ラスボス系義兄様は推しに弱い
1話完結型短編形式で書けたらいいなあという異世界転生モノで、ほのぼの系ラブコメディを見守る話です。よろしくお願いします。
■感想、ブックマーク、評価、誤字報告(誤字に全く気付いてませんでした……)等ありがとうございます!大変励みになります。
シュトロム=ドラクロワは、一言で言えばラスボス系貴公子である。
優美でいて男性的な魅力を存分に引き立たせる容姿、生まれ持ったものとこれまでに培ってきたものを合わせても尚余りある有能なスペック、貴族としての矜恃を体現する堂々たるオーラ……シュトロム=ドラクロワいう青年を構成するその全てが、支配者の風格を感じさせる。
そんな彼が、周囲から一目置かれている――いや、一目置かれているどころか置かれ過ぎて距離を取られているのは、当然であり自然なことであった。
彼の隣に並び立つ者はほんのひと握りで、殆どの者はその足下に傅き頭を垂れたくなる衝動に多かれ少なかれ駆られるのだ。
ドラクロワ家は爵位を賜ってはいるものの、王家の血を引いているという訳ではないし、最高位の爵位である公爵家という家柄な訳でもなく無難な(そう、貴族の中では可もなく不可もなく比較的無難な部類の!)伯爵家である。
更に言えば、竜の血を引く貴族はドラクロワ以外にもいるし、中には辺境伯として務めを全うする栄えある一族だっている。
しかし、そんな方々を差し置いて、一部の貴族達からやけに崇拝されているのが我が義兄様であった。
ある種のカリスマというか、一種の魔性というか、抗い難い求心力というか、兎にも角にもそういったものを生まれながらに備えているのが、シュトロム=ドラクロワという男なのである。
まあ、当の御本人はその点について深く考えてはいないらしく、至って温厚にして鷹揚、或いは索道用ロープ並みの図太さで日々を過ごしているので、狂信者の皆様には、「やり過ぎなければ好きにせよ」という実にふんわりしたお言葉を掛けるだけだった。
言葉遣いに関しては、貴族然とした堂々たるものと近しい者に見せる素のものとで明確な区別をつけているので、その落差に近くで見ていると風邪を引いてしまいそうになることもしばしばである。
「ああ……僕の女神………」
たとえば、こんな具合に。
ドラクロワ家で愛用されている質の良いティーセットが並ぶテーブルを前に、我らが義兄様は夢見心地で熱っぽく溜息を吐く。とろりと熟れて水気を含んだ黄金の瞳の悩ましさと色香は、恋に溺れる御令嬢様方よりもずっと艶めいていて悩ましげだ。
少女を前にして恍惚とする青年。
字面だけ見ると変質者の類か、はたまた、危ない趣味に走る変態の一種かと思われてしまいそうであるが、我が義兄がそれをするとなると話は別だ。シュトロム=ドラクロワの手に掛かれば、変質者は紳士になりかねないし、変態は聖人になり得てしまう。
視覚的凶器と言っても過言ではない美貌が艶めいた歪みを孕むということは、つまるところ、そういうことなのである。比べること自体が間違いとも言うけれど。
とは言え、そんな桁外れに整った顔立ちの人間と幼い頃から共にいれば、流石に慣れというものも生じるというか、ちょっとピントをずらせば案外どうにかなる程度には耐性も付く。「観賞用」というフィルターを挟んでしまえばこちらのもの。馬鹿正直に直視しなければ良いだけの話であり、不意打ちさえ来なければどうってことはない筈だ、たぶん。
そんな痩せ我慢を胸の内で繰り返しながら、苦笑を携えた私は、「今日も出ましたね、兄様の顔面凶器」とちょっと茶化してみせた。
「色気の暴力で通行人が腰砕けになりますから、くれぐれも外では自重してくださいね、義兄様」
「そうは言っても、仕方がないんだよ…スフォリア嬢の可愛さが僕の表情筋を狂わせるんだ……」
