2 頬の痛みと窓の虚像
キーンと耳鳴りがして、目がチカチカする。ドスンとしりもちをついた。左頬がジンジンする。うつむいた視界に広がるのは、ワンピースを着た自分の体と木張りの床。斜め前方に立つ、土足の女性。これは一体どういう状況……
「身の程を知りなさい。」
――これは修羅場?私、殴られた?え?誰に?恐る恐る顔を上げる。――誰?この人?
「これは決まったことです。口答えは許しません。」
そう言ってカツカツと靴音を響かせ退場していった。――誰?
私、妻子持ちの人と不倫とかしてたっけ?いや、ない。さっきの通り魔も痴情のもつれ?――って私、刃物で刺されたよね??胸から血は出てない。痛いのは頬とお尻。私の服も変わってる。今の加害者は男じゃなくて女だった……。しかも外国人??
ここはどこ?私は誰?――なんちゃって。夜道じゃなくて室内だな。見回しても誰もいない。立ち上がり窓の外を見ようとカーテンを開けるとまだ夜だ。外は真っ暗で街灯もない。反射した室内のぼんやりとした明かりから目をそらすと、ビクッと飛び退いた。――誰??わ、私!?
しばらくの間ぼんやりと、映る女の子の顔を眺めていた。……はぁ~了解しました。これがあの有名な転生ってやつだ。今前世を思い出したか、それとも転生じゃなくて憑依ってやつ?この体は何才かわからないけどまだ若い。この年齢までの記憶はまだない。下手打てないな。
さっきは殴られたみたいだけど、見たところ日常的に虐待されている様子はない。痩せ気味だけど体に異常はない。服は綿かな。絹ではない。着古してはいるけど穴やほつれはない。明かりは蝋燭ではない、タッチスイッチ式の……電球でもないな。部屋は木造ではなさそうだ。
ここがどこかはわからないから、明かりの側でもう少し私を観察する。私の髪は……ピンクががった金髪。これはマズい気がする。何がマズいって色がマズい。さっきの女性の髪は茶色。顔は……多分似てない。
ふぅ~。状況を整理しよう。私は転生した(仮)。現在10代女子。髪はピンクブロンド。顔はかわいい。ベタな設定でいけば乙女ゲームのヒロインってやつだ。平民なら上か中流階級、貴族なら下級かな。で、何かが既に決まっていて、身の程知らずなことをして殴られた。こんなところか。
そろそろ誰か来ないかな。ソファーしかないから、ここが自分の部屋ってことはないだろう。というかそもそも自分の家じゃないかも?誰も控えてないのは、使用人はいない階級だからかもね。逆に私が使用人の可能性もありか……。そんなことを考えながら頬を押さえてぼんやりしていた。
どのくらいそうしていたかわからなくなった頃、ガチャっとドアが開き男性が入って来た。
「オデット!」
私の名前か?呼び捨てってことは私より偉い?お辞儀でもした方がいいかな?でも頭下げる文化ってあるのかな??わからないから頬を押さえたまま、目を伏せて立ち尽くす。
「母様に叩かれたのかい?可哀相に。見合いの話を聞いたのだろう。――すまない。私が不甲斐ないばかりにお前には苦労をかけるね。」
この人は父親か。見合いねぇ。返答の仕様がない。――早く今までの記憶が戻らないかな。ここは淑女らしく気絶だな。振りだけど。推定父親に抱きしめられて頭を撫でられ始めてたところで力を抜く。抱き上げられると色々ありすぎて疲れたのかいつの間にか眠ってしまった。