公爵令嬢のエピローグ
わたくしマリーナ・パルミエールは婚約破棄されたあと社交界では傷物だと蔑まれながら学院を卒業しましたわ。
本当に分かっていたこととは言え、この二年ほどは憂鬱でした。
まぁ変わったことと言うならパルミエール公爵家を継がずに第一王子であるスティーブン様の側室になったことかしらね。
側室には婚約期間というものが必要ないので卒業した日に後宮に入りましたの。
パルミエール公爵家は二つ下のわたくしの弟が継ぐことになり安泰ですわ。
脳筋のお兄様は、わたくしが側室になると決まったときに自分が公爵家を継ぐのだと思っていたそうですが、もし継げるなら妹を跡継ぎにしないことくらい分かりそうですけどね。
弟は頭脳明晰で二つ下ながらスティーブン様の側近になれるのではないかと社交界では専らの噂ですの。
それにしても本当に大変でしたわよね。
まさか転生者と呼ばれる方がスティーブン様の世代にお生まれになるとは夢にも思っておりませんでしたわ。
それを知ったのは社交界デビューする直前でしたけどね。
ルーシーが占いによって転生者が現れることを導きださなければ我が国は終わっていました。
時折、生まれる転生者というのは、こことは違う世界で育ち、ある時期になると魂だけがやってくるというのですが解明はされていませんわ。
そして転生者の方は大半が貴族の庶子であることが決まっているので法律で庶子は必ず引き取り育てるのが義務となっていますの。
つまりは貴族の子として育てろというものです。
だから貴族のほとんどは平民を愛人にはしませんし、したとしても子どもができないように細心の注意を払うのですが、出来てしまうものは出来てしまいます。
転生者が現れると分かってから調べた結果、見つからなかったのですよ。
公爵家の情報網を使っても王家の情報網を使っても見つからず、これから生まれて来る子なのではないかと考えたときにブリズム公爵家にミモザ様が現れました。
これには驚きましたね。
そして庶子は必ず引き取らなくてはいけないという法律のもとミモザ様は公爵家の長女となり学院に通われた。
ただ、公爵は一度も娘であるとは明言されていないのですよね。
ミモザ様が公爵家の紋章入りのカフスを持っていたというだけで後は騒動を知った周りの目を気にしたというだけのこと。
当然ですわよね。
ブリズム公爵自身は幼い頃の高熱が原因で子どもを作れないのですからね。
奥様もご存じですから愛人が何人いようと庶子が生まれる可能性はゼロなんですよ。
そんなところに貴方の娘よと来たところでありえないのですが、貴族には醜聞を避ける習性がありますから上手く利用されてしまいましたね。
学院に来たミモザ様は貴族令嬢としてのマナーがないのは仕方のないこととしても多くの高位貴族の令息と仲良くなろうとしていましたので、転生者であることは確信いたしました。
その中でもわたくしの婚約者であったエチャード様が大のお気に入りのようで四六時中つきまとっていましたわ。
転生者は高位貴族と恋仲になりたがる人が多いので驚くことでもなかったですが、分かりやすいのはありがたかったですわね。
お望み通りにエチャード様と婚約し、卒業と同時に結婚したというのに何が不満なのでしょう。
学院では言動から多くの令嬢から疎まれており、一か月しか通っていないのに苛めのようなものもありましたし、退学にしろという声もありましたのよ。
そこをわたくしを始め第一王子殿下の口添えで待ったをかけて望み通りにしてあげたというのに。
働かずに家で夫の帰りを待つのが夢だと言うからその通りの生活を約束しましたのに。
いったい何が不満だというのでしょう。
エチャード様は結婚して軍に所属されましたから参加する社交界は学生時代に比べても少なくなりましたが、体を動かすのが嫌いだと言っていたので、ダンスを踊らなくてもいいのは嬉しいことではないのですかね。
空気がきれいなところに住みたいと言うので、ブリズム公爵家の領地の中でも緑に囲まれた土地に家を建てましたのに。
朝は小鳥の囀りで目を覚ますなど優雅なことではありませんか。
いったい何が不満だというのでしょう。
エチャード様に愛されていないと嘆いているようですが、お望みは全て叶えてくださっているではありませんか。
ミモザ様が婚約破棄を宣言して欲しいと言えば、ガーデンパーティで発表し。
ミモザ様が婚約をしたと宣言して欲しいと言えば、ガーデンパーティで発表し。
ミモザ様が学院は最後まで通いたいと言えば、卒業に必要な単位を購入し。
ミモザ様が結婚式をしたいと言えば、教会を貸し切って式を挙げましたし。
ひとつひとつ挙げれば数えきれないほどの願いを叶えてくださっているというのに、愛されていないと思えるのは流石ミモザ様ですわね。
もう人妻になってしまったミモザ様にまだ懸想している人はいますのよ。
第二王子殿下のアンソニー様ですわ。
何でもミモザ様が忘れられなくて月の半分はミモザ様のところへ通うのに城を開けているそうですわ。
それでもミモザ様はアンソニー様のことを友人として見ているそうですけれどもね。




