第二王子のモノローグ
俺はアンソニー・アルスランで国王である父上の息子だ。
一つ上には母違いの兄がいるが堅物でいつも小言ばかり言っている。
あれでは家臣の心は離れてしまい暴君に成り果て愚かなる王として歴史書に名を残してしまうから廃嫡した方がいいと何度も母上に言っているのに分かってもらえない。
それどころか頭の出来は第一王子殿下に劣るのだから勉強しろと言ってくる。
あんなのが殿下と言われているようでは王族が嘗められてしまうではないか。
あんな無能が王族として権力を持っていれば国は終わってしまう。
だから無能な兄上から権力を剥奪するために身分制度を廃止した方が良いと再三に渡って教育係に言ってやっているのに理解されない。
こんな簡単なことが分からないような教育係から学ぶことなど何一つとしてない。
俺はこの国をもっと良いものにしようと考えているのに上位貴族の奴らは皆そろって甘い汁を吸わせてくれる兄上の味方をしている。
この国の未来を本当に考えているのは下位貴族ばかりだ。
それに貴族としての教育を受けていないはずのミモザも分かってくれた。
平民ですら分かることが国の上に立つ者に分からないとは本当にこの国は終わっている。
ミモザとなら良き王と良き王妃として国を盛り立てていけると思っていたのだが、婚約者になって欲しいと何度も言うのに首を縦に振ってくれない。
いつも半分は平民だからと卑下するようなことを言って断る。
立派な志があれば血の貴賤など関係ないというのに、だがそんな奥ゆかしいところがミモザだ。
絶対に婚約者にすると父上にも懇願したというのに認めてくださらない。
ミモザのことを知らないから反対しているのだと俺は何度も彼女を城に招いた。
彼女自身から話を聞けば父上もきっと分かってくれると思っていた。
ちゃんと事前に父上にミモザを連れて訪問するから時間を空けて欲しいと手紙を送っていたのに、いつも仕事が忙しいと断られた。
父上がそんな分からず屋だとは思わなかったが、もっと分からず屋だったのは兄上だ。
いつの間にか父上の近衛兵にまで指示を出してミモザの登城を阻んだ。
何でも兄上の婚約者の令嬢に失礼を働いたからとか何とか言っていたが、社交界でも見たことがない令嬢だったから下位貴族なのだと思う。
そんな令嬢よりもミモザは公爵令嬢なのだから失礼も何もないと思うが、黙っていないと小言が増える。
噂では隣国の姫だとか言っていたが、それは結婚を認めて欲しい兄上がでっち上げた嘘だと分かっている。
父上もそんな嘘に騙されるなど国王としてどうかと思うが、きっと兄上が可愛くて仕方ないんだ。
どこの家も一番上は無条件で可愛がられるというから甘んじて受けてやろう。
第一王子だからというだけでガーデンパーティの主催者になったようだが、これもきっと父上が為政者としての気分を味合わせてやろうという心遣いなのだ。
だから俺も顔を立てて出席したのだが、幼馴染でもあるエチャードとマリーナが婚約破棄することになった。
マリーナは見た目は美しいが性根は腐っているから妻にしたいとは思っていなかったが、我慢強いエチャードでも駄目だったなら仕方ない。
それはそうだろう。
同じ公爵家であり、同じ公爵令嬢であるミモザを庶子であるからと虐めるような女は婚約破棄されて当然だ。
ミモザも可哀想に教科書を隠されたり亡き母上の形見を盗まれたりと随分と悲惨な目にあっている。
俺の婚約者にして守ってやりたいがミモザの心はエチャードにあるようだ。
きっと令嬢としての風下にも置けないマリーナに虐められたミモザがエチャードの優しさに絆されてしまったのだろう。
今は心が疲れているだろうからエチャードに譲ってやるがミモザに求婚していたのは俺が先だ。
王族を差し置いて婚約するなど本来なら言語道断なのだが、無能な兄上が承諾したところで正式ではない。
あとで父上に言って取り成してもらおう。
ミモザは奥ゆかしいから照れているだけなんだ。
エチャードにもしっかりと釘を刺しておかないといけないな。
それにしてもいつもながらあの伯爵家如きが喧しいな。
それを咎めない兄上も兄上だが、あの女の家の者はどういう教育をしているのだ?
王族に楯突くなどありえん。
俺は優しいからあの女が心を入れ替えたというなら愛人にでもしてやろうと言うのに。




