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「この土地は、我らの祖先井戸丸の12人兄弟が祝福され民が増えた時、12部族のひとつとして賜ったものだ」

 デュデュの声は威厳に満ちている。この土地の領主としての誇りを語る声だ。

「デュウの一族はこの土地で祝福を得る。ここから離れてはデュウの民ではない」

「つまり、土地が大切だと」

「いいや違う。井戸丸の12人兄弟の名前を継ぐものが、この村の領主でなければならない」

「つまり、名前が」

「だが、領主は民あっての領主である」

 全部大事ってことはわかった。それじゃまたどうどう巡りだ。

「何もかもを守りたいのなら、戦いに勝つしかありません。だけど負けることもあるって、あなたはわかっています。その時の話をしているんですよね?」

「そうだ」

 僕は最近、お城にある文献をいくつか読んでいるから少しはわかることがある。

 井戸丸の12人兄弟の父は、偉大な王だったということだ。その王が息子たちに世界中の土地を祝福をもって分け与えたのだ。赤毛の民、つまりポワルドゥルキャロットの人たちだけは、兄弟をつなぐ平和の使者として土地を分け与えず、テント暮らしの祝福を与えたと書いてあった。

 さらに年功序列、一番上の兄の部族には特別な祝福が与えられていて、それによってすべての兄弟が平和を保つと書かれている。

 でも僕は思う。

 そんなの、昔の話だ。だってすでに平和じゃないんだから。どこかで何かが崩れてしまっている。デュウだけが古いしきたりを守ったところで、守り通せるとは思えない。そりゃ、僕だってその古いしきたりが悪いものだとは思わないよ。たぶん、この世界ではその偉大な王の祝福は大したもので守るべき掟なのだろう。だけど、誰かが守らなかったためにほかの部族が危険な目に合うのなら、それを守ってばかりもいられないじゃないか。

「じゃあ、あなたにとって、一番大事だと思うものは何なんですか?」

「民だ」

 デュデュは即答した。

 最初から彼にはわかっていたんだ。だけど、古いしきたり、古い祝福、名前を継がなければならない責任をないがしろにはできない。

 でも彼にとって大切なものは、民だということはわかっているんだ。民あっての領主と彼は言ったけれど、本当にデュデュは素晴らしい領主だと思う。

「だったらイザという時には民を守ろうじゃないですか。それで良いんです」

「そうだな」

 デュデュはしっかりとした顔をして誇らしげに笑った。やるべきことを知っている領主の顔だ。


 僕たちは城へ戻ることにした。デュデュは帰り道、僕の話にあった“疎開”について聞きたがった。それほど大がかりではなくても、避難に備えることは大切だと思う。前に火事があった時にノッチが機織りの道具を持ちだそうとして気づいたこと、つまり、避難道具をいつでも準備しておくことを提案するとデュデュは早速どうしたら良いかを考えているようだった。


 荒れ地を戻りポワルドゥルキャロットのテント群の脇を通った。もう日が昇ってきたこともあり、テントの外には幾人かの人が作業をするようすが見られた。

 その中にちょっと目を引く二人組が歩いていた。

 ぱっと見はなんてことない、ポワルドゥルキャロットの人なのだけど何か雰囲気が違うような気がして、僕は思わず二度見した。

 一人はとても背が高く、もう一人は子どものようだ。異様なのは二人とも目深に日よけの布をかぶっていることだ。砂漠や日差しの強いところを通るこの赤毛の一族は日よけの布をかぶっていることが多い。だけど、デュウの村にいる間は日差しが強いとは言え、テントにいることが多いからそんなに日よけの布はかぶらない。それなのに、この二人は顔をしっかりと隠すようにしながら歩いているのだ。

「ミツヒコ」

 思わずじっと見つめてしまっていたらしい。後ろからついてきたデュデュに小さな声をかけられてハッと我に返った。

 そうだ。顔を隠す人をジロジロ見てはいけないんだった。

 確か、もう心に決めた人がいるから、とかそういう話だ。慌てて目をそらして前を向いた。少しダチョウを速足にして何も見なかったふりをして通り過ぎる。

 でも待てよ?

 それって女性だけだよな。でも、今のあの二人連れの一人はどう見ても男の体格だと思う。背丈が高いだけじゃなく、体つきもがっちりしているように見えた。それとも、すごく体の大きい女性なのだろうか。もしそうなら、それこそジロジロ見たら失礼か。

 気になって、もう一度、気を付けて振り返った。

 さりげなく振り返ったつもりだったのに、背の高い方と目が合った。慌てて目を伏せる。

「・・・!」

 言葉にならない、だけど僕の心臓が掴まれたような気がした。

 あの人の目は、僕を見ていた。まるで射貫くようだ。視線だけで殺されるような強い力。見たこともない目の色、そして、チラリと見えた前髪は・・・金色だった。



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