第一王子のエピローグ
第一王子として最終学年の責任者としての責務は果たせたと思う。
何とか悪夢のようなガーデンパーティが終わった。
確かに話を聞いたときには、マリーナとエチャードの婚約破棄の茶番劇を認めた。
認めたが、何も婚約発表まで終わらせなくてもいいだろうが。
政略結婚であったとしても婚約が破棄となった場合は互いに数か月の空白期間を設けて次を発表する。
その慣習をぶち壊した挙句の果てに発表とは、本当にどうして私の代の貴族にはどうしようもない者しかいないのだ。
今回のガーデンパーティに関しては、一枚噛んでいるから完全に周りのせいとは言い切れない。
だが、この騒動を治めなければいけないというのにマリーナの兄はどうして脳筋なんだ。
ありもしない当主代行権限を振りかざしてマリーナを修道院送りにしようとしたぞ。
次期当主権限というものならマリーナは持っているが、あの兄が裁量権を持っているはずない。
いや持っているか持っていないかすら判断できないから長男であるのに次期当主と指名されなかったのだと理解して欲しい。
マリーナは私の側室となることが内々に決まっている。
そして、次期公爵としては次男が選ばれた。
優秀過ぎるが故に扱いづらいのだが脳筋よりはマシだ。
だが本当に頭が痛い。
あれだけガーデンパーティでエチャードのことが好きだと愛してるだと言っていたのに、どう心変わりをしたんだ。
元々アンソニーとも仲良くしているようだったが何故、私にまで声をかける。
いくら身分が公爵令嬢だとしても幼い頃より王家の人間との付き合い方を学んでいない者と二人きりになどなれるわけないだろう。
ガーデンテラスか護衛付きの応接室までだ。
婚約者でも無いのに二人きりなど論外なのだが、この正論を言ったところで理解してもらえない。
懇切丁寧に教えたというのに、どうして校舎裏に誘う?
人気のなさナンバーワンとも言える東屋に誘う?
しかも断ったら私のことが嫌いなんですねって泣く。
伴侶を愛することはあるだろうし、王家が認めた友人たちとは友情を深めることはある。
だが、特別贔屓にすることは貴族間のパワーバランスを歪めることになるから避けているというのに。
救いと言えばエチャードが卒業と同時に結婚し、郊外に新居を構えてくれたことだな。
まぁ足繁くアンソニーが通っているようだが、あれは人妻だからという珍しさだろう。
だが、そんなに好きなら数年後には結婚させてやろう。
エチャードが欲しいのは貴族籍から抜けて騎士として叙勲を立てることだ。
離婚したところでモテニュー家に戻ることはないだろうし、そのころにはマリーナにも子どもがいるだろうから褒美代わりに妻にさせられることもないだろうしな。
王家の人間が恋愛結婚をしてはいけないという法律はない。
ただ国を背負う以上はできないというだけのことだ。
そう考えるとアンソニーは恵まれてるな。
王族としての責務も何もかも投げ出して愛する女と添い遂げられるのだから。
私も婚約者を愛していないわけではないし、マリーナのことは他の側室よりは好きだ。
ただ愛情が先立った結婚ではないだけのことだ。
一応、兄として思うのは月の半分を既婚者愛人のところに入り浸っていることを父上が気づいていないわけがないと忠告したい。
今のところは黙認されてるが、子どもができれば除籍されるぞ。
それが分かっているからエチャードは二人が飲むお茶に避妊薬を混ぜている。
あの家にはルーシーの手の者がいるから簡単だろう。
いやはやマジョリデ家だけは敵にしたくないな。
だが、本当に困るのは聖女様だな。
教会の奥で祈りを捧げ、国の安寧を願うはずだというのに。
どうして簡単に外に出ているのか。
しかも外に何人も愛人がいるというではないか。
身分を隠しての逢瀬らしいので、相手の男に聖女だということに気づけというのは酷というものだ。
聖女の顔を知っているのは教会関係者だけというのが習わしなのだから。
王家であっても知らないはずなのだが、外出好きの聖女様のせいで知ってしまった。
本当にどうして私の代には面倒な人間が多いのだろうか。
婚約者も留学と言って戻って来ないし、本当にどうにかして欲しい。




