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スライム食べるよ。

作者: 潮田ぶち

 どうやら、遭難した。

 いつから道っぽいものが見えなくなったか覚えてないが、ここは地球ではないらしい。

 生きているスライムやら10m長のオニイソメに山中で遭遇すれば、さすがにココドコってなる。

 軽いハイキングのつもりで登った登山道でこうなるとは……昨今の異世界転移遭遇率が確変に入ったらしいというのは真実だったのだ。

 携帯食なんて2日目には食べつくした。

 食べ物を確保しようとも、枯れ木ばかりの禿山。地に落ちているのはカサカサの広葉ばかり。

 空腹に喘ぎ、途方に暮れながらも、下山を諦めないこと7日。

 襲ってくるスライムとオニイソメを木の棒で退治したとき、手違いでスライムの体液を舐めてしまった。

 ビックリした。めっちゃ甘かった。おいしかった。え、レモンティー? みたいなうまさだった。

 8時間後、めっちゃ腹が下った。

 これは、あれだ。

 生食したからだ。

 あんなにおいしいものが食べられないわけがない。

 よし、火を通そう。

 串焼きを試してみた。枝には刺さったものの、加熱したら中身が溶け出て、皮(外皮があった! 細胞膜かもしれない)は縮れて串に貼りつき、ラップみたいな感触になっていた。一応食べてみた。ラップにはあのとき感じた甘味は残っていなかったが、腹は下さなかった。

 次に石焼きした。なんとか豚の生姜焼きくらいの薄さは残ったが、石に貼りついて取れない。こそぎ落とそうとしたら皮が破れて中身は全部滴っていった。クソ、勿体ない。

 ならば茹でるしかない。だが、鍋がない。

 そうだあれだ、石を器にしよう。石焼きビビンバだ。器さえあれば、体液を直に加熱できるじゃないか。

 持ち上げられる程度の丸い大石を、尖った石でひたすら抉った。日暮れまでには形にならず、その日は小川の側で寝た。

 朝、ちらりと『この続きをやるのか?』と思わないでもなかった。しかし2㎝くらい削られた石を見て、昨日の10時間を無駄にしてはいけないという使命感に駆られた。

 あらゆる石との相性を試した。尖った石より角ばった石、白い石より黒い石、粒目のない石。

「おぉ…」

 そしてついに、理想の相棒を手に入れた。黒く、滑らかな角を持つ扁平の石。

 削れる。削り跡がまるでヤスリみたいだ! 昨日までの引っかき傷だらけだった石鍋(仮)が、徐に滑らかになっていく。

 なんという万能感。

 すごいぞ相棒!

 そこからの作業は楽しくて仕方なかった。ハンドグラインダーほど削れる訳ではなかったが、なにせ自分の思い描いていたすべすべ感が手に入ったのだ。

 しばらく無心で、如何に滑らかで美しい漏斗状にするかに執念し、石器へと立ち向かった。今生の相棒とですら長い時間苦戦を強いられた。その都度挫けそうになる心にムチ打った。自分はホモ・ハビリスだ。生きて子孫を残さねばならないのだと。

 太陽が中天を下ろうとしたころ、やっと8センチほどの深さまで到達した器となった。昨日の進捗に比べたら賞賛すべき成果だ……やったな、相棒……お前、すっかり丸くなって。身を削って働いてくれてありがとうな、無事にスライムを食した後も、ともに旅を続けような。

 河原に相棒をそっと横たえ、代打の石を手に取った。振り返ったらもうどれが相棒か分からなかった。

 気になるところを新・相棒と削り終えて、改めて鍋石器を俯瞰する。深さは十分。小さめのスライムなら余裕で入るくらいだ。厚さも、薄くしすぎて熱して割れたら元も子もないからな、このくらいでいい。

「……ふぅ……悪くないだろう」

 なかなか光るものを感じられる。日本で彫刻家を目指せば名を馳せたかもしれない。

 さて、いよいよ調理(ほんばん)だ。

 火を熾すのは3度目だ、手順も全く問題ない。

 現代では肩身の狭い思いをしたが、この時のためにタバコを吸い続けていたと言っても過言じゃなかろう。今この場においてライターはどこでもドアより価値がある。

 石をコンロ状に組み、そこで気づく。

 スライム狩らなきゃ。

 小川の近くには見当たらない。たどり着いたときは5、6体は居たのだが、食用にと2体仕留めたところ、気づくと他のスライムに逃げられていた。

 ここに来るまでに結構な数のスライムを仕留めてしまったからなぁ、簡単には見つからないかも。

 仕方なく熾した火を消して、林の中まで入ることにした。

 キャンプ地に戻れるように木々に石で傷をつけながら、木のウロや落ち葉の下を物色して歩く。いないなぁ。

 ふと、景色に動くものが見えた。あ、あれは。なんていいところに。









「"すみません、そこの人。小さめのスライムを探してるんですが、見かけませんでしたか?" って声かけられてさー。最初モンスターかと思って斬るとこだったよ」

「なにそれビビる。お前ホントそういうオモシロ事件起こるよなー! で? そのキワモノ、どーなったの?」

「え? 一緒にスライム探したあと解散したから知らんけど」

「……そいつ、遭難してたんじゃないの」

「……あっ……」

読みながらツッコミを入れてもらえてたら冥利に尽きます。

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