第二王子のエピローグ
ゆくゆくは国を統べるアンソニー・アルスランであるこの私がどうして処罰を受けなければいけないのか。
父上は王妃に誑かされているのだ。
そして、兄上もその悪女に育てられたせいで洗脳されているに違いない。
母上も側室ではあるが、王の子を産んだのだから堂々とすればいいものをどうして夜会などに参加されないのか。
甚だ疑問だ。
王族は民のためにあるものだが、その民が困っているのに手を貸さないというのは人として終わっている。
公爵家の子であるのに庶子だからと下に見られているなど論外だ。
だから私は王家の者としての威厳と見本を見せるためにミモザに手を差し伸べてやった。
学内で困らないようにダンス授業にはドレスを贈り、音楽の授業のときには事前にピアノを貸し切ってやった。
将来の王妃となるものはミモザのような心を持っているのが好ましい。
幸いにも私には婚約者はいないからミモザと結婚することに何ら障害はない。
告白したが奥ゆかしいミモザは辞退してきた。
なんとも言えない愛おしさがあった。
何でも公爵家であっても平民だったから上流階級の人と話すマナーが身についていないという理由らしい。
そんなもの私がどうにでもしてやるというのにミモザはエチャードの求愛を受けた。
婚約者持ちの三男のどこがいいのか分からないが、ミモザは好きなようだ。
心から愛しているからこそ相手の幸せも願わなければいけない。
それに王族ならば既婚者愛人を持つことができる。
さらに私が独身ならば生まれた子を我が子と認知してやれば王家としての教育を受けられる。
卒業までの間はエチャードといたいというミモザの願いで距離を置いていたが、卒業したのなら問題ない。
エチャードのやつが最愛の妻を取られるのが嫌で辺境の地に新居を構えたのは少し予想外だった。
王城に近ければミモザとも毎日会えたのに惜しいことした。
こんなことになるのなら新居を結婚祝いに贈ってやるのだった。
王都から遠いせいでエチャードは家にも帰らずにミモザを一人にさせている。
話し相手の令嬢を常駐させることもなく、だ。
ミモザのことを思うなら馬車で通えばいいのだ。
何が王家を守る剣となりたいだ。
女一人守れずに国を守るなど大それたことを言うな。
いつも私が行くと一人で寂しいからエチャードに帰って来て欲しいと伝えてと言われる。
ミモザのために私は滞在して、王都の話を聞かせる。
話題のほとんどはエチャードか兄上のことで、学校に通っていたときのように会いたいと願っていた。
文を出しても返事がなく、周りの領地の令嬢たちにお茶会の招待状を送っても断られると嘆いていた。
ミモザのために王都でお茶会を開くことを約束して泣く泣く王都へ戻る。
ずっと一緒にいるためには伴侶となるのが一番なのだが今はミモザは既婚者だ。
ミモザのためにエチャードと離婚させて、私と結婚させようと思う。
そうすれば辺境の地で一人で寂しい思いをしなくて済む。
愛しい人の幸せを願うのは当然だが、未来の幸せよりも今の幸せを大切にすべきだ。
そしてエチャードはミモザを悲しませて幸せにできていない。
今のミモザを救えるのは私しかいないのだ。
ただ一つ気がかりなのは聖女様のことだ。
国民の平和を願い、神に祈りを捧げるのが勤めだとしても教会から出られないというのは可哀想だ。
きっとあの美しさに目が眩んだ聖職者どもが言いくるめて監禁しているに違いない。
権力というものは弱者を救うためにあるのだ。
父上も兄上も理解していない。
私が救ってやらねばいけない。