公爵令息のモノローグ
俺はモテニュー公爵家の三男のエチャードだ。
公爵家と言っても家を継ぐのは長男だし、優良貴族として同じ公爵家に婿入りできるのは次男までだ。
三男以下は爵位が下の家に婿入りするか軍属所属になって国のために働くかの二択だ。
それが俺は同じ公爵家のパルミエール家に婿入りできることになった。
それは三男という立場から考えれば有り得ないくらいの好待遇だし代わって欲しいと言う奴がいるくらいだ。
だが婿入りとなれば肩身の狭い思いをしながら義両親の顔色を窺いながら生活し生きて行く。
義両親が無くなれば妻の顔色を窺って生きて行く。
そんな惨めな生活は死んでもごめんだと思っていた頃に出会ってしまった。
公爵家の庶子だと思われるというあやふやな立場で編入して来たミモザに会い、俺は彼女しかないと確信した。
貴族令嬢にはない感情豊かな言動に俺は心惹かれた。
だが同じ公爵家と言っても向こうは跡取り令嬢でこっちは三男だから婚約破棄を申し出ても受け入れてはもらえない。
何としてでも彼女を・・・ミモザを手に入れるためには既成事実を作るしかない。
そのために選んだのは第一王子主催のガーデンパーティだ。
妹が流行っていると見せてくれた本には平民だと思っていた女の子が貴族の令嬢だと分かり、悪役令嬢の虐めに耐えて王子様と結ばれるという話だった。
悪役令嬢は婚約破棄を卒業式で告げられるということだが、そんなときまで待っていられない。
一つ上の第一王子は卒業と同時に婚約者である隣国の姫と結婚することが決まっている。
その年は式典も多いため他の貴族は婚約や結婚という祝い事を延期する風潮にある。
王族の結婚という目出度い年に婚約の破棄や撤回などはご法度だ。
だから破棄できるのは今年しかない。
俺たちも卒業と同時に結婚が決まっているから時間がない。
幸いにしてミモザも俺のことを気に入っているし、父親に当たるブリズム公爵もミモザに当主の夫人が務まるとは思っていないようで表立って賛成はしていないが反対もしていない。
ミモザは育った環境が違うため学院の身分に関係なく平等という意味を勘違いしているようだが、そこも好ましい。
俺としては彼女と結婚し騎士として生計を立てて慎ましやかに過ごせれば良い。
それがマリーナとでは難しい。
第一王子のガーデンパーティで騒ぎを起こすのは貴族としては致命的だが騎士として軍に所属するならば問題ない。
どうせ軍に入るときに貴族籍を返上するため扱いは平民となる。
まぁ罪を犯しての平民ではないため便宜上貴族平民と呼ばれることになるが今は関係ない。
マリーナに婚約破棄を告げるも表情ひとつ変えることなく扇で口元を隠して一言「どうぞ」と言って来た。
貴族令嬢はみだりに感情を表に出してはいけないと言われているが恐ろしい女だ。
そんな貴族令嬢の見本とも言えるマリーナからミモザは虐められていたと相談されている。
だがマリーナに限って虐めなどという真似はしないのを俺は知っている。
もし本当にミモザを排除したいのなら一言退学を言い渡せばいいだけのことだ。
庶子として引き取られたブリズム公爵家では、ミモザを学院に入れるつもりはなく家庭教師をつけて学ばせるつもりだった。
それを学院に通いたいと熱烈に言い続けた結果、一か月だけの限定で通うことになった。
その期限が今日だ。
これを逃せばミモザに会うことは叶わなくなる。
いくら同じ公爵家であっても婚約者でもない未婚の令嬢に会いに行くことはできない。
ミモザが幼馴染であれば個室に二人きりという状況さえ避ければ黙認される。
ミモザとの縁を無くしたくないという思いからガーデンパーティを騒がしてしまったが第一王子殿下はご理解くださったようだ。
それに殿下はガーデンパーティを解散させたが貴族たちに箝口令は布いていない。
マリーナと・・・マリーナ嬢との婚約は破棄されてミモザとの婚約を結ぶことができた。
第一王子殿下が取り成してくださったのだからこれ以上騒ぎを大きくするのは得策ではない。
第二王子殿下がミモザを宥めているのは気に食わないが今は目的が達成されたことを喜ぶべきだろう。
寮生活であることが悔やまれる。
できることなら今すぐに卒業したらもらえる家に二人で帰りたいというのに。
これからまだ二年も婚約期間があるというのは拷問だ。
ミモザは平民として育った価値観からか男性との距離が近い。
本人はお友達だと言っているが不安しかない。
だが卒業したらすぐに籍を入れるため他の者に取られる心配もない。
愛人など作ることができないようにしっかりと監視するつもりだからな。
問題は公爵家より上の身分である第二王子殿下だ。
今もミモザの手と腰を取り、まるで婚約者気取りだ。
第二王子殿下に婚約者がいないことが原因としか考えられない。
第一王子殿下に婚約者を決めるように言っておかねばならないな。




