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 ハタさんたちは、ノッチが出かけたのは“今さっき”だと言った。そんなに前ではないはずだ。だったらまだお城には着いていないはずだ。だけど、お城への道を戻っても、ノッチの姿はなかった。

 嫌な予感がする。

 僕は急いでまた村へ戻り、一度ハタ屋の前を通った。ノッチがかけてくる気配がない。

 ノッチ、どこへ行った。

 村の中を探すと言っても、ここから先は畑が広がっている。子どもの姿を探すのは簡単なはずだ。だけど、遠くまで見渡してもノッチはいない。

「ノッチ、どこだ」

 髪の色の薄い女の子が連れ去られる。そのニュースを聞いたばかりで、まさかノッチがいなくなるなんて。

 その女の子はどうなるんだ。

 最悪な想像を頭から掻き出して、ノッチを探す。

「ノッチー!」

 僕が大声で叫びながら、ダチョウで走り去るのを何人もの人が見ている。誰でも良い。ノッチがどこにいるのか教えてほしい。僕がノッチを探しているのがわかるはずだ。

「ノッチー!」

 どこにもいない。そんなはずないのに。

 もうこの時には、僕の中でノッチが連れ去られたことは確定していた。

 こうなっては、ノッチを探しても無駄だ。ノッチを連れ去った人間を探さなければ。探すのは、砂漠の民だ。

 無事であってほしい。

 見つかってほしい。

 そうでないと、僕は気が狂いそうだ。

「ノッチー!」

 わかっている。ノッチを呼んだって、きっともう捕まっているのだから、答えるはずはない。だけど、それ以外にどうしようもない。

 ついに村を抜けて、ポワルドゥルキャロットのテント群に出た。さすがにその中はダチョウを走らせるわけにはいかない。だけどこの中に逃げ込まれていたら、探すのは困難だ。

 テント群の脇をぐるりと見渡しながら、ダチョウを走らせる。

「ノッチー! どこだー!」

 僕が叫ぶと、テントから幾人かポワルドゥルキャロットの人たちが出てきた。だけどノッチの姿はない。

 迷子を捜しているんじゃない。

 誘拐された子どもを探しているんだ。


 その時だった。どこかから歌が聞こえたような気がした。


♪みちはどこからきているの

 おそらはどこまでつづいているの

 みえないところでも

 わらっているひとがいる

 みんなみんな、わらっている♪


 かすかな子どもの歌声が聞こえた。

 ダチョウの足を止め、その上でじっと耳を澄ます。

 リーンと鈴の音がする。あの音は聞いたことがある。それと一緒に子どもの声がするんだ。不思議なことだ。だって、あの鈴の音は火事の前に聞いたはずなのに、なぜそれが子どもの歌声と一緒に聞こえるんだ。


「あっちだ」

 声は荒れ地の方から聞こえてくる。


♪みちはどこからきているの

 おそらはどこまでつづいているの

 みえないところでも

 わらっているひとがいる

 みんなみんな、わらっている♪


 この歌は、ノッチの歌だ。前にノッチが歌っていた。ノッチは絶対にこっちにいる。

 ダチョウを走らせたいのをこらえて、かすかな音を頼りに荒れ地へ少しずつ向かっていった。

「もっと右の方だ」

 荒れ地の右の方は木が生えているところが多い。サボテンのようなゴツくて低いものだけど、身を隠すこともできるだろう。

 だいたいの方向が定まると僕はまた、ダチョウを走らせた。

 ダチョウを走らせると、音は聞こえにくい。だけど仕方がない。急いだほうが良いと思うんだ。どうぞ、無事でいて。そう祈りながら荒れ地へと進んでいった。


 荒れ地には人影はない。ごつごつした土と石、そのくせ湿った暑い空気が漂っていて、こんなところでダチョウを走らせていると、ダチョウだけでなく僕もへばりそうだ。日本の真夏のような暑さとだるさ。こんなことなら、何か日よけになるものを持ってくるべきだった。

 熱い風に交じってリーンと鈴の音が聞こえる。僕に何かを伝えようとしているように聞こえる。

 動くもののない荒れ地を、じっと目を凝らして見ていると、向こうのサボテン(ということにしておく)の根元に人がいるのが見えた。

「あれだ」

 直感がどれだけあてになるかわからないけれど、この荒れ地に人なんていないんだから、あれしかない。

 ダチョウで近づくにつれ、そこにいる人影がはっきりと見えてきた。

 それは、日よけの布を目深にかぶった二人連れだ。あの時に見かけたあの金髪の人だろう。一人は子どもで、もう一人は男だ。心のどこかで彼らがノッチを連れ去ったのではないかと思っていたんだ。しかしノッチの姿は見えない。泣き声とかがすればわかるのに、それも聞こえない。

 近づいていくと、サボテンの根元の彼らは僕に気付いた。

 一人がザっと砂を巻き上げて立ち上がり、こちらに向かって威嚇するような態勢をとった。特に武器を持っているようには見えない。

 立ち上がったのは、小さい人のほうだ。あの時の背の高い人はうずくまったまま。と、なぜそこにうずくまっているのか、わかった。足元に頭陀袋が転がっている。それを守っているんだ。

「はっ」

 全身の毛が逆立つ気がした。

 あれはノッチだ。

「ノッチを返せ!」

 ダチョウで猛スピードで近づくと、さすがに彼らはひるんだ。




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