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 午前中は言葉の勉強のため、先生のところにいることが多い。はじめのうちは敬語の勉強、それと文化のことを教えてもらっていたけれど、最近では文字も覚えてきて、読み物もできるようになってきた。本(羊皮紙でできた巻物)はそんなに多くないとはいえ、ここはお城だからそれなりにある。それに、どんな文化の土地でも先生のような学者は、その言語に対して理論を確立してそれを残そうとするものだということを僕は知った。

 デュウの村の文字は基本的に表意文字だけど、実は表音文字も使われているから覚えることがたくさんあるんだけど、表意文字は基本を押さえるとあとはその組み合わせだから僕には難しくなかった。なぜなら、そういう考え方は漢字と同じだからだ。つまり、たとえば水に関係のある物はサンズイだったり、植物に関係のあるものは草カンムリだったりするのと同じということ。

「ミツヒコはもう、この文字も覚えたのですか!」先生もびっくりしてくれた。

 この分なら古文書の解析もそろそろできそうだ。ああ、午後の仕事が終わったら、夕方からまたこっちに来て勉強させてもらおうかな。

 なんて思っているときだった。

「お邪魔をして悪いが」とデュデュがやってきた。

「これはこれは、デュデュ」

 先生が恭しくお辞儀をしている。こういうところを見ると、ここがお城だって思い出すんだけど、普段のデュデュの気さくな様子を見てしまうと、デュデュがこの村の長であることを忘れてしまう。

「ミツヒコをお借りできないかね?」

 デュデュがそういうと、先生はドウゾドウゾと僕の勉強を切り上げてしまった。先生にとってはデュデュは一番だからね。うん、行ってきます。


 デュデュの執務室に行くと、数人の兵隊が待っていた。彼らは主に警備をする人たちで黄色と茶色と緑の縞模様のネクタイをしている。

「村の視察ですか?」

「そうなんだ。ポワルドゥルキャロットの人たちが砂漠の民を見かけたという話もあるし、ここのところ火事も多い。それにポワルドゥルキャロットの人たちだけでなく、ほかの村からも人が入ってきているから、少し警備を強化しようということになってだね」

「それで、兵隊の見回りを増やすのだが、デュデュも参加したいと言い出しまして」

 兵隊の一人が困ったように言った。

「それで、外出と来客のない日を教えてもらいたいんだ」

「なるほど。それで僕が呼ばれたんですね。基本的に休曜日はデュデュの予定も入ってません。でも、その日にデュデュがお城から出かけてしまうと、お城が機能しなくなってしまうと思います。あとは、だいたい毎日来客の予定が入っていますよ」

 そう。

 最初のころは、毎日デュデュに次の日の来客や外出の予定を聞きに行っていたのが、だんだん、僕が管理して、デュデュに知らせに行くようになったんだ。だから、今は僕の方がデュデュの予定に詳しい。ていうか、本来城主はそうあるべきだよね? それで僕は、休曜日には来客の予定を入れないように調整していたんだ。

「おーう、そんなに予定が入っているのか」

「だから私たちで警備しますから、デュデュは我慢してください」

 兵隊さん、デュデュ相手でもかまわず言うねえ。でもまあ、そうだよね。どっちの気持ちもわかるよ。

「僕もそう思います」

 僕がそういうと、デュデュは少しうなだれた。でも警備強化するって兵隊さんたちが言ってるんだから、それで足りるんだ。デュデュが出張っても意味はない。だけど、デュデュも村の様子を見てみたいんだろう。

 それで兵隊さんたちが執務室から出て行ってから、こう切り出した。

「デュデュ、兵隊たちの警備は基本的に陽のある時間でしょう? あなたもその時間はお忙しいですから、村の警邏は時間的に無理だということは理解してください。それでもし、それでも気になるし、体力的にも問題がないというのでしたら、兵隊たちの出ない時間帯、例えば早朝や夜間に少し見回るというのはいかがですか?」

「夜間?」

 デュデュ、急に眠そうな顔しないでください。

「そうです。前から疑問に思っていたのですが、この村の人は日が暮れると家からでませんよね。どうしてですか? 夜間に外に出てはいけないという決まりでもあるのですか?」

「決まってはないが、だって、夜は暗いじゃないか。それに誰もいないし」

 おっと。意外と簡単な理由だぞ?

「誰もいないから出ないんですか?」

「ひとりで外にいても、寂しいだけじゃないか。いや、それより、見回りは人がいるときにするから見回りになるんじゃないかね? 人々がどんな暮らしをしているのかを見たいんだよ」

「そういう視察でしたら、空き時間にサーっと行ってくるしかないですね。でも、それでしたら、警備ということにはならないですよ?」

 デュデュは少し考えたようだった。

 デュデュの言う警備は、いつも行っている視察とは違うものだって気づいてなかったのだろうか。

「うむ。つまり普段と違う目で見るということか」

 いや、違うと思いますが。でも、それで納得したらしい。

「では早朝に行くとしよう。毎朝日の出の直前に起こしに来てくれ」

「はい? 僕がデュデュを起こしに行くんですか?」

 なぜそんな話になった。ていうか、僕が起こしに、しかも毎朝だとう!?

「大丈夫だ、私は一人で寝ているから、他の者を起こすことはないから」

 そういう問題じゃない気がしますが・・・仕方がない。

「わかりました」

 ということで、僕は毎朝日の出の前にデュデュを起こしに行くことになった。早起きは慣れてるんだ。今までエルビュを採りに行ってたからね。



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