表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

16 切迫と感得と収束



 シールドから出されて尚うなだれる二人は担任に任せ、わたしはドロッセルマイヤー先生に寮まで送ってもらうことになった。ひと気のない、あの廊下に差し掛かった時、先生はわたしを壁に追い詰め、顔の横に手を付いた。




「君の恋人は、あの日の医務室でのことを僕がバラしたら、どう思うかな。眼鏡を取って、髪を解いて、ブラウスのボタンを一つずつ外して、君が胸に巻いていた布を緩めてあげたのは僕なんだよ。君のそれ、変装のつもりなの?君の恋人は、君の素顔を知ってるのかな?ひょっとしてもう全部見せちゃった?――それとも、僕と君だけの秘密、なのかな?」



 気持ち悪い!鳥肌が立つ!教育者のくせに、なんでそんなこと言い方をするんだろう。ジーク様が眼鏡をかけないわたしの顔を見たのは、医務室での一瞬だけ。でも身支度を整えて出て行っても驚かなかったのは、わたしって、分かってくれてたからのはず。それって先生に見せたのと同じだけ全部見せたことになるのかな。そんなこと考えてたら、クスりと笑って頬をなでられた。



「君の肌に触れたことを内緒にして欲しければ、大人しくしていて。」



 ブラウスのボタンを開けられて、胸元を緩められるなんて、貴族令嬢としては婚約破棄されても仕方ない位の不祥事だ。ジーク様はあの状態のわたしを見た後に結婚を申し込んでくれたけど、その状態にしたのがこの講師だとは知らない。これは危機なのか、問題ないのかどっち??ていうか今が絶対絶命の危機だし!どう逃げたらいいの?



 先生の顔が近付く。頬の手は添えられてるだけ。わたし、諦めないよ!逃れる為にシュッとしゃがむ。すかさず横に逃げようとしたら、先生も一緒にしゃがんじゃった。ますます逃げられない。どうして廊下なのに誰も通らないの? 


 先生はキョロキョロするわたしの手首を掴み、わたしの頭の上で左右まとめて、片手で壁に押し当てる。声が出ない。咄嗟に大きな声は出せないって本当だ。怖くて喉がつぶれたみたいになってる。搾り出すみたいにやっと「やめて」って声が出る。それも先生に「ふふっ」と笑われておしまい。 


 顔が近付いてきたからパッと横を向くと、耳元で「大人しくしてって言ったでしょ」と囁かれる。ひっと息をのむ。どうしよう、どうしたらいい?そうだ魔法!こんな時に使えるものは何の魔法だろう?すると先生は「体の中で魔力が動いてるよ。魔法講師に魔法じゃ勝てないのに」と耳の中に直接送り込むように言葉を発する。


 空いている手で、眼鏡を取られる。三つ編みも少しずつ解かれる。前髪をかき上げられ、前を向かされる。「こんなに可愛いのに、どうして隠しちゃうの?僕だけのものになりなよ。」 



 また頬を押さえられ、もうだめだと絶望する。誰かに助けて欲しいけど、誰も来てくれない。私はきっとこれ以上耐えられない。わたしは諦めないって、頑張るって思ったのに……。それに今誰かに見られたら、誤解されておしまいだ。


 ――ジーク様ごめんなさい。好ましいって、結婚してって言ってくれたのに。先輩のことを考えたら、涙がポロポロこぼれてきた。せめてもの抵抗で、ギュッと目をつぶる。こんなこと、先輩じゃないと嫌だよ。急激に体に震えがくる。主従じゃなくて、侍女としてじゃなくて、触れ合える相手として側にいたかった。でも、もう……



「――ジーク、先輩……」







 走馬灯並に長い心の歎きを経ても、ブチュっとこない。と思ったら先生の手が離れた。目を開けるとジーク先輩の短剣が先生の首にあてられている。



「降参降参!不可視化のシールドもジークに剥がされちゃったし、魔法講師失格だ。ほら、君の王子様が助けに来たよ。って立てないか。じゃあ僕が抱き上げて医務室に、ってわかってるよ触らないから剣引いて。瞳の色も混ざったみたいだし、婚約は早くしないとお姫様盗られちゃうよ。立会人が必要ならなってあげるから言うんだよ~。」



 そう言って、朗らかに笑いながら手を振りつつ去って行った。なんだったの?今の?からかわれた??こっちは腰が抜けてるっていうのに。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