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4:ギルドに行って、とりあえず家に帰ろう

 草原を少し移動すると、簡素な一本道が現れた。幅は馬車が余裕ですれ違えるほどあり、始まりの塔と町を繋いでいる。

 ゲームを始めたばかりの初心者が迷子にならない目印の役割もしている。


「あ、あれ町かな?」


 ちょっと風景は違うも、はじまりの塔の近くの町は私が知っている造りだった。建物は違うけれど、道は同じっていうやつ。

 町はぐるりと外壁に囲まれていて、大きな門がある。もし無人だったらどうしようかと思ったけれど、門番がいるし、馬車や徒歩で出入りしている人の姿も見えた。


 いつものゲームだ。

 そう思えたらよかったんだけど、雰囲気が違う。


「というか、プレイヤーがいないね……」


 プレイヤーなのか、NPCなのか、それは一目でわかる。

 外見の装備グラフィックがそもそも違うし、NPCも自由に行動しているけれど、ある程度の行動制限などはある。


 NPCというか、普通の人間みたい……。


「考えても仕方ない! 今は冒険者ギルドに行こう」


 こんなところで町の様子を探っていてもしかたがない! 早く冒険者ギルドへ行って、今の自分に必要なものを手に入れよう。



 ***



 町の中は大勢の人で賑わいを見せていて、露店で食べ物やアクセサリーなどいろいろなものを売っている。

 世間話をしている声や、子どもを叱る母親に、仕事で疲れてへろへろな人。多くの人がいて、私がいつもやっているゲームとはまったく違った。


 町の道は同じみたいだけれど、建物が違う。

 私が知っているゲームより、少しだけ文明レベルが下がっているような印象を受ける。もちろん詳細にはわからないけれど、ゲーム内でよく見るアイテムがあまり売っていないからかもしれない。


 私は周囲を観察しながら、街の中央付近にある冒険者ギルドへやってきた。

 いつもはキャラクター判別センサーについたドアベルが鳴るけれど、今はドアに何もついていないみたいだ。


「……でも、ギルドがちゃんと機能しててよかった」


 始まりの塔の扉が開かなかったので、もしかしてギルド施設も同じようになっているのでは? と、心配していたから。


 冒険者ギルドは、入って正面にカウンターが五か所。左側には依頼などが張り出された掲示板があり、右側にはフリースペースがある。

 その奥には階段があって、二階には誰でも使える資料室がある。


「なんか見られてる?」


 思わず、変な格好でもしてたかな? と、自分の姿を確認してしまう。でも、変なところはない。もしかしたら、女の冒険者が珍しいのかもしれない。

 今いる冒険者たちは男ばかりで、付けている装備の質もいいとはいえない。というか、ここ始まりの町を出て次のエリアで手に入れるような品質だろうか。


 ここはレベルの低い依頼を専門に扱ってるギルドとか?


「っと、今はそれより大事なことがあるんだった!」


 私は空いている受付へ足を運ぶ。

 座っているのは、二〇代前半と思われる受付嬢だ。


「お姉さん、『転移門』を使いたいんですけどー」


 そう言って、受付のお姉さんに声をかける。

 転移門とは、お金を払って使うことのできる空間転移装置だ。各町の冒険者ギルドや、特殊な施設に設置してあり、一瞬で行き来ができる。

 プレイヤーは広大なフィールドを歩かず、違う町に行けるというわけ。


 すぐに案内してもらえると思っていたのに、受付嬢は困った顔を見せた。

 うん?


「おいおい、なんだあのお嬢ちゃんは。いい装備だと思ったが、頭の中はお花畑か?」

「言ってやるなよ、可哀相だろ」


 ――え?

 ひそひそ聞こえた声に後ろを振り向くと、冒険者たちが笑うように私に視線を向けていた。どうやら隠すつもりもないみたいだ。


 ……感じ悪い。

 文句があるならPKで勝負してやるけどと思い、そういえばまだレベル2だったとため息をつく。

 仕方なく受付嬢に向き直ると、私が笑われた理由を口にした。


「ええと、転移門が使えたのは今から三〇〇年ほど昔の話ですが……」

「おっふ」


 冗談が過ぎるぜ。


「つまり転移門は使えないっていうことですか?」

「はい。というか、なぜ使えるなんて思ったんですか……? 転移門と呼ばれている扉はそれですけど、開きませんし……」

「…………」


 受付嬢の指さした先に、確かに転移門があった。依頼掲示板の横にある立派な装飾の扉だけれど、今は閉まっている。

 ゲーム内では案内のNPCがすぐ横にいて、お金を払うといつでも転送してくれたのに。


 ――あ、待って。

 私はとても重大なことに気付いてしまった。


 今いる場所は、ゲームで最初に訪れる始まりの町。

 そして私の家があるエリアは、ここから一番遠いエリアにある。

 ギルドの転移門を使って近くの町へ飛べばすぐにつく距離だが、フィールドマップを移動して帰るとなるとえらい時間がかかる。

 しかも強いモンスターが道中にいるので、今のレベルでは無事に家まで帰ることもできない。


 これは詰んだか?

 いや、レベルを上げれば帰れるっちゃ帰れるけど……。


「……ちなみに今って、何年でしたっけ?」


 私がプレイしていたゲームは、ガーデナル歴1352年。


「そんな常識を……今はガーデナル歴1652年じゃないですか」

「……ですよね!」


 どうやら、ここは自分がプレイしていたゲーム世界の三〇〇年後らしいことがわかってしまった。


「えーっと……倉庫を利用することはできますか?」

「はい、もちろんです」

「よかった」


 もしここで、転移門と同じように倉庫が利用できないと言われたら本当にやばかったかもしれない。


 受付嬢が「ご案内しますね」と席を立ったので、私はその後についていく。

 先ほどの二階に上がる階段の横に、地下へ下りる階段がある。ここが倉庫へ繋がっているのは、どうやらゲーム時代と同じらしい。


「こちらに手をかざしてください」

「はい」


 階段の横にあるオーブに手をかざすと、ぱっと光る。これは、私が自分の倉庫を持っているかどうか確認するシステムだ。

 ギルド倉庫には、本人と、私が承諾した人のみ入ることができるようになっている。


「いってらっしゃいませ」

「ありがとうございます」


 階段を下りると一枚だけ扉があり、そこが私の倉庫になっている。

 今回は自分以外に許可を出していないので、案内してくれた受付嬢も入ることはできない。


「さてっと、装備とアイテムを回収しますか」


 扉を開けて飛び込んできたのは、大量のアイテムだ。

 種類ごと、木箱に詰まった大量のポーションや素材。立てかけられた剣や弓に、マネキンに着せているまあまあいい装備たち。

 倉庫の隅にはネタアイテムたちの入った箱もあり、さらにその奥には仕分けできていないドロップアイテムが山のようにあった。


 ……今度片付けようと先延ばしにしてたやつだ。


「でも、こんな状況になったから残しててよかったかも?」


 もしかしたら、何かの役に立ったりするかもしれない。

 私はアイテムや装備を物色しながら、今後のことを考える。


「まずはギルドでクエストを受けながらレベルとジョブを上げていこう」


 レベルを20まで上げればジョブチェンジが可能になり、最強キャラになれる。……が、それでも徒歩で家に帰るということは変わらない。

 課金の騎乗アイテムなら空を飛べたりもできるが、無課金アイテムだと馬や巨大キャトルルなどの動物になり、足もあまり早くない。

 ……というか、一般的な動物以外だったら町の人たちに驚かれそうだなぁ。


「仕方ない、錬金術師のレベル上げしつつゆっくり家に帰ろう」

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