「顔面では済まされない狂いっぷりですけど、そこんとこ大丈夫です?」
「大丈夫だ、問題ない。スフォリア嬢に狂えるなら僕は本望だ」
きっぱりと言い切って目を細めたかと思えば、ふいに口元を手で覆って身体をぶるりと震わせるその姿は、とてもじゃないけれど外ではお見せ出来ないものである。
主に周囲の皆様の目が神々しさと色気で使い物にならなくなったり、理性が溶けてその場でへたり込むような惨状を避ける為に。何かに目覚めてしまうひともいるかもしれないし。
義兄様は恐らく、何らかの甘美なる回想を繰り広げ、身悶えをしているのだろうと勝手な推測を巡らせる。
内容はともあれ、対象は分かり切っているので、「うん、そうだね」と言う以外他にない。見た目と雰囲気がラスボス然としていても、中身は推しに必死なオタクも同然なのである。
それにしても、いやはや、美形が身悶え打ち震える姿というのは実に絵になるものだ。
美形だからこそ許される視界への圧倒的暴力の威力たるや、薄くて厚い本の見開きに載せられてもおかしくはないのではないだろうか。
我が義兄ながら、本当に美しく整った容姿をしているとつくづく思う。中身は推しの尊さを前に五体投地するオタクと完全に一致しているので、私は共感と羨望を込めた生ぬるい目で彼を眺めることになるのだが。
「はあ………すき…………」
砂糖も恥じらい糖蜜になってしまいそうな甘さを含んだ言葉に対し、私はうんうんと頷きながらストレートの紅茶を口にする。砂糖など一匙も入っていないのに心做しか甘みを感じてしまうのは恐らく気の所為だろう。
いくら義兄様がハイスペックなラスボスの如き御人だからと言って、言葉ひとつで紅茶を甘くするだなんてそんなことはない、筈だ。たぶん。きっと。そこまで到達していたら流石に怖い。
「言語化出来ない言葉に便宜的なかたちを与えると……こうも違うんだね……」
「ああ~~分かる…推しを前にすると語彙力消し飛びますよねぇ……」
「控えめに言ってしんどい」
「義兄様も遂にしんどみを理解出来るようになったんですね…流石です……」
こんな具合に、砕け切った口調と気を抜いた姿を義妹である私の前に晒しているシュトロム=ドラクロワだが、これには深い訳が――なかった。
というか、むしろ原因は私の方にあると言っても良いだろう。
私こと、エクレール=ドラクロワには前世の記憶がある。
この世界ではなく、独特なサブカルチャーに一部の人間がちゃぷちゃぷ浸っていることに定評のある日本という島国で、女性として過ごした頃の記憶がある。
前世で言うところの異世界転生、或いは転生トリップのどちらかに該当する現象により、前世の記憶を保持した状態で、私はエクレール=ドラクロワとして今を生きているのだ。
そんな私と義兄様が幼い頃に初めて顔合わせをした際、私は前世のことを思い出し、そして義兄様もまた、前世のことを思い出した。
「かつて天災の化身として恐れられていた邪竜レヴィアスが、今では推しに必死なオタクの言動してるだなんて、誰も想像しないでしょうねえ……」
邪竜レヴィアス。
遥か昔に猛威を振るい、世界を恐怖と災禍に陥れたとされる天災の如き邪竜。この世界の歴史を紐解けば必ず名前が挙がり、その凶悪な爪痕を否応なく見せ付けられる史上最悪にして歴代最強の竜。
そんな伝説の災害の象徴たる邪竜が我が義兄の前世だと聞かされたのは、出会ったその日に開かれた兄妹の親睦を深める為のお茶会だった。
私は当時、その言葉にただただ、「なるほどね」と納得して頷くより他になかったし、驚くことも出来なかった。それ程までに、幼いながらも圧倒的な存在感と威圧感を放っていたのである。彼が魔王であると公言していても、私は疑うことなく信じただろう。
私のしみじみとした言葉に、「やめてくれ」と義兄様は眉根を寄せて嫌そうな顔をする。
