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異世界転移していたらしい僕の執事ライフ  作者: marron
村の一員になりたい
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 布を作ってもらえることが決まりほっとしたけれど、いつできるだろうか。布は10日くらいでできても、そのあと仕立てなきゃならないはずだ。

「あの、いつくらいに、できますか?」

「そうねえ」ハタさんは少し考えて「1年後くらいかしら」と答えた。

 1年も!? なぜそんなに時間がかかる? 10日くらいって言ったじゃないか。いや、そういう文化なのかもしれない。休日が多いとか、機を織る日が決まっているとか。年に一度しか機を織る日がないとかだったら、そりゃ1年待ちにもなりうる。

「もう少し早くなりませんか?」

「そうは言っても、ほかに注文がわんさか入っているのよ。ここは私しかいないし。だからノリーナが手伝いにきてくれたのかと思ったのに……」

 僕の考えは違っていた。そうなのか。一人しかいないのか。

 困ったな。でも仕方がないのかもしれない。この村では布は大切なもので、日本のように、古くなったり気に入らなかったら、すぐに新しいのが手に入るわけじゃないんだ。

「急ぐんだったら、あなた、ここで手伝いながら、自分で布を織ってみる?」

 いきなりハタさんが言った。

「え、僕が? 無理ですよ。そんなこと、やったことないですし」

「最初は手伝いで良いのよ。できることを手伝って、慣れてきたら自分の布を織れば良いじゃない。住み込んでくれれば労賃も出すわよ」

「ろうちん?」

「労働の報酬のことよ」

 ノリーナさんが教えてくれた。

 てことは。ここで住みこんで手伝いをすると、仕事としてお給料(たぶんというか、十中八九物)がもらえて、かつ、自分の布も早く織れるということ。それって良いことばっかりじゃないか。

「でもね、難しい仕事よ」ノリーナさんが言った。

「ノリーナ! そんなこと言っちゃダメよ。せっかくやる気になってるっぽいのに。ねえ、あなた、ノリーナも時々手伝ってくれるけれど、それは確かに難しいかもしれないけど、ほかにもたくさん仕事はあるの。一人でやるのは大変なのよ。ここはひとつ、私のことを助けると思って、あなたの布ができるまでの間だけで良いから、手伝ってくれないかしら、ね?」

 ハタさんの熱意もそうだけど、僕は早く布が欲しかった。

 いつまでもよそ者っぽい恰好でいるのは、なんとなく寂しいというか、そんな感じもあるし、やっぱり郷に入っては郷に従えじゃないけど、仲間入りしたいと思うんだ。それにいろんな条件も良い。

 一応、一度(ノム)さんのところに帰って相談して決めることにしたけれど、僕の心はほとんど決まっていた。


 爺さんの家に帰ると、さっそくその話をした。

 家の人たちも、大変な仕事だけど、ミツヒコが決めたならそれも良いと賛成してくれた。しかし……

「いやっ、ミツヒコ、行っちゃやだあー、うああああん」

 ノッチが泣いてしまった。

 そんなに僕のこと気に入ってなついてくれて、嬉しくないわけがない。

「ノッチ、あのね、僕はこの家にいられて本当に嬉しかった。だけど、自分でできることを知りたいんだ」

 本当は、いつまでも世話になっているわけにはいかないって言いたいんだけど、どう言ったらいいのか言葉がわからなくて、こんな言い方になってしまった。ちゃんと僕の気持ちが伝わっていると良いんだけど。

「いやだあ。ミツヒコは、かぞくだもん。ミツヒコは、お兄ちゃんだもん。うわああああん。行っちゃやだああー」

「ノッチ……」

 ノッチが泣くからもらい泣きをしたわけじゃない。

 ノッチが僕のことを、家族だって言ってくれたから、僕のことをお兄ちゃんだと思ってくれたから、僕は思わず涙が出てしまった。

 だって僕は、家族がいない。

 学生の頃に両親が死んでしまって、ずっと独りだった。

 もちろん友だちや、良い先生がそばにいたから、まったくの孤独ってわけじゃないけれど、だけど、家族がいないっていうのは、すごく、心細いことだ。それでも、ずっとやってきた。それが僕なんだって思っていたから。

 それに、ここは僕の知っている場所じゃない。僕はまったくのよそ者なのに。

 それなのに、ノッチは僕のことを本当の兄のように慕ってくれていたんだ。

「ノッチ。僕の可愛い妹」

 優しく抱きしめると、ノッチは小さな手で僕のことをギュっとしてくれた。柔らかくて温かい、ノッチの気持ちが流れ込んでくるようだ。

「ハタさんの家に行っても、僕は君のお兄ちゃんだよ。なるべく帰ってくるようにする。遊べるときは一緒に遊ぼう。ね? ノッチもハタさんのところに、遊びに来てくれるだろう?」

「うわああああん」

「僕がハタさんのところに行っても、僕はずっとノッチのお兄ちゃんだよ」

 ノッチは泣きながら、何度もうなずいた。

 きっと我慢して、それでもわかってくれて、僕のことを送り出そうとしてくれたんだ。本当にいい子だ。

 ノッチ、ありがとう。




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