伯爵令嬢のモノローグ
わたくしはマジョリデ伯爵家の次女のルーシーよ。
まぁ言葉遣いは伯爵令嬢らしくないけど家の歴史で言えば建国からあるから王家も無視できないのよね。
だってそうでしょう?
わたくしの家は代々魔女を生み出し、国にとって有益な情報を提供してきたんだもの。
無くてはならない重要な家というのが我が伯爵家よ。
家というより血筋かしら?
占いによって国の危機を知らせたり貴族間の権力図を変えてみたりとあくどいことを平気でしてきたから国としてはアキレス腱かしらね。
そんな家が伯爵家止まりというのも意味があるのよ。
上位貴族である公爵家、侯爵家、そして伯爵家。
下位貴族の子爵家、男爵家。
この階級への差は大きいのよ。
下位貴族は上位貴族に許可が無ければ話しかけられないし、夜会だって一緒にはしないわ。
でも伯爵家ならその辺りを曖昧に動けるから都合が良いのよ。
だから公爵家のマリーナ様と友人であってもおかしくないし、家の歴史で言えばパルミエール公爵家と同じだもの。
友人としてマリーナ様に良からぬ火の粉がかかるなら全力で振り払うわ。
さすがに魔女と言っても呪いをかけられる訳ではないから悔しいところだけどね。
確かにブリズム公爵家はパルミエール公爵家に匹敵するほど長い歴史を持ってるけど、庶子と思われる令嬢に糾弾される謂れは無いわね。
さっきから教科書を隠されたとか母の形見のネックレスを盗まれたとか言ってるけど、出来るわけ無いじゃない。
いくらエチャード様がミモザ様の味方をしてるからって信じる人はいないわよ。
ほら、エチャード様ですら勘違いだって言ってるのに呆れて物も言えないわ。
そんな嘘泣きしたって誰も落ちないわよ。
あぁ、第二王子殿下は信じちゃってるかな?
だいたい社交界デビューしてる年齢の者が泣いたって同情も買えないんだから止めて欲しいわ。
魔女と言っても未来視が出来た聖女様とは違うんだから混同しないで欲しいんだけど、あのミモザ様に言っても伝わらなさそう。
それに当代の聖女様は未来視はできるけど自分の欲望に忠実な方だから当てにできないのよね。
あぁ話が逸れたわね。
そうそう魔女であるこのルーシーがミモザ様の未来を視て邪魔して回ったって言ってるのよ。
そんなことして何の得になると言うのよ。
寝言は寝てから言って欲しいものだわ。
あぁ第二王子殿下に慰められて退出したわね。
それにしてもエチャード様との婚約で満足してれば良いのに第二王子殿下にまで粉かけるとは身の程知らずも良いとこだわ。
まぁ出自から考えれば第二王子殿下の既婚者愛人にはなれるでしょうね。
愛人にしたいけど、生まれた子どもに継承権が発生して欲しくない場合に使われる手法で、子どもは女性の家の子として扱われるので間違っても王族ではないのよ。
そのことを分かってミモザ様は第二王子殿下とも関係しているのかは分からないけど問題が起きることは間違いなさそうね。
それにしても本当に図々しい女だこと。
最後の最後まで第一王子殿下にまで意味ありげな視線を送るなんてねえ。
この世の男は全員、自分のことを愛してくれるとでも思ってるのかしらね。
そうだとしたら随分とおめでたい頭をしているけど、思い通りに行くのかしら。
魔女は別に占いだけを生業にしているのではないのよ。
あくまで魔女が生まれる家系というだけで普段はきちんと伯爵家としての役目を果たしているわ。
だから上位貴族と下位貴族のどちらにも顔が効くマジョリデ伯爵家を敵に回して無事だと思わないで欲しいわ。
別にブリズム公爵家に何かするつもりはないわよ。
あくまでもミモザ様個人にというだけのこと。
このルーシー・マジョリデを怒らせたのだから相応のことは覚悟してもらわないとね。
あら嫌だ。
思わず笑みが出てしまっていたようね。
第一王子殿下から呆れたような目を向けられてしまったわ。
失礼しちゃうわね。
あまり会えない婚約者様と上手く行くようにってまじないをかけてあげたこと忘れたのかしら。
それにしても本当に聖女様はご自分の欲望に忠実だこと。
護衛もなしに学院に突然来て第一王子殿下に会いたいから来ただなんて子どもでもしないわ。
機嫌を損ねて未来視をしないと言われたら王家でも強く出られないから仕方ないのかもしれないけど手綱くらいは握っていて欲しいわね。
だってそうでしょう。
自分は聖女だからって魔女を汚らわしい詐欺師だって言うのよ。
聖女様のいらっしゃった国では魔女は弾劾される存在で火あぶりするのが国を守るために必要だって声高々に謳うものだから賛同する貴族まで出て来ているのよね。
いつも顔を合わせる度に言われるから慣れてしまったけど、今日は言い返されて泣いても庇ってくれる第二王子殿下はいないのよ。
さっきミモザ様について行ってしまわれたからね。
あらあら何も言わないうちに勝手に泣き出してしまわれたけど、これはわたくしが悪いのかしら?
魔女がいることで国が滅びないかどうかを憂いているようだけど、それなら未来視をすればいいだけのことでしょう。
生憎、今ここに残っている貴族は第一王子殿下の派閥の者で自分の欲望に忠実な聖女様をあまり歓迎していない者たちの集まりなのよ。
誰も泣いている貴女にハンカチを差し出してはくれないわ。
だって第一王子殿下に至っては紅茶の染みを拭いた布巾を渡そうとしているのだもの。