「僕は世界を壊そうとか、無闇に人々を害そうとか、そんな気全然なかったんだよ?」
「過ぎたる力は畏怖の対象ですからね……脅威を排除したがるのは群れを成す者のサガみたいなものですし」
「ちょっと邪魔だなあと思ったものをぷちっと潰しただけであんなに群がって来るとは思ってなかったんだよね、いや本当に。吃驚して焼き払ったら更に湧いて出てくるし、人間って気持ち悪いなーって思ってるうちに首落とされて死んじゃった時は流石に困惑しちゃったけど」
「清々しいほどに人外思考まっしぐら、流石は邪竜様ですね」
「無知は罪だと身をもって知ったよ、いい経験だったな」
うんうんと感慨深そうに頷く姿は、見た目も中身も完全にラスボス様である。
中身は温厚で懐が広い、私にとって理想とも言うべき兄気質だけど、前世の振る舞いが無自覚系大災害かつ真っ当過ぎる程の人外的思考によって齎された紛れもない真実だというのは、ほんの少しだけ複雑な心境で受け入れている。
「まあ、それはそれ、これはこれ。前回の僕は愚かで不出来な邪竜レヴィアスだったけど、今世の僕は完璧で幸福な黒龍シュトロムだからね。同じ轍は踏まないさ」
美しい白銀の髪をさらりと掻き上げて得意げに笑った義兄様は、何処ぞのテーブルトークRPGの定型句染みた台詞を口にする。
そう、義兄様は養子として我が家に引き取られた為、ドラクロワ家に宿る光竜の血を引いていないのだ。
私の両親の朋友である、黒龍の血を受け継ぐ夫妻の忘れ形見である彼には、黒龍としての性質が色濃く受け継がれている――筈なのだが、濃灰髪を有する黒龍筋とは似ても似つかない容姿をしている。銀髪金眼の彼は、黙っていようといなくとも、光竜筋の人間にしか見えなかった。
こんな黒龍筋いてたまるか、とは親類一同の心からの叫びである。私としては、こんなオタク語録大活用な龍がいてたまるかという話なのだけど、目の前にいるのでしょうがない。
原因は私だけど。不可抗力だからしょうがないのだ。
「ふふふ、義兄様が想像以上にネットスラングとオタク語録を会得し活用しているのがシュール過ぎて笑うしかないですね」
「この妹にしてこの義兄ありというやつだろう。エル、君には本当に感謝しているよ」
「こちらこそ、前世のことを思い出させてくださってありがとうございます、義兄様」
にこにこと微笑み合う姿は絵に描いたかのような美しい兄妹の姿、だと良いなあ。中身は史上最悪の邪竜とオタクな日本人の生まれ変わりというちぐはぐ過ぎる組み合わせだけど。
――義兄様と接触したのが原因で蘇った記憶。それこそが、シュトロム=ドラクロワの言動に多大なる影響を与えているのであった。
義兄様が最初に接触したこの世界の存在とは異なる存在、もとい異物である私に対して、(コイツは変だな)という違和感を抱いたことが引鉄となり、彼は前世を思い出した。
その際に私の魂に少なからず影響を受け、興味を持ったところまでは良しとしよう。
『ねえ、「オシガシンドイ」ってなに?』
その流れのまま、魂の内側を覗き込まれて前世の私の知識や価値観を学習するという所業を出会い頭にかまされた挙句、開口一番に「推しがしんどい」とは何たるかを問われた当時6歳の私の心境を述べよ。
彼の言葉を耳にした私の行動は早かった。
たとえ前世の記憶の奔流に襲われて混乱している状況であっても、身バレからの死亡フラグという言葉の重大さくらいは理解していた。
よって、アンサーは、「自室で人払いを済ませてからのお茶会」である。
親睦を深めたいから誰も入ってこないでねと両親や使用人達に念押しして、『「推しがしんどい」とは何たるかを説くので他言無用でお願いします』と義兄様に頼み込み、彼に強固な防音魔法と防壁魔法を張り巡らせてもらい、そこで懇切丁寧に腹を割ってがっつり話し合った。
