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 爺さんの家には、爺さんとばあさん、その子どもが4人いる。長女だけ結婚していてその娘が3歳になるノッチだ。

 爺さんはノムラマという名前らしい。ノムラマなのか、ノ・ムラマなのかはわからないけれど、聞いてる感じだとラマは家族共通らしい、つまり苗字だと思われる。それか、単に語尾にラマとつける習慣があるだけかわからない。日本でも○○太郎、とかあるしな。

 近所の人には、ノムさんとか、ムラさんとか、ノムラさんとか、呼ばれている。ノムラさんって、日本人かよ!

 ということで、この地域の名前の持ち方はいまいちわからなかった。もう少し慣れてきて、言葉がわかるようになったらわかるといいなあ。

 しかし、とりあえず爺さんのことはノムさんと呼ぶことにした。


 ところで、僕は爺さんの部屋に住まわせてもらっているが、高温多湿の地域ゆえか、布団はない。布団に類するものすらない。畳のような敷物の上にじかに寝ころぶのみという、いたってシンプルな寝床である。

「さ、じゃあ寝ようか」

「はい」

 とか言っても、なんの準備も必要ない。

 しかし、枕くらいは欲しいなあ……


 寝る時間はかなり早いと思う。

 僕の時計が合っているかはちょっと自信がないけれど、とりあえず時差がないとして、いつも寝るのは夕方の7時くらい。日が沈んでしまうと、電気のないこの地域では起きていることが面倒くさくなるらしい。

 わりと暑いところだけど、夕方になると涼しい風が吹いてくる。まあ、湿度は高いけれど日本の夏よりはずっと寝やすい。

 あ、電気はないと言ったけど、中庭にはなんか不思議な装置があって、夜になるとそれがボーっと光っている。一応どの部屋からもその光りは見えるから、真っ暗闇になることはない。

 あれはなんだろうなあ。

 イメージ的には、昼間日の光をためておいて、夜になるとLEDに電気が付く、日本のガーデニングのランプに似ているけど、そんな高度な文明を感じさせるところはない。本当に単なる箱で、しいて言えば、中に鏡のようなものがある程度だ。まあ、とにかくアレがこの地域の文明と言えると思う。


 僕はバックパックの中から固いものを取り出し、高さを調節して、それを枕にして寝ていた。

「ミツヒコ、いっしょにねよ」

 気が付くと、ノッチが部屋に来ていた。

 ノッチは、いつもは両親と隣の部屋で寝ているけれど、時々こうやって爺さんの部屋にやってくる。

 なんていうか、僕、すごくなつかれてるんだよね。

 嬉しいけど、3歳の女の子なんて接したことがないから、どうしたらいいかよくわからない。

「お、ノッチや、こっちへおいで」

 と、爺さんが手招きして、僕と爺さんの間にノッチを寝かせる。変な川の字になる。

「ねえねえ。ミツヒコは、どうして、それをあたまの下におくの?」

 ノッチが聞いてきた。それっていうのは、僕のバックパックだ。

「頭の下にまくらを敷いて寝るのが、習慣なんだ」

「まくら? まくらって?」

 英語で言っても日本語で言っても、通じないよな。この地域にはないものだから。

「僕のいた国では、こうやって寝るんだ」

「ふうん。でも、そんなのがあると、転がれないよ?」

 いやいや、なぜ転がろうとする。

「僕は眠っている時は、転がらないんだよ」

「へんなのー」

 変か!?

「さ、ノッチ、もう寝なさい」

 爺さんがノッチに言うと、ノッチはすぐに眠ってしまった。


 そうか。

 こんな他愛もないことも、全然違うんだな。眠っている間に、転がることが前提なんて、面白いよな。考えてみりゃ、布団がないんだから、一か所にじっと寝てる必要ないんだもんな。


 なーんてことを考えていた、次の日。

「ミツヒコ、これ、あげるよ」

 と、ノッチが何やら不思議な形の不思議なものをくれた。

「ありがとう……これ、なに?」

 この地域の籐のような植物で編まれている、そうだな、いびつなティッシュボックスというか、それよりはもっと丸みがあるんだけど……あ、大き目のポーチ? かご? 物入れ的な?

「ねんねの時につかうやつ。あたまの下にしくの」

「ああ、枕!? わあ、ノッチ、ありがとう」

 びっくりした。

 だって、ノッチは枕なんて知らないのに、僕が寝るときに必要だと言っただけで、こんなに素敵なものをくれたんだ。大きさといい、固さといい、枕にぴったりだ。

 中は空洞なのに適度に弾力がある。どうなってるんだろう?

 くるくると回しながら造りを観察していると、ノッチの母親である(ノリナラマさん、略して)ノリーナさんがやってきた。

「みつひこのために、ノッチが作ったの。使ってあげてね」

「えっ、手作り!?」

 驚いた。

 たった3歳の子どもが、こんなすごいものを作れるなんて。

「すごい、ノッチ上手だね。ありがとう、ありがとう」

 僕のつたない言葉で、ちゃんとこの気持ちが伝わっただろうか。だって、本当に感動したんだ。僕のためにわざわざ作ってくれるだけでもすごく嬉しいのに、見たことも聞いたこともないようなものを、作るのは大変だっただろう。僕のことを考えてくれたから、こんなに素敵なものができたんだ。これが感動せずにいられるか。だから、本当に、最上級の気持ちを表したかった。

 だけど、僕は言葉がまだうまくできない。

 ありがとう、と伝えるだけしかできないことがもどかしかった。だけど、嬉しい。

「えへへ」

 ノッチを見ると、なんだかはにかんでいた。

「ありがとう」

 これしか言えないけど、僕はノッチの作ってくれた枕をぎゅっと抱いて、精一杯の感謝を込めてノッチの顔を見てお礼を言った。



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