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13 絶望と帯剣の必要性



 王子達が元サヤに戻り、取り巻きの絡み囲みもなくなり、隣国の王子も接触して来ない。ついに静穏な日々が到来する……はずだった。何故か宰相子息と団長子息が猛烈アピールしてくるようになるまでは。「婚約者はいないから良いんじゃない」と助けてくれないリラ様。


 まさかお慕いしている人(嘘)がいるって言ったのを勘違いされた??私あなた達とは殆ど絡みなかったと思いますけど??確かにカラボス様にはヒロインスタイル見られた。前髪は厚いままだったし目は伏せてたから瞳は見られてない。まだわかる。シュタール様はガリ勉三つ編み眼鏡しか見てないよね??――はっ……。宰相の子息だけに、勉強できる眼鏡フェチ??そういえば「次は負けませんよ」的なこと言ってたわ。


 でも長期休暇前みたいに色々誘っては来るけど、そして全部断ってるけど、好きだと言われてる訳じゃないのに私のお慕いする人はあなたじゃありませんとは言えない。高位貴族に対して、不敬も恐れず、これだけ端的に断ってるのに察する能力がないのかな。将来が不安だよ。いや、私が目を合わせないのは照れてるからじゃないから!





 隣国の王子の時もだけど、町のチンピラも、もっと言うと前世の通り魔も。撃退するにはイメトレだけじゃなく、体の鍛練も必要だよね。忘れてた。そういえばオデットの記憶では、元騎士の父に、ごく簡単な短剣を使った護身術を習っていた。十二歳までは家で暇潰しに練習してたみたい。ゴメン、中身が私になってからサボってた。



 放課後ひと気がないところで、一人で棒切れを握って練習中していると「何してるんだ」と絡んでくる団長子息。相手がいる方が身になると言われ、お願いする。確かにシャドウって素人がやってもサマにならないし、イメトレ的にも相手はいた方がいい。いいけれども、何故抱きしめる?ここから逃れる訓練ですか?体術は習ってなかった!!



「降参です。離れてください。もしくはここから逃れる術をご教授ください。」


「ああ、いいぜ。教えてやる。俺のことが好きだと言えばいい。そうすれば今日は離してやる。」



 ノー!!やっぱ攻略対象者だ!いかにも過ぎる~!!でもこれ、リアルで好きでもないやつにやられると、さぶいぼです~声を出せ!これは訓練です。大きい声を咄嗟に出すには、訓練が必要です!



「……す……て、……して……」


「!――ああ、俺も好きだ。キスしてやるよ。」


「ひぃ~ちがっ!たすけて、はなしてって言ったんです!いや~!!」


「何をしている!?」



 あ~もう一人来ちゃった……。けどシュタール様、今はグッジョブ!凶行が止まったよ。えっ?なんで私を守るみたいに後ろにやるの、カラボス様??チャンスだからそのまま距離をとって逃げるけども。えっ?なんでこっちに手を差し延べるの、シュタール様?助かったけどもあなたのとこには行かないよ??仕方なく三人で正三角形の位置を取り、徐々に後退して二等辺三角形へと変化させていく。



 なんでだ~!!剣と魔法で戦い始めたぞ、この二人!!これぞ異世界の醍醐味、じゃなくて、私の為に争わないで、でもなくて!帰っていい?私が悪いの?私、悪女??思わせぶりなことは一切してないはずなのに!そうだ、先生を呼びに行こう!あ、救難信号上げればいいか。光はマズいから、火の玉を打ち上げて、上空で花火みたいに爆発させた。



 やっとドロッセルマイヤー先生が来たころには、二人は相当ヒートアップしてた。むしろ私のこと忘れてない?戦うの楽しくなってるでしょ?先生が二人の間に壁を作って、閃光弾みたいなのを打った。壁にそれぞれの剣と魔法がぶつかり、爆音がした。


 へたり込む私。流石高位貴族、実力はあるんだ。理性はないみたいだけど……。目が眩む。耳鳴りもする。ぼんやりと現実逃避気味に奴らは十四才だったことを思い出す。中二じゃ仕方ない、けど中二であのセリフ??と考えている間に、ドロッセルマイヤー先生にお姫様抱っこされていた。マズい……よね。これはどういうパタン?







 目を覚ますとここは医務室……?いつ意識を失ったんだろう。髪は解かれていて眼鏡はサイドテーブルにあった。――?!――サラシも緩んでる……?!ガクガクブルブル……。校医が女医さんでありますように!!



 カーテンが開く。ドロッセルマイヤー魔法講師の仕業でした。ニヤニヤしてる。マズいキモい!なんとか起き上がるとサラシが下がる~。思わず手で服の上から押さえると、「苦しそうだったから緩めておいたよ。君着痩せするタイプだね」だとぉ?キモい!ブルっときた!


 近寄って来るから後ろに下がるけど。すぐヘッドボードにぶつかる。ベッドに乗り上がり、サラシを押さえる私の両手を掴む先生。どうしよう!かわし方が分からない!手足はチンピラに掴まれた時と同じくらい震えてる。隣国の王子やさっきのカラボス様とは違って、大人の男の本気が全身を震わせる。


 怖い……。でも手遅れになる前に声を上げねば。叫ぶ前にまず拒絶の意思を伝えるべきか。声の出ない口を開け閉めしていると、「今、人が来たら不祥事になるね~僕はいいけど、君、お嫁に行けなくなるんじゃない?」と言われる。もう手遅れだった?!


 黙って堪えても嫁には行けなくなる。いや、行かなくてもいいとは思ってたけどそれはこういう経緯ではなくて!!大混乱の中、声の代わりに涙がじゃーじゃー出る。さっきから先生は私の目を見たまま視線を外さない。金縛りにあったみたいに私も目を離せない。心でも読まれてるの??先生がニヤニヤ笑いを引っ込め顔を近付けて来た。


 あ、終った……。先生は悪い魔法使いだったんだ。震えが止まってあの時を思い出す。馬乗りになった通り魔、振りかぶられる刃物。――体じゃなくて心が死んでも、瞳の色は変わるんだろうか……。私はまた、全てを諦め目を閉じた。




 誰かに聞いた、ネズミの話。何度も溺れさせられて死ぬ直前まで助けない、ということを繰り返すと、ある時ネズミは溺れもがくことをやめて自ら沈んでいくそうだ。サイレントベビーとは、世話をされない赤ちゃんが、いつしか泣くのをやめることらしい。私は、オデットは……







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