自分がどういうものなのか、彼が一体何なのか、これからどうするべきなのか。
話し合った結果、現在のフランクで仲の良い兄妹関係をこれまで保ち続けている。
いや、より正確に言うならば、ここ最近になって義兄様の心境変化によってその関係性はほんの少しだけ変化しつつある。兄妹というよりも、人間歴とオタク歴の長さに応じた、相談者とアドバイザーに近付いているのだ。
「義兄様の推しが、かのスフォリア=ブランシュ侯爵令嬢とは驚きましたけれど。このままだと本当に「邪竜の花嫁」になりそうですね?」
邪竜の花嫁という異称で知られる、半神の血を引くブランシュ侯爵家の令嬢・スフォリア=ブランシュ様は、この世界では大変珍しい黒髪を有する人間である。
義兄様と並び立つと大層絵になる怜悧で美しい令嬢だ、と思われる。私は実際にお目に掛かったことがないので断言は出来ないけれど、義兄様が言うのだから間違いはないだろう。義兄様の審美眼は下手をすると私よりも厳しいのである。
黒髪の人間は邪竜の象徴かつ再来とされ、不吉なものであると倦厭ないし敬遠される傾向があるこの国では、彼女はだいぶ肩身が狭い思いをしている。滅多に人前に顔を出すことはなく、話題に挙げることも避けられるという徹底振りだ。
王侯貴族の大半がスフォリア様を腫れ物扱いしている中、運良く彼女の姿を垣間見た義兄様は、このように、推しに狂ったクラスタと成り果てた。一目惚れかつ推し認定。これが他の貴族だったならばまだしも、邪竜の生まれ変わりであるシュトロム=ドラクロワであるというのがなかなかに皮肉で、運命的とも言える。
竜種の血を引く者というのは基本的に気まぐれなのだが、一度興味を持ち、執着したものには異常な程心を傾ける。
言い方は悪いけれど、それこそまさに、推しという概念を知り金銭感覚を地獄の釜に投げ入れてしまったタイプのオタクのような……自分の生活を切り詰めて追い詰めることに抵抗のない、人生と金銭と時間を推しに捧げるオタクと見紛う程の執心具合なのだ。
目の前の義兄様とか、まさにそれだった。完全一致も良いところである。
「僕はものすごく複雑なんだけどね? あれ蔑称みたいで嫌なんだけど、邪竜の花嫁ってそのまま額面通りなら僕の花嫁だろう? 他人から「邪竜の花嫁」と呼ばれているスフォリア嬢……滾る状況だよな……」
「そういうポジティブさは義兄様の長所ですよね。私も見習いたいです」
ポジティブというか図太い。本当に、したたかだ。
蔑称に等しいと分かっていながらも、浸透している呼称に対して別の解釈を見出して萌え滾る自分を抑えられない。
うん、わかる。めちゃくちゃ分かるんだよなあ。
そこに痺れないけど憧れはする。ここまで振り切れて言い切れてしまうところは、贔屓目なしに凄いと思うのだ。
「あの美しく幾重にも色を重ねた黒髪は前の僕の鱗よりも断然綺麗なんだよ……いっそ邪竜の支配者とか邪竜の主人とか呼ぶべきだと思うんだけど、エルはどう思う?」
「ごくごく自然にご自分を隷属対象として選んでいる義兄様の思考に完敗ですね」
「スフォリア嬢に支配されるなら本望だからね」
「似たような台詞を先程聴きましたが敢えて言いましょう、わかるそれな? 推しに傅く奴隷になれるなんてご褒美にも程がある……」
「本当にそれな? ああ、お布施をしたい……スフォリア嬢の生活をより良きものにしたい……生まれ落ちてくれたことに感謝する為に毎月税を納めさせてほしい……」
「ああ……それに関しては残念ですね。スフォリア様は我が家よりも格上の侯爵令嬢ですし、経済状況にも支障がないですから、叶わぬ夢ですよね」
「現実がこれほど憎いと感じたことは今までなかった……推し……恐ろしい子……はぁ、好き……」
「ふふふ、格上の侯爵家にド直球で婚約申し込みに行った方の台詞とは到底思えませんよ、義兄様」
