジーク様を捕まえていてくれないと困るのよ」といってイロイロ親切にしてくれる。今日の私は眼鏡こそしていないが、シンプルハーフアップ、前髪ありの地味化粧で地味ドレス。



 初めてお会いした王妃様は意外と普通だった。よく言えば清楚な品のあるお顔だ。キラキラ王子達は父親似か。表面上は和やかな会話、どうやら王妃様は美人が嫌いらしい。リラ様、ドラジェ様への当たりがキツい。私には慈愛の目を向けてくださる。これもリラ様のイロイロのお陰だ。最初は私より目立たないでっていう地味な牽制かと思ったけど、ヒロインフェイス&ボディが封印されて、王妃のお気に召したようだ。



 しかしこのまま終了とはいかなかった。本題はあの本だった。ついに尊きお方の手にまで辿り着いていたのだ。ここでドラジェ様のツッコミが冴え渡る。



「素敵なお話しだけれど、王子に毒を盛ったとされる継母が、濡れ衣を着せられているようで不敏で……。」


「王妃様は隣国の王太后陛下とは仲がお悪かったと思いますけど?」


「?」


「隣国の王弟の継母は王太后陛下でいらっしゃいますわ。もちろんお話しの中のですけれど。それとも王妃様は何か濡れ衣と思う心当たりがおありですの?」


「――そうね確かに。お話しの中のことだけれど、あの方ならばやりかねないわね、物語だけれど。」



 私はじっと地味に徹して何とかやり過ごした。あの設定にしておいてよかった……。そして令嬢ズには感謝しかない。シラけたお茶会は早々に終了した。誘死の瞳の発生元、ラスボスであったはずの諸悪の根源、王妃との対決は呆気なく終わった。



 それぞれの王子が迎えに来たが、双子達は同じ馬車で帰り、私達は滅多に来ない王宮の庭を散策した。



「ジーク様は園芸がご趣味なのですよね?」


「いや。緑の属性が増えたからってだけの、単なる暇潰しだ。でもまあ奥の方で毒草も育てて、自分に耐性をつけたりしてた。」


「それは趣味とは言えませんね。私の趣味は読書です。――そういえばお茶会であの本の……」


「君に似た主人公が隣国の王弟と結婚するなんて話、聞きたくない。」


「ふふっ。では内緒話をしましょうか。」



 立ち聞きされない場所で、影さんにも周りに注意してもらいながら、ヒソヒソと誘死の瞳、草の根イメージアップ作戦とお茶会の顛末を話した。前世風の内緒話にジーク様は耳を赤くしていた。そのどさくさで本を書いたのが私だと告白してしまう。


 その瞬間、ジーク様がパッっとこっちを向いたので、顔が触れ合う程に近かった。思わず私が身を引くと、慌てて顔を戻した。――傷だらけの見えづらい眼鏡越しではずっといつも見てたけど、至近距離で直接見ると綺麗な顔してる。生気のない無表情でもしかめっ面でもない顔は、結構イケメンだ。


 内緒話に使っていた手で自分の口を押さえ、マジマジとジーク様の横顔を黙って眺めていると、顔が赤いジーク様がベンチから立ち上がり、私の手を引いて立たせ、そのまま手を繋いで歩き出した。



「こっちに神殿がある。ガラスが綺麗なんだ。」


「そういえば私、神殿は初めてです。」



 着いたのは白い神殿。王族が礼拝する為にあるらしい。この国の神様は、太陽と月。前世と同じような感じかな。上をみるとステンドグラスに金と銀の鳥……。


「鳳凰?」


「これは太陽神様と月の女神様だ。夫婦神であられるので王族はこの神殿で結婚の報告をするんだ。学園卒業後、僕は先に大学に行っている。大学を卒業したら結婚しよう、オデット。陛下にはさっき許可を貰ってきた。君がやりたいことは可能な限り叶えてあげたいけど、できるだけ側にいてくれ。でないと卒業まで待てないかもしれない。」


「私も大学に行けるのですか?ではしっかり研究しなくては。私達が結婚したら産まれる子供は生まれつき瞳の色が茶色ではないかもしれないでしょ。」


「子供……。子供は王太子達に生まれてからだな。――その為には医療魔法も一緒に研究しよう。それは結婚前でも構わない。」


「えっ?結婚前に……」


「よし、学園に帰ろう。そういえば乗馬も教えるんだったな。今度義父上の訓練場も見学に行こう。」


「あ、はい。」



 手を繋いで慌てて出て行く私達の後ろで、ステンドグラスがキラッと光ったのは誰も知らない。







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