表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/66

57


 ノムさんのところへ行くと、誰もが僕を見て驚いた。

「ミツヒコ!」

 そしてノッチが出てきて、駆け寄ってきた。

「ミツヒコー!」

「ノッチ! ああ、よかった。無事だった」

 つい嬉しくて、駆け寄ってきたノッチをギュっと抱きしめたら涙が出てきてしまった。だって、本当にすごく心配だったんだ。連れ去られた時も、助け出した時も、ずっと心配していた。僕が助け出されてここに来るまで、ずっと心配していたんだ、姿を見たら、なんだかホッとしすぎてしまった。

 周囲で「ミツヒコがいたぞー」と叫んでいる人がいる。

 ああそうか。ノッチが僕のことを知らせてくれたんだ。僕が荒れ地に残ったから、助けてって言ってくれたんだろう。それで村人たちがたいまつを持って集まって僕を探してくれるところだったに違いない。なんてことだ。僕のためにこんなにたくさんの人が集まってくれたなんて。

「ダチョウがノッチを連れてきてくれたのよ」

 ハタさんが僕に教えてくれた。そうだったんだ。ミドリは本当に賢いダチョウだ。ノッチはハタ屋で働いていることを覚えていたんだ。袋に入っているノッチのことを、ちゃんとハタ屋に届けてくれたなんてすごすぎる。

「ミツヒコ、ありがとう」

「いえ、僕も。ありがとうございます」

 ノッチの家族みんなにお礼を言われたけど、僕のほうこそこんなにたくさんの人に心配をしてもらって、お礼を言わなくちゃ。


 ノッチが戻り、僕も帰れて、ホッとして大団円。

 ということにはならなかった。

「待て、その男を渡せ!」

 村人の輪の外から、女の声が響いた。フィヨだ。追ってきたのか!

 村人たちのたいまつに照らされて、フィヨはまるで燃えているかのように見えた。小柄な女性なのに恐ろしく見える。

 村人たちは一斉に息をのみ、そして一歩ずつ退いた。

 やはりそうだ。村人たちは、砂漠の民をひどく恐れている。彼らのあの魔法のような何かが恐ろしいのだろう。もしかすると、僕が食らったあんなもんじゃなくて、もっと酷いこともできるのかもしれない。それどころか村人たちも“金の髪を持つ者”には手を出してはいけないと教えられているのかもしれない。僕が知らないだけで、砂漠の民というのは本当はとてもやっかいな種族なのだろうか。

「さあミツヒコ、こちらへ来い」

 フィヨの凛とした高い声が響く。

 村の人たちはゴクリと息を飲んで、本当にフィヨのことを恐れているという顔をして誰もしゃべらなかった。シンと静かになる異様な光景だ。

 ここで僕が、行かないと言ったらフィヨはどうするだろうか。僕にまたあの変な魔法をかけるだろうか。それとも、今まで村の人の家を焼いたように火を付けたりするのだろうか。僕だけのことだったら構わないと思うけれど、僕のために誰かの家が焼かれたり誰かが痛い思いをするのは嫌だ。下手なことを言うとどうなるかわからず、僕は返答に困った。

「早く来い!」

「フィヨ、あの、」

「早くしないとお前を打つ」

 打つというのは、やはりあの魔法だろう。スッと片腕を僕の方へ伸ばしたのを見て、村人たちがまた一歩下がった。仕方がない、ここは前に出ないと、村の人たちに危害が及ぶかもしれない。

 どうしようもなく、足を踏み出そうとした。だけど自分の足が思ったように動かない。だって行きたくないのだから。

 ここに来た時の僕だったら、僕が住むために受け入れてくれるのなら村だろうが砂漠だろうがどちらでもいとわなかったと思うけれど、今はこの村が僕の住むところだ。どこにも行きたくないんだ。

 ジリと出した足が、音を立てる。

 その時だ。

「ダメ! ミツヒコはノッチのお兄ちゃんだもん! 砂漠になんて行っちゃダメ!」

 ノッチの高い声が響いた。ノリーナさんが大慌てでノッチの口を押えている。だけど驚いたことにノムさんが、前に出た。

「そうじゃ、ミツヒコはうちの子じゃ。砂漠の民ではない」

「ミツヒコはこの村の子よ」ハタさんも叫んだ。

「勝手に連れて行くな」ヤマさんも前に出た。

 そこにいた一人ひとりが、僕のことをこの村の子だと言って、少しずつ前に出てきた。たいまつを持ってフィヨに詰め寄るように少しずつ輪を縮めていく。

「砂漠の民は砂漠に帰れ」

「帰れ!」「帰れ!」

 さっきまで怯えていた村人たちが、ノッチの一言をきっかけにして急に沸き立った。それは僕のためだ。僕のことをかばってくれているんだ。

 たいまつを掲げて、足を踏み鳴らし「帰れ」と叫ぶ村人たち。こんな夜にその姿はとても迫力があった。

 だけどフィヨも負けてはいなかった。

「黙れ! お前たち、砂漠の民に逆らってただで済むと思うな。今夜この村中焼き尽くしてやろうか!」

 精一杯の威嚇は多少の効果があった。砂漠の民の力はみんなわかっているのだろう。もしかするとこの中で砂漠の民の怖さを(正しく)理解していないのは僕一人かもしれない。

 村人もフィヨもお互い譲らず、今にも何かが起こりそうなほどに張り詰めていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