「快く頷いてもらえて良かった……日頃の行いがこんな形で功を奏すとは……生きててよかった……」
「今世で長く生きる為に世界を支配しようと画策していた方の台詞としては皮肉が過ぎますね? それで結局、ブランシュ侯爵のことは揺すらなかったんですか?」
「揺するまでもなかったからね。侯爵は、あれでいてスフォリア嬢を気にかけていたから。推しを大切にする同担は歓迎だよ」
「うわあ、身も蓋もない言い方……」
苦笑しながら、いい加減温くなり始めているであろう紅茶を義兄様にそっと勧めると、漸く思い出したとばかりにカップを手にして優雅に口にする。
うーん、実に絵になる。先程まで推しがしんどい芸人をしていたとは到底思えない。
「けれど義兄様、まだまだ始まったばかりです」
「僕たちの戦いはまだまだこれからだ、だっけ? 分かっているさ、身辺整理も意識改革も環境整備も抜かりなく進めていくよ」
「ええ、勿論。それはそれとして、義兄様。スフォリア義姉様と気兼ねなくお喋り出来るようにならないと」
「うっ」
「余所行き用の顔ばかり見せて萎縮させてしまったら元も子もありませんからね?」
「ぐっ」
唐突に胸を押さえて苦しみ始めた義兄様に、もしかして元祖ツンデレか、はたまた勘違いされキャラ的振る舞いをしているのではないか、と一抹の不安を覚えながら、私は更に畳み掛ける。
「いくら推しに醜態を晒したくないと言っても、婚約して夫婦となるのですから、義姉様に悲しい思いを味わわせないよう、努めていきましょうね」
「……がんばる…」
力なく項垂れるラスボス系義兄様に微笑みながら、私はにっこりと微笑んだ。
さてさて、楽しくなってまいりました。
推しに必死なラスボスの如き青年と、佳人薄命系貴族令嬢の色恋沙汰。まるで恋愛小説や夢小説的展開のようで、見聞きしている私としては大変心踊る状況だ。
私、エクレール=ドラクロワ。
前世では雑食性オタクでソーシャルゲーム課金兵として日々を楽しく過ごしていましたが、何を隠そう、メインCPの仲を取り持ち祝福するタイプのモブやサブキャラが登場する創作が大好物でした。夢小説や夢創作の類をメインに二次創作を美味しくいただいていた民です。
夢小説の夢主人公ちゃんと御相手がじれじれしているところに、手を差し伸べてくれたり梃入れしてくれる既存キャラとか、めちゃくちゃ推せる。そこにどちらかへの恋愛感情ではなく、心からの友情や配慮や親切心があると、もう最高以外の何物でもない。推す以外の選択肢がない。
当て馬としてではなく、CPの背中を押して祝福するという誉ある役目を全うする推しキャラの在り方や奔走を見るのが好きなのである。もはや性癖と言っても良いかもしれない。
まあ、この世界は異世界とはいえ紛うことなく現実で、架空の創作という訳ではない。
義兄様やスフォリア様がいくら物語の登場人物のような設定盛り盛りな方々であっても、流石に妄想と現実の区別は付いている。
そもそも今の私の立場、前世で言うところの推しポジションだし。自分に対して、「こいつ……推せる……!」と言える程、自己愛を拗らせてはいないので。
しかしながら、それはそれ、これはこれ。
尊敬する兄であり、気の知れた友人のような間柄でもあるシュトロム=ドラクロワを、このようなかたちで応援することが出来るというのは、本当に嬉しくて楽しくて、たまらなかった。
だから、義兄様。
「応援しています、ロム義兄様」
あなた方の幸せを、私は全力で推していきます。
雑な登場人物紹介
シュトロム=ドラクロワ
銀髪金眼のラスボス系義兄様。推しがしんどい。
エクレール=ドラクロワ
異世界転生系妹。義兄様とその推しの仲を応援している。
スフォリア=ブランシュ
黒髪の侯爵令嬢。義兄様の推し。邪竜の花嫁